▼page.6 それにしても、こんな美しい景色を眺めながら私達はどうしてこんなギスギスしたお家事情の話をしてるんだろうね! 激しく何かを間違ってる。 ここはもっとロマンティックな話をしなければなるまい。 胸きゅんな恋の話をな! 「ねぇディーノ……前から聞こうと思ってたんだけど」 恥ずかしくなって顔を湖の方に向ける。 「ディーノから見て、ルイーノとウィルちゃんってどうなのかな!?」 「……どう、と言われても」 分かるだろ! 私が言わんとしてる事分らないの!? あの二人の関係がこの先どう進展していくかだよ、あるのないの!? ロマンス!! 「お互いの想いは知りませんが、将来を考えるのは難しいでしょうね」 「え、何で!?」 「身分が違いますから。ウィルフレッドは市民の出なんです」 ルイーノはディーノの従姉妹なので、それなりなお家のお嬢さんなんですよ。 身分か……、それは難しい問題だな。ウィルちゃんにその壁を乗り越えてでも! みたいな甲斐性は求められないしなぁ。 ああ残念だ。あの二人のやり取りを見てニヤニヤするのが楽しみだったのに。 「ハルは人の世話を焼く方なんですか?」 いえ、どちらかというとリア充爆発しろって思う方です。 でもこの世界の人の事だと、どっかで二次元的に捉えてしまっているのか、ユー達付き合っちゃいなよ! って思っちゃうんだよね。 「ホズミの件もありますし、面倒見がいいんでしょうね」 ホズミのは、小学生が捨て猫を拾ってきちゃうのと原理は一緒なんです。最初はほんと、深く考えてなかった。 とてもディーノの中で私の行動が良いように解釈されてしまっている。私そんな出来た人間じゃありませんよ。それにね 「返したいだけだよ。みんなに良くしてもらってるから、私も何かで返したい。ユリスの花嫁として結果を残せればそれが一番なんだけどね」 ホズミもう泣いてないかな。ルイーノに慰めてもらってるのかな。 結局あれから殆ど顔を合わせずにキリングヴェイに来ちゃった。 ああもう何やってんだかなぁ私って大反省ですよ。一人ぼっちが嫌だって泣いてたホズミをどうにかしてあげたいのに、逆に傷つけてしまった。 どうしよう、本格的に嫌われてたらどうしよう、私立ち直れない。 「結果、ですか」 ホズミに嫌われる想像をして撃沈してしまった私の隣でポツリとディーノが呟いた。 「ディーノ?」 「結果だけを残して」 「おーい! おーふたりさーん!!」 遠くで呼ぶ声がしてディーノは言葉を切った。 同時に私達も通ってきた並木道を見ると、ここを教えてくれたおじちゃんがトタトタと走っていた。 「良かった、まだここでイチャイチャしてて」 「してませんよ!」 私達のどこをどう見たらそんな表現が出てくるんだ!? ただ普通に話してただけでしょうが! 即座に否定した私と違って、笑いながら軽く流したディーノはやっぱ大人だね。 「で、どうしました?」 「二人を探してるえっらい美人さんが来てるぞー」 美人? ディーノと顔を見合わせた。誰だろう。王妃様を筆頭にお城に居る女性陣は基本的に全員が美人だ。 でもまさか王妃様やラヴィ様が来るわけないだろう……来ないよね? さすがに王都からそんな簡単に出たりしないよね、王様だって許すはずない。ない、はず いやでもあのラヴィ様のフラグ乱立っぷりはもはや鬼畜の所業だからね。油断は禁物なのです。 「あーいたいた、探したわよー!」 手を振りながらゆったり歩いて来たのは、白いローブを着た美青年でした。 「ラヴィ様じゃねぇのかよ!! がっかりだよ!!」 「この美貌の大賢者様の何がご不満!?」 はい、というわけでお姫様じゃなくてソレスタ様でした。 あんだけ否定したのにやっぱラヴィ様じゃん!! ってツッコミする気満々だったのに、どうしてくれんのよ私のこの意気込み。 しかし大賢者様がこんな長閑な田舎町に何の用事だろうか。あ、『美貌の』の部分はスルーで。 そこに反応すると調子乗りそうだからね。 「おお、こうやって並ぶと圧巻だなぁ」 しげしげとディーノとソレスタさんを眺めておじさんが言う。それについては全くの同意見です。 おじさんと私は頷き合う。どんな心の通じ方だ。 そしておじさんの言葉に気を良くした自称賢者様はにっこりと笑った。単純な人だな。 「大祭にアタシも呼ばれてたのよ。貴女達と一緒に来ようと思ってたのに、人が仕事してる間に勝手に出発しちゃうんだもの」 あ、そうだったんですか。それは申し訳ない。ていうか知らないし。王様も一切そんな事言わなかったもの。 「ああその大祭なんだがなぁ」 のんびりした口調でおじちゃんが思案気に喋り出した。 「このままじゃあ中止になりそうなんだよ」 ちゅうしになりそうなんだよ。 とても簡単な事を言われたのに、その意味を理解するのに数秒かかった。 ディーノもソレスタさんもぽかんとしている。 「な、なんだってー!?」 前 | 次 戻 |