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 ディーノとブラッドに別たれたまま生きていられるのは、貴女の、ユリスの力のせいか?
 
 そう侯爵に言われた時は意味が分らなかった。
 ディーノもブラッドも、同じ人の事でしょう?

 でも後から後からじわりじわりと今まで見て聞いてしてきたものが、頭の中で合わさっていって。

 辿り着いた答えは私の常識から言ったら遥か遠く離れたもので、全く思いもよらなかった。それは私が異世界人だからってわけじゃなくて、この世界の人にとってもそうだったみたいだけど。

 ソレスタさんでさえ、恐ろしいなんて言っちゃうくらいの答え。でも事実それは起こっている。

「折角の機会なんだし、ちょっと遡って侯爵の若かりし頃から語るとしましょう。侯爵……当時は爵位は継いでなかったわね。ウォーレンは夜会に出れば女性の視線を掻っ攫う色男でねぇ、噂もそりゃぁ華やかなものだったわ」

 侯爵……そういや侍女さんと何やらアレな事してたね。そっかそういうキャラか。
 ディーノと似た顔でそういう事されるとショックなんだよね。関係ないんだけどなんとなく。

「そんな百戦錬磨のウォーレンの恋のさや当てなんて事がされるくらいだったんだけど、なんと彼を見事撃ち落としたのは、当時まだ社交界デビューしたばかりの少女だったの。しかも彼女は没落しかかった名ばかり貴族の男爵家の娘。色んな弊害はあったけれど、めでたく二人は結ばれて幸せに暮らしましたとさ」
「絵に描いたシンデレラストーリー!」

 玉の輿か、玉の輿婚か! ときめくね、女の子なら一度は憧れる王道ラブストーリーじゃないの。素敵だわぁ。

「ほんの数年の間だけ、ね。結婚して四年後に子を授かった。皆が大手を振って喜んだわ。だけどお腹の中で赤子が育つにつれてその子が異常なまでに強大な魔力の持ち主だと分かった。母親の胎内にあってさえ隠し切れないほどの……、しかも有り得ない事に光と闇両属性の反応が確認された。双子という可能性も考えられたけれど、それはこの際関係なかった。なんにせよ、その膨大な魔力に母体が耐えられなかったのよ」

 一度そこで言葉を切り、目を閉じた。
 二十数年前の当時を思い出しているのだろうか。僅かに眉間に皺を寄せた。

「子を堕ろすにはもう月が経ち過ぎていたし、彼女は頑なに産みたがった。……その結果はハルちゃんも知っての通り子を産みすぐに母親は命を落とした。
 双子かと思われた子は予想に反して一人だった。一人で二つの属性の魔力を持つ稀有な子供をウォーレンは一度も抱き上げる事なく教会に預けた。悪魔の子だ、殺してくれと言って」

 ソレスタさんに軽く頬を叩かれて、ずっと息を止めていた事に気付いた。

 多分これを漫画や小説で読んでいたら私は特には驚かなかっただろう。そこまで斬新なシナリオじゃない。

 でもそれはシナリオとしてはという事であって、事実として受け止めるにしては重すぎる。
 私が呼吸を再開して落ち着いたのを見計らってまたソレスタさんが話し始める。

「赤子を預かった教会はその魔力の異質さに慄きながらも歓喜した。これだけ大きな力であれば必ず聖剣に選ばれる、今までにない破格の力を持つ教会で育てた子が聖騎士になれば……人々の教会への関心と信仰心はより確立されたものになる。
 でも一つ疑問があった。光と闇、どちらも手にするこの異質さは神に認められるのか? どちらか片方だけでも十分選ばれるに値する力なら片方だけでいい。だから、別けたのよ」
「別けたって……」
「ほんと、よくもアタシに隠れてコソコソと大胆な事してくれたものよね。人から魔力を取り出す術ってのはそんなに珍しいものじゃないわ。教会も闇属性の魔力のみを抽出して捨てようとしたらしいんだけど……身体から引き剥がしたはずの魔力は……何故か人の形をしていた」
 人の形。想像の域を超えてしまっていて、なかなか頭の中で整理出来ない。
 ある程度は自分で考えていたはずなのに。
 
 人の中に魔力があるんじゃなく、魔力が人の身体を作った。人を模したというべきか。
 創られたのが、レイ。
 
「光の属性を持ったそもそものウォーレンの息子はディーノ、闇の魔力に創られた方の子はブラッドと名付けられ二人は神殿で育てられる事になった。アタシがこの事実に気付いたのは五年後、フランツがこの国の神殿に赴任してきてからよ。
 すぐさまディーノは祖父である宰相閣下に引き取られ、アタシはブラッドを保護し魔術師として何処に出しても恥ずかしくないよう育て上げたわ」
 どこか誇らしげにほほ笑んだソレスタさんに、私も身体に入っていた力を抜いた。
「性格的には何処に出しても恥ずかしいけどねー」
「あれは父親譲りよ、アタシじゃどうにもなんないわ」
「そりゃあ仕方ない」

 なんて、この場で笑う私は薄情なんだろうか。和やかな雰囲気で話すような内容じゃないのは分かってるんだけど、だからこそちょっと肩の力抜かなきゃ最後までもたない。



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