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 猫耳……だと!?
 
「にゃああにゃあ! 耳と尻尾! さわ、触らせ」

 状況も忘れて男の子ににじり寄ると、彼はびくっと一瞬怯んだんだけどすぐにまた構える。
 やべぇ! すっかり忘れてたわ私この子に襲われかけてたんだった。

 私より少し幼いくらいの少年は、白と茶のまだらな髪に、右目辺りの肌が黒っぽいという、変わった風貌をしていた。

 み、三毛猫……だと!? しかも雄の! 雄の三毛は遺伝子的に誕生する確率がとても低いらしい。
 初めて見たよ、異世界に来てまさか出会えるとは誰が想像できようか。

 私が興奮するにつれて少年の怯えが強くなってくる。これはチャンスでしょうか。

「ちょっと待ってねぇ話し合おう、お互いの事を分り合えば争いなんちょおおおおっ!!」

 私が話し終える前にまた三毛猫が襲い掛かってくる。全然チャンスでもなんでもなかったじゃないか私のバカァ!!

「きゃああああああっ!!」

 手で頭を抱えながらその場にしゃがみ込んでしまった。

「うわああっ!!」

 目を閉じてお経を唱えかけたとき、私以外の悲鳴が聞こえた。
 顔を上げると私の周りをぐるりと取り囲むように炎が立ち込めている。

「ええええっ」

 何がどうなって、どうしてそうなった!?
 真紅の炎が揺らめく向こうで、三毛くんが物凄く警戒した表情で固まっている。

 彼の仕業ではないようだ。というかむしろ三毛くんから私を守ってくれているらしいこの炎。
 不思議と熱さは感じないんだけど触る気にはならない。なにこれ自然発火……のわけないか。

「ハル大丈夫!?」

 すっと炎が一瞬で消えた。イリュージョン? とぼんやり見てたら横からタックルされた。
 首に腕が巻き付いてぎゅうぎゅうと締め上げてくる。く、苦しい。

 視界の端に黒い柔らかい髪が見える。
 お城にいるはずの可愛い可愛い狼族の少年だった。

「ホズミ……なんで」
「ハルが、ハルがいなくなっちゃ、うえぇっ」

 ええええーっ、なんか急に泣き出したよこの子ぉー!
 三毛くんもぽかーんとしちゃってんじゃん。どうしたのよ、クソ可愛いなぁ。

 ちょっとごめんね待ってて、と三毛くんに合図をして私はホズミを宥めにかかる。

「ホズミ、泣かない泣かない」

 しがみついてくるホズミの身体を私も抱き返す。

「ハル勝手にいなくなっちゃダメ!」
「あ、はいごめんなさい」

 随分な泣き声で怒られたもんだから反射的に謝っちゃった。
 勝手にというか、城を出る時もまだホズミは不貞腐れてて全然私の話聞く耳持ってくれなかったんだもん。

 後でルイーノに説明しといてねって一応頼みはしたけど。
 まさかあの人、けしかけたんじゃないだろうな。うぅんルイーノならやりかねない……。

「ハル帰っちゃうのやだけど、勝手にいなくなるのもっとダメ!」
「ホズミ……ごめんね、でもルイーノにはちゃんと言ったんだけど、何も聞いてない?」
「……ボクが、ずっと、寝る部屋閉じてたから、出てったって」

 ルイーノーっ!! こんな小さい子に何恐ろしい嘘植えつけてんのよ!?
 確かにホズミが寝室で籠城なんてするからソファで寝てたけど、だからってそれが理由で急にいなくなるわけないじゃん!

 それでホズミは責任感じちゃってわざわざこんな所まで追いかけてきたってのか。
 え、どうやって?

「まさかホズミ、一人で来たんじゃないよね?」

 その質問にホズミはギクリと身体を揺らし、左右に視線を彷徨わせた。
 ど、どっち? 一人なの誰か言えないような人と一緒なの!? 分かんない!

「ホズミ、正直に言いなさい。いかがわしいオジサンにホイホイついてきたんじゃないでしょうね!?」
「い、いか?」
「女の人でも可!」

 昨今の変態さんは多種多様になっているという。女性といえども危ないのだ。
 こんな目に入れても痛くないくらい可愛いホズミなんだから、ただそこに居るだけで人を寄せ付けてしまいそうだ。しかも見てみ? この獣耳と尻尾。なんだよ、このナイスアイテム。

 触りたくて触りたくてムラムラしてくるでしょう?
 は? 私が一番の変態? そんなわけないじゃない。私はホズミの保護者です。違います、変態じゃなく保護者です。最重要ポイントなので二度念押ししました。

「お、おとこだよ」
「男ーっ!? どこのどいつだ、警察に突き出してやる、ホズミその変態野郎は今どこに」
「それすた」
「あんのド変態エロ賢者ぁっ!! て、あ、ソレスタさん?」

 そうか、普通に考えてソレスタさんと一緒だよね。うん、現れたタイミングからいっても。
 ちょっと頭に血が上り過ぎて思考が変な方向に偏り過ぎた。

「ソレスタさんなら今町の方に居るけど、どうしてホズミは一人で森に来ちゃったの? 危ないじゃない」

 森のくまさんにストーカーされちゃったらどうするのよ。
 どこまで行ってもホズミが変態に狙われる妄想から離れられない私。いやもう本当にお姉さんは常に心配なのよ。

「ちょっと、ここ、気になって」

 ホズミは私から視線を外すと、ぐるりと辺りを見渡した。追うように私も彷徨わせる。
 あ!

「ごめん君の事忘れてた!」

 すっかりと! ぼーっと突っ立ってる三毛くんの事をようやく思い出しました。



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