▼page.3 んあぁ……寝てた。屋敷について早々一悶着あって、滞在中宛がわれた部屋に荷物を運んで片付けて、と一人でゴソゴソしてたら疲れてベッドにちょっと横になったらそのまま寝てた。 一悶着ってほどでもないんだけど、何故かディーノが一人で頭を抱えていたんだよね、何だったんだろう。 執事さんに案内してもらった部屋の前まで来てディーノが待ったをかけた。 「どうしたのディーノ?」 「どうしたじゃありません、俺とハルの部屋が隣とはどういう事です。替えて下さい」 きょとんとする私を横目に捉えつつ執事さんが、はて? と首を捻った。 「同室の方が?」 「そんなわけないでしょう!」 「うお、激しく否定されるとちょっと傷つく……」 「ハル!?」 別に同室が良いって言ってるんじゃないよ! でも、何でこんな奴と! みたいな言い方されるとね、おい私じゃ役者不足かそうか悪かったなって気になるじゃない。 しょぼんとする私に執事さんが何か言いかけたのをディーノが遮った。 「彼女の言う事は気にしないで下さい。この国の習慣や常識が通用しませんので」 なんという暴言! 人を非常識みたいに言わないでくれるかな!? 「ていうか何なの、隣同士なら何がいけないの。いいじゃん近くて!」 「バルコニーが繋がっておりますので、行き来も出来ます」 「ほら便利じゃんー」 「ハルはその意味を全く理解していないでしょう!」 意味とは。ディーノが慌てる意味が分らない私を執事さんが無表情に見ている。 「ディーノは私の護衛として来てんだから、隣の方がいいんじゃないの?」 そう言うと今度は執事さんはディーノを見た。何だこの人。 「ハルの国では違ったようですが、ここでは未婚の女性と男性が隣同士やすぐ近くに寝室を取るのは、将来を誓い合った仲だけに限られます」 「マジで!? いやでも」 「でも?」 ギラリとディーノの目が光った……ような気がして口を噤んだ。 「お爺ちゃんの家に泊めてもらった時は有無も言わさずレイと同室でしたよ」とか言ったらアウトか。説教コースか。あれは不可抗力みたいなもんだったんだけど、私が怒られるんだろうね。 「ディ、ディーノと離れるのは不安、だなぁって、思って」 しどろもどろ。我ながら呆れるくらい取ってつけた感たっぷりな言い方になってしまった。 でも嘘じゃないよ! 嘘は言ってない。 信じてぇーとディーノをガン見していると、彼はしばらく探るように見返してきたんだけど、ふぅと息を吐くと壁に片手をついて俯いた。 何かぶつぶつ言ってるけど聞き取れない。 「では部屋の配置はこのままでよろしいですね」 「え、いいの?」 「いいですよ……」 疲れたような表情でディーノが許可を出した。 執事さんは最初から部屋替えをするつもりなんてなかったのだろう、適当な感じで頷いて扉を開ける。 さっきも言ったけど、この人何なんだろう。 そして部屋に入るまでディーノはなんだか難しい顔をしていました、まる。 それにしてもお腹空いたなぁ。変な時間に寝ちゃったから昼ご飯食べ損ねた。執事さんに言ったら何か食べ物くれるかな。 食べ物を探し求めて部屋を出た。廊下を適当に歩いていると喋り声が何処かから聞こえてきたような気がした。 キョロキョロと辺りを見渡す。突き当りの部屋のドアが少しだけ開いている。あそこか? 歩いて行くと徐々に声も近づいてくるようだった。でもボソボソと聞こえるだけで何を喋ってるのかは全然分らない。 「あの、すみま」 メシくれメシー。私の頭の中はご飯の事でいっぱいだったのがいけなかったんだろう。声を掛けるのと同時に扉を勢いよく開けてしまった。 あんぐりと口を開けて固まった私の目に飛び込んできたのは、二人の男女でした。 机の上に座っている侍女らしき女性に半分圧し掛かるような体勢の男性。 え? 男の人の手が女の人のスカートの中に入っているような気がするんですが。 服もちょっとくつろげられていないか? ま、まさかこの光景は……。 呆然とする私と目が合うと侍女さんは少し顔を赤らめながら胸元に服を寄せた。男の人は侍女さんから少し離れると無表情に私を見る。こ、怖い。……あれ、でもこの人って 「失礼いたします旦那様、ユリスの花嫁様」 侍女さんはきっちりと服を着直してそそくさと部屋を出て行った。えええ、行っちゃうの!? 私とこの人を置いて!? 旦那様という事はやっぱり、この男の人がファーニヴァル侯爵、ディーノのお父さんか。紺色の髪と目鼻立ちがどことなくディーノと重なる。 あの王様が含みのある言い方で「癖のある人」と評した。ディーノも危害がおどうのって言ってたし。 ……そんな人と二人っきり嫌過ぎる!! しかも侍女さんがきっちり扉を閉めていったのが、逃げ道を塞がれたみたいで余計に不安感を煽られる。 前 | 次 戻 |