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 フランツさんが慣れた足取りで通路を進んで行く。私はその後ろをキョロキョロ周りを見渡しながらおのぼりさん丸出しでついて行く。更にその後ろをしとやかに歩きながらルイーノさんが。

 社会見学に来た学生が先生について色々見回ってるみたいな気分だ。
 そして会話もなく一列に並ぶ私達を見て、給仕らしいシンプルだけど仕立ての良さそうな服に身を包んだ人達が道を開けて頭(こうべ)を垂れる。

 ハッキリ言って、ものっそい居心地悪いです。

 花嫁について以外にも聞こうと思っていたらルイーノさんが戻ってきて「陛下がお呼びですぅ」と言ってのけた。
 陛下って王様だよね。王様が呼んでいる、だと?

 恐々とする私にフランツさんはあっさりと「では行きましょうか」なんて簡単に促す。
 
 神官だ王様だ宰相だと、現代日本じゃ現実感のないファンタジーならではの職業名が飛び出して正直まだ頭が追いつかない。

 けどこの、掃除の行き届いたピカピカの大理石の廊下に白亜の壁、高価そうな陶器に飾られたこれまた立派な花、掛けられた大きな絵画達。

 ザ・キャッスル。RPGでお馴染みの王様のいるお城を体現しちゃったようなこの城に、ああ私違う世界に迷い込んじゃったんだなぁってしみじみ思えた。

 とかなんとか、半分現実逃避してる間に目的地に到着したようです。逃げたい。

「失礼致します」

 フランツ様がノックをすると内側から扉が開かれた。
 中は淡い色調でまとめられた調度品や長いテーブルとソファが置かれてもなお余りある、広々とした部屋だった。

 扉の前には左右に警備の人が立っていて、部屋の奥には何人かのメイドさん。
 部屋の真ん中にあるソファに夫婦らしき男女と、彼らの子どもだろう女の子が鎮座していた。
 
 男の人は悠々と足を組んで寛いだ様子。女の人はニコニコと微笑みながら飲み物を飲んでいる。
 女の子はまるでお人形のようにちょこんと前を向いて座っている。

 おおう眩しい! ただそこにいるだけで高貴なオーラを纏っている、生まれながらにして人の上に立つ事を定められた者にしか許されないこの存在感。

 この方々が王様と王妃様、そしてお姫様ですね分ります。自然と床に座り込んで「ありがたやありがたや」ってやりたくなる。絶対私の祖先はド田舎農民だ。

「陛下、ユリスの花嫁様をお連れ致しました。こちらが我々の呼びかけに応えて下さったハル様です」

 フランツ様がそう言って私の背中を押した。一歩前に出ると王様は私の全身をざっと見て首を傾げた。
 王様って言うと立派な顎髭をたくわえた白髪の、トランプのキングみたいなのを想像していたけれど、目の前にいる人はまだ歳若い。

 子どもの女の子がまだ小学生くらいだし、三十代前半ってところか?

「やはりその子が、か。ユリスは随分と可愛らしい方を召されたのだな」

 組んでいた足を解いて、体を前に傾けた王様は少しだけ笑った。

 今のは容姿云々の事を言ったのではなく、こんな何も出来無さそうな娘がどうして選ばれたのかっていうような意味合いだ絶対。

 それについては私も激しく同意だから何も言い返さない。役立たずだろうって言われた気がするから頷きもしないけどね!
 王様の言外の思いを察したフランツさんがクスリと笑う。

「私は成程、と納得しましたよ」

 何が!? 神様の思考を理解できたとな!? さすが神官様という事なのかしら。

「お前がそう言うならそうなのだろうな。まぁ確かに、面白くはなりそうだ」

 値踏みするようにもう一度私を見てニヤリと笑った。この王様さり気無く性格悪そう!
 
 私の勝手な王様像とかけ離れていた事の動揺と、全く話について行けない事実に困り果ててフランツさんを伺った。

 心得てますよと言わんばかりに頷かれる。ああこの人の温和さが救いだ。

「ハル様はこちらの状況を何も聞き及んでいない状態で召されたようで。ご自身がどういったお立場に立たされておいでなのかも、理解されてない様子」

 なんかそう言われるとアホの子みたいじゃないか? いやフランツさんの言った事は全てその通りなのですが!
 
「訳も分からぬまま単身放り出されたのか。神の祝福を受けた者だというのになかなか不憫だな」

 それは皮肉ですかコノヤロウって言いたくなったけど、意外にも王様の表情には同情の色が浮かんでいた。
 言葉のまんま、異世界でボッチにされてしまった私を憐れんでくれているようだ。そこまで悪い人ではないのかな。

「しかもこちらの願いを見事叶えなければ元の世界には帰れない。幼気(いたいけ)な娘に全く神というのも理不尽な事をする」
「え?」

 願いを叶える?
 そういえばコスプレお兄さんも同じような事を言っていた。望みを叶えたら帰してやるとか。
 いや本当王様の言う通り、ユリスさんったらただの平凡女子高生になんちゅう無理難題押し付けてくれてんだ。
 しかし来てしまったものは仕方ない。

「で、私が叶えなきゃいけない願いってのは何なんでしょう」

 王様の願い事を私なんかが叶えられるとは到底思えない。
 この国の更なる繁栄を、とか宣(のたま)ったら即刻投げるけどね。そんなものはお偉いさん方がうんうん悩んで考えてくれっていう。それ以外ならまぁ難しくてもなんとか

「ここの所急速に勢力を増大させている魔を打ち払い、この国引いては世界に安寧をもたらせて欲しい」

 なんとかならんわ。投げだ投げ!
 王様がユリスの花嫁は本当に私なのかと疑問に思い、そして同情してくれた真の意味を理解した。




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