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「こんな子だけど連れてったら役に立つわよ。なんてたってユリスの花嫁だからね」
「え、お嬢ちゃんユリスの花嫁様だったんか!?」
「おじさん気付いてなかったの!?」

 ほんとにのんびりした人だな!! 良いキャラしてんなぁもう。

「ハルちゃんがいれば力の増幅も思いのままなんだから獣族も怖くないわ」

 私は便利道具か。いやそうなんだろうけど。

「アタシ今なら森ごと焼き払えそうよ」

 いやいやそれ女の子も無事じゃ済まないから! 何の解決にもならないから!
 どんな賢者様だよ恐ろしい発言をさらりとして……。

「いやね、しないわよ」

 私がギロリと睨むと、ソレスタさんは手を振って取り消した。

「でも、こうやって」

 ソレスタさんは私に向き合うように立つと、肩に両手を置いた。ぶわりと風が吹いたみたいに髪と服が舞いあがる。

 目に見えないはずの空気が揺らいで私達を中心に波紋が広がっていった気がした。
 ソレスタさんは目を伏せてじっとしていたんだけど、急に顔を上げた。

「…………」
「ソレスタさん?」

 眉間に皺を寄せて考え込んでしまった賢者の顔を覗き込む。
 その事に気付いた彼は首を振った。

「森へはハルちゃん一人で行ってちょうだい」
「は?」

 即座に聞き返したのは黙って成り行きを見守っていたディーノ。

「何を言ってるんですか!? そんな事出来るわけ」
「アタシとディーノは別件でお仕事よ」
「ハルを一人で行かせるなど!」

 いやぁ、ディーノがすごい必死になってくれるのってなんか嬉しいわぁ。この人心配性だしね。
 にやにやしてしまう。

「まあまあディーノ」
「貴女の事でしょう、何落ち着いてるんですか!」

 私が怒られた。にやにやしてるから余計に怒られた。だって、ねぇ?

「ねぇソレスタさん、私一人で行ってどうにかなるの?」
「むしろアタシ等が行ったら逆効果なんじゃないかと思ってね。まぁもし獣族に出会ってしまって襲わ
そうになったら大声で助けを呼びなさい」
「ソレスタ様!」

 掴みかかろうとするディーノの腕を握って押さえる。ソレスタさんわざとディーノけしかけてるだろ。
 
 私とはまた違った感じに笑ってる。意地悪な人だなぁ。

「ソレスタさん達の別件って?」
「それは、ひ・み・つ」
「うっぜぇ!!」

 ウィンクとかこういうとこすっごい鬱陶しいよね、この賢者。
 さすが七百歳というか、リアクションが古臭いんだ。

「ハル、ダメです」

 腕を掴み返されてディーノが切実な表情で訴えてくる。
 うん、まあ確かに私も一人きりで森に入るのは死亡フラグなんじゃないかと思う。

 しょっちゅう失踪する子なら別にわざわざ探しに行かなくても大丈夫じゃないのとか、鏡もこの際代わりのでいいんじゃないのとか。

 でもね、フラグ回避はもうしないって決めたの。
 面倒だとかやりたくないとか言いまくってるけど、でも行動は起こして行こうと思うんだ。

 何がユリスの花嫁としての使命に繋がるか分かんないから。
 目指せ一級フラグ建築士! 私は建ててみせる……例えそれが死亡フラグであろうともな……。お、なんかちょっとカッコいい?

 いえ死ぬつもりは一切ないけど。

「ディーノ、行ってくるね」
「ハル」

 泣きそうな顔しないで下さい。置いてけぼり食らった犬みたいなさぁ。
 くっ、私が動物に弱いと知っての行動か!? 美形がするとそういう表情も様になるのね! 可愛いけどカッコいいじゃないかもう。

 わざとらしくニコニコ笑ってディーノを見ていると、暫くして諦めの吐息を絞り出した。

「……分りました。行ってらっしゃい」
「うん」
「その代わり、帰ってきたら俺のいう事なんでも聞いて下さいね」
「うん!? 何で!?」
「それはそうでしょう、ハルの言う事を聞くんですから」

 ……? そうなる、のか? あれ私なんか騙されてないか?

 頭を抱えているとソレスタさんが「あらあら、まあ仕方がないんじゃない?」と笑った。すべての元凶はあなただと思うんだけど。
 
 
 解せぬ……。そんな思いを抱えながら一人で森へやってきました。
 さわさわと風に木の葉が揺れて心地よい音を奏でる。暖かな陽の光が差し込んでとても良い感じです。マイナスイオンたっぷり。

 がさがさがさ

「ふぎゃっ」

 ああ、乙女らしからぬ悲鳴を!!
 それより、さっきの何? 何かが横切ったんだけど。チラッと見えた茶髪。人だよね? 二足歩行だったし。 とりあえず追っかけてみよう。

 もしかしたら家出してるっていう女の子だったかもしれない。一瞬だったから性別もよく分かんなかったけど……家出少女以外に獣族がいるっていう森を歩き回ってる町人なんかいないよね。

 あ! 思わず声をあげそうになった。必死で走り去ったであろう方向へ全力疾走していたら、ふいに広い場所に出た。

 地面は花の絨毯が遠くまで広がっている場所だった。その真ん中にさっき私が見た茶髪の子と、もう一人別の子がいた。しかも男の子。

 んん? どういうこった?

 想像していなかった事態に呆然としていたせいか、相手がこっちに気が付いたことに気が付くのに遅れた。

「ゃばっ、いや、あのね、その、決して怪しいものじゃ、偶然森林浴にきた、きゃああああ!!」

 私の言い訳へったくそーっ!! 絶望した!!
 だって怖かったんだもん、男の子の方が私に向かって猛スピードで飛びかかってきたんだよ!

 すんでのところで避けたんだけど、空を裂いた彼の爪が長く鋭く尖っているのが一瞬見えた。
 あんなのに引っ掻かれたら、肌がぱっくりいっちゃう!

 ソ、ソレスタさんのウソツキー!! めっちゃ危険じゃん、いきなり襲われたんですけど!!
 
 青褪めた私を、男の子がギラギラした瞳で睨みつけてきた。
 その彼の耳がふさふさとしていて、後ろには細長い尻尾が見え隠れして……。
 
「ね、猫耳と尻尾きたああああっ!!」





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