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「ブラッドが生かされてきた理由が分かる? 人として有り得ない存在であっても、現に人型を取って魔力を操る彼もまた聖騎士に選ばれる可能性があったからよ。消してしまうには惜しい逸材だったの。……そうしてどちらか片方だけがこの国に必要とされる、そんな強迫観念の中で二十年、彼らはずっと生きてきた。
 そして一年前、ディーノの前に聖剣が現れた。聖剣がディーノを選んだ今、ブラッドは教会にとって不利益な存在に成り下がった。人為的に聖騎士を作り上げようとした罪、偶然にしろ、人間としてなんら遜色のない人格を持つ者を生み出すだなんて邪法だわ。やはり紛い物の魔力の人形など神は選んだりしない、そんな馬鹿な事をほざいて教会はブラッドを消しにかかった」
「そんな勝手な……!」

 そもそも自分達のせいで……。

「アタシは抜け目ないブラッドの事だから、まんまと逃げ遂せたんだとばかり思っていたけど、実は捕まって神殿の地下牢に閉じ込められていたのね。
 まぁ、その間にブラッドという名はディーノに返還され、あの子は事実上存在し得ない者となった」

 だから私が名前を聞いた時に、ブラッドレイと答えた。
 ブラッドの一部。以前ブラッドだった者というような意味合いで言ったのかな。
 まるで彼らしくないネーミングだわ。
 しかし、なるほどね。
 
「ディーノとレイ……いえブラッドの因縁は分かったけど、まだブラッドの今回の行動の理由は分かんないなぁ」
「あの子をブラッドって呼ぶの?」
「意味が分っちゃうとレイって呼ぶ気にはなれないんで。ディーノはディーノだし、ブラッドって呼んで問題ないでしょう?」
「各方面から色々問題提起されると思うけど、貴女が個人的に呼ぶ分には許されるかもね」

 誰に何と言われようと、私が許す! このユリスの花嫁様がいいって言ってんのよ、文句あっか!? ってなもんだ。

「なんかねぇブラッドの性格から考えて、聖騎士の座に固執するとは思えないんだよね。むしろそんなのはディーノに押し付けて自分は自由気ままに生きていくって言いそうなのに、どうして命を危険に曝してまで突っかかってくんのかしら」
「自由気ままね、それは教会の存在がある限りは無理よ。何処までも追いかけてくるわ。それならいっそって思ったんじゃない?」
「そうかなぁ、そうなのかなぁ」

 腑に落ちないけど、牢屋に閉じ込められて殺されかけたんだからそうなのかも。
 ディーノを殺して自分が聖騎士になれば教会ももう手を出してこないだろうって事なのかな。

 というか根本的なところから言うと、ブラッドは生に執着しているの?
 ディーノはブラッドが絡んで来なければ、完全に彼の存在を無視している。生きるも死ぬもどうぞご勝手にと言わんばかりだ。

 ブラッドがこの先一生ディーノの前に姿を現さず、出自も黙秘し続けると教会に誓って国を出るなりすれば、穏便に事は解決するんじゃないだろうか。

 生に執着しているなら、生きる事が目的ならそれで済む。
 なのに彼はわざわざ自分に分が悪い、聖剣を持った相手に真正面から突っかかって自らの命を危険に晒す。

「ブラッドはもしかして……死にたいの?」
「えぇっ? まさか、それこそあの子がそんな殊勝な考えを持ち合わせてるなんて思えないわ。あの子は言ってたんでしょ? ディーノを消すのが目的だって」
「そう、だよね」

 自暴自棄になった末の暴挙ってわけじゃない、よね?

「だあああっ!! 分らんっ! 人の……しかもあんな性格破綻した奴の思考なんざ私に理解出来てたまるか!」

 頭を掻き毟る。
 ブラッドの考えてる事が手に取るように分かっちゃったら人として終わってる気がするよね!

 つまりあいつは人として終わっている部類なんだな、納得。
 ぱたんとソファに上体を倒す。疲れました。
 
「うーんうーん、ブラッドォ……」
「ねぇ、ハルちゃんってあの子の事好きなの? ラブなの?」
「はぁっ!?」

 手を突っ張って少しだけ身体を起こす。何を言っちゃってくれてんのこのお爺ちゃん。
 意外にも真面目な顔してるから余計にビックリ。

「さっきからディーノじゃなくてブラッドの事ばっかりじゃない?」
「え!? いやだって、問題を起こしてるのがアイツだから……え、えぇ!?」

 ち、違うじゃない、そんな浮ついた話はこれっぽっちもしてなかったじゃない!

 なんなの、私……気付いたらブラッドの事ばっかり考えてる……みたいな、そんな少女マンガみたいな甘い展開じゃないよね!?
  むしろ殺すだの生かすだのデッドオアアライブの、え、ねぇソレスタさん聞いてる?

 どうしてそんな思案気な表情で俯いてるの? 自分の世界入って無いで私と対話してください。
 私の言い訳を、いや違う言い訳じゃなくて言い分! 意見を聞いて下さい!



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