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 ディーノに背負われて部屋に到着した頃にはすっかり真っ暗になっていて、しかも直後に雨が降り出すという、ディーノにとって二重三重もの災難が待ち受けていた。

 私という荷物を長距離運んでくれたわけなので、疲れたでしょう休んでいきなよと、さっさと執務室に戻ろうとしたディーノを呼び止めたんだけど、それに応えたのはルイーノだった。

 「疲れた時にはこれ! ぐいっと一本!」と甘ったるい笑みを浮かべながらディーノに差し出したのはドロっとした緑色の液体の入ったガラスコップ。若干異臭がしたような気もする。

「疲労回復、滋養強壮などの効果が期待できますぅ」
「栄養ドリンクなの!?」

 青汁かと思ったよ!
 押し付けられたディーノは無碍にも出来ず顔を引き攣らせながらも一気にそれを飲み干した。

 案の定不味かったらしく、一回えづいたけどきちんと最後まで飲みきったディーノは出来た人だよ。
 ありがとうございます、とお礼を言ってコップを返すディーノにルイーノがニタリと笑ったのを私は見逃さなかった。

「さあさ、これであと三日は馬車馬の如く働き続けられますよぅ」
「休ませてあげて! お願いだからディーノに休息を!」

 血も涙もないルイーノの発言に涙が出てくる……。何が彼女をそこまでディーノ嫌いにしてしまったんだろう。

 ディーノは慣れているらしく困ったように笑いながら私の頭を撫でた。それを見てルイーノが舌打ち。なんなのこの二人、これでいいのか二人の関係!?

 そして本当に仕事の為に帰ってしまったディーノが出て行った扉を暫く眺めていると、ルイーノが肩を叩いた。

「大丈夫ですよぅ、効き目は本物ですから!」
「だったら何が偽物なの!?」
「あんなに不味くする必要ないんですよねぇ」

 ふふふ、と可愛らしく笑うディーノがもう鬼嫁にしか見えない。まだどこにも嫁いでないけど!

 しかしまぁあの青汁モドキは本当に疲労に効く栄養ドリンクらしいので、ディーノさん頑張って仕事してください。
 一日中遊びに付き合せた私が言うのもなんだけれど。

「ハル?」

 ルイーノにさっきの栄養ドリンクの内容物の説明を聞いていると、奥の寝室からホズミが出てきた。
 目を擦ってなんだか眠そう。寝てたのかな。

「ハル! やだ、帰っちゃやだ!」

 駆け寄ってきたかと思うとそのままの勢いで腰にしがみついてきた。なんだなんだ? 怖い夢でもみたんだろうか。

 落ち着くようにと背中をゆっくり撫でる。
 目元を真っ赤に腫らしたホズミが、それでもまだ瞳を涙で潤ませながら見上げてくる。

 ゴクリ……生唾物の可愛さだ。ダメだこの子早くなんとかしないと、ムラッときたお姉さんとかに見られたらペロリと食べられてしまいそう。

「ハル様がお部屋を出られてからずっとこの調子ですよぉ。終(しま)いには寝室にこもって啜り泣きが聞こえてくるんで、開けようとしたらすっごい怒るんですぅ」
「乙女か!」

 泣き寝入りとはよく言ったものだ。ちょっと意味は違うけど。ホズミは本当にベッドで泣いててそのまま寝てしまったのね。

「で、どうしたのホズミ?」

 何がそんなに悲しかったの。ほらほらハルさんに言ってごらんなさいよ。
 頬に手を当てると、ホズミの方から擦り寄ってきた。く……っ、この子私の理性を試しているのか!? 今すぐ抱きしめてべったべたに甘やかしたいところだけど我慢。女は我慢!

「ハルいなくなっちゃうのヤダ……なんで? なんで帰っちゃうの?」
「ホズミ……」

 そうか、この前の高笑いして帰ってやる宣言のせいか。帰るってどこへ? ってルイーノに聞いたのかな。

 最初からホズミはディーノに預ける予定になってたから、私が日本に帰った後も安心って思ってたけどそういう問題じゃなかった。

 私が自分の意志で手元に置いて、これだけ慕われてるのに用事が済んだらあっさりバイバイなんてそんなのホズミにとったら裏切り行為だ。

 こんなに不安にさせて泣かせて、これじゃディーノの事言えないな。



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