▼page.5 うちの両親の話を少し。珍しいパターンの話ではないんだけど、いわゆる出来ちゃった結婚だったわけです。 同じ会社の同僚で、当時二人はちゃんと付き合っていたので、社内恋愛の末の結婚。まあ子どもが出来た時期がちょっぴり早かったよねっていう、周囲の反応はそんな感じだったらしい。 しかし当人達は違っていた。 確かに付き合ってはいたんだけど、母曰く 「私、あの人と結婚する気なんてサラサラなかったのよね」 だそうだ。父も概ね同じ意見とか。どんなカップルだよおい、ねえ!? 気が合うし一緒に遊ぶのも面白いし、付き合うのは全然良かったんだけど、結婚はこの人じゃないとお互い思ってたんだそうです。 でも私が出来てしまったのでそうも言ってられなくなった。 仲が悪いわけじゃないけど、結構ドライな二人で、しかも子供の私にそれを躊躇いもなく言っちゃう両親なんです。 父母ともに自由人なので、休日も思い思いに予定を入れて適当に過ごしてるから、昔から家族で出かける事はごく稀だった。 それに対して、仲のいい家族って言われると私は一番に友人のところを思い浮かべる。あそこは本当に和気藹藹としてて、家も居心地がいい。 おじさんもおばさんも仕事が忙しくてあんまり家にいないし、お姉さんも歳が離れているんだけど不思議と温かみのある家だ。 なんというかサザエさん的な安心感がある。羨ましいなぁと思っていた。 しかし今回ディーノのお父様と対面して分かった。私はとても恵まれていたのだと。 愛があるのかと言われたら正直微妙だけど、親としての自覚はちゃんとあるんだようちの両親は。 だけど侯爵のあれはあかん。あれは駄目だ。 どうやらお母様はディーノが産んですぐに亡くなられたそうで、侯爵のあの態度はそれが原因らしいのだけれど。 それにしたってあの毒はちょっと強すぎませんか。聞いてるこっちが泣きそうになったわ。 ディーノはディーノで何も言い返さないし。 キリングヴェイに来て二日目、既に胃に穴があきそうです。 昨日と打って変わっていい天気。というわけで町をディーノと二人で散歩です。 城下町と違ってここはゆったりとした田園風景が広がっている。 田畑は青々と作物が追い茂り、砂利道のところどころに点々と家が建っている、こののんびりとした田舎町をてくてくと歩いて散策しています。 さっきから擦違う人達がみんなフレンドリーに話し掛けてくれるんだよね。 そんで農作業中だったおじちゃんが、この先に大きな湖があるから行っておいでーって教えてくれたから行く。 だんだんと民家がなくなり道が細くなって辺り木々が増え始め、あれこっちで良かったんだよねぇ? と不安になり始めた頃、急に視界が開けて目の前に湖が現れた。 「おおお!」 澄んだ水が太陽の光を反射してキラキラしている。 自然と両手を広げながら湖の傍まで寄った。 「キレイキレイ! ディーノ!」 後ろの方を歩いていたディーノを振り返ると、彼は眩しそうに目を細めていた。 朱金の瞳が湖の色を吸収して輝いて見えた。風に靡く髪までキラキラしてる気がする。 何これ、ディーノ自体が煌めいてんの? この人発行体なの、美形にだけ与えられた特殊スキルなの? 「話には聞いていましたが、本当に豊かな土地ですねここは」 「良い所だねぇ、侯爵を継いだらディーノもここに住むの?」 今はディーノは宮廷騎士だからお城のすぐ近く、貴族の邸宅が立ち並ぶ市街地に住んでるらしい。 でもディーノは嫡男だって言ってたし、お父さんと不仲とは言ってもいずれは跡を継ぐんだろう。そう思ったんだけど、彼は苦笑しながら首を振った。 「相続はしません。あの人もさせる気はないでしょうし」 「兄弟いるの?」 「さぁ、俺が知る限りではいないと思います」 う? じゃあ、あれ? 誰が継ぐんですか? 「継ぐ者のいなくなった爵位とその領地は一度国に返還されます。その後功績を上げた家に再度振り分けられるんです」 「じゃあ全然知らない人のものになっちゃうって事? ディーノ、それでいいの?」 本来ならディーノが治めるはずなのに、全然繋がりのない他人にあげちゃうなんて。 ディーノが悪代官みたいな人なら同情の余地なしなんだけど、絶対善良な領主様になるよ。私が保障するよ! ぐっと拳を握りしめた私だけどディーノは全くその気はないようで。 「俺は騎士の仕事だけでいっぱいいっぱいですよ」 どうやら領主になるつもりはないらしい。欲のない人だなぁ。 こういうのって物語の中でも現実でもありがちな相続争いとかに発展するパターンだと思うんだけどね。 ディーノがいいならいいんだけど。あのお父さんと変に争う種を増やすだけ馬鹿らしいってとこかな。 良かったな侯爵、ディーノが大人な対応してくれて。 前 | 次 戻 |