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 ホズミに「この後何したい?」って訊いたら「お昼寝」って返された。
 決してぐうたらな子じゃないのに珍しいなぁと思ってたら、どうも私の足を気遣ってくれてるらしい。
 なんって出来た子なんだろうウチのホズミは。
 将来いい男になるよ! 私が唾付けておきたいくらいだわ。
 
 というわけでホズミを膝の上で寝かせて、図書館の本を読んでいたら扉がノックされて来訪者が現れた事を知らせた。
 
 誰だろう? と一瞬疑問に思ったけどアポなしで突撃してくるのなんて限られてるんだよね。

「お邪魔しますわ、お姉様」

 ほらね。第一候補のラヴィちゃんで当たりでした。
 しずしずと入ってきたお姫様は私の足に大袈裟に巻かれた包帯を見て痛そうに眉を顰めた。
 見た目程の怪我じゃないんだけどね。ルイーノが大怪我に見える様にしてるだけで。

「お姉様、どうしてわたくしに早く言って下さらないの!」
「え? なにを?」
「この怪我と、ディーノのお馬鹿っぷりです!」

 あれディーノのお馬鹿っぷりは前から知っていたのでは? 散々文句いってたじゃないの。

「お姉様が泣きながらお部屋へ戻られたって後から聞いて……ディーノに文句を言ってやろうとしたのに、お父様とフランツ様が放っておけって言うんですもの。フランツ様に言われたら従うしかないでしょ?」
「従うの一択しかないんだ!」

 お父様も泣いちゃうよ! 王様年甲斐もなく泣くと思うな愛娘に蔑(ないがし)ろにされたら。可哀そうだからその辺でやめたげて!

 そしてそのフランツさんの盲信っぷりはどういう事だ。彼の何が貴女にそうまで思わせるんだ?

「前から思ってたんだけどラヴィ様ってディーノにだけやたらと厳しいですね」
「だってディーノって昔フランツ様に直々にお勉強を教えていただいてたそうなの、羨まし過ぎて憎いの」
「なんという見事な逆恨み!」

 そうか、そうだったのか。ディーノも御愁傷様。彼の態度がどうのって言ってたのも半分はイチャモンだな。

 でもまぁこればっかりはどうしようもないな、と妙に納得してしまった私と、クゥンと同情したように鳴いたホズミ。

「王女様のお気持ち痛い程良く分かりますぅ」

 マリコさんと一緒に後ろに控えていたルイーノが一歩前へ出た。こういう時に彼女が口を挟むのは珍しい。

「そういやルイーノもやたらとディーノに対して刺々しいよね」
「はい、でもちゃんとした理由があるんですよぉ。あれは初めてお会いした時の事……笑顔で挨拶された瞬間にビビッと来たんですぅ、コイツあたしの敵だ!! て」
「生理的に受け付けなかったって事!?」
「違いますよぅ、敵だと思ったんです」

 ディーノに非がない事には変わりない! なんという恐ろしい女なんだルイーノ。
 出会った瞬間に敵か味方か判別するなんて……貴女はどこの歴戦の戦士なんですか。マリコさんが額を押さえて溜め息を吐いている。いつもこんな調子なんですね、そしてフォローさせられてるんですね。

「さっきからお姉様ったらディーノが憎くありませんの? 泣くほどの事を言われたのでしょう?」
「あーまあね、言われた瞬間はひっぱたいてやろうかと思ったんだけど、あの人直後に「しまった!」って顔したのよねぇ」

 だから叩くに叩けなくて、余計に行き場のなくなった怒りが涙として出てきた。
 言った瞬間後悔するくらいなら最初から口にするな! って怒鳴ってやれば良かったと私も後悔。

「甘い、甘いですわお姉様!」
「そんな事ないよー」

 いきり立つお姫様をどーどーと宥める。腹立ったし後悔したけど、それで終わらせる私じゃないのさ。
 ちゃんと報復は考えてます。

「ディーノを見返してやるの」
「見返す、ですか?」

 可愛らしく首を傾げるラヴィ様に私は大きく頷いた。

「ユリスの花嫁としての責務をちゃんと見つけ立派に勤め上げて、私なんて必要ないとか言いやがったディーノを馬鹿にしつつ高笑いしながら元の世界に帰ってやるのよ!」

 拳を握りしめて力説する私に「御立派ですわ!」と微笑むラヴィ様と拍手を送ってくれるルイーノ。
 マリコさんは遠い目をしている。この常識人め。

 私は帰る時にディーノを馬鹿にしなきゃいけないという使命が出来た。だから、ディーノに消えて貰っちゃ困るのよ。勿論レイだって。
 絶対私がここに来た理由は他にある。それを見つけて証明して、あの二人に激しい思い込みを無くさせてやる。

 長い時間を掛けて積み上げられてしまった確執まで壊せるとは思ってない。だけど少しヒビを入れるくらいの事はしてから日本に帰りたい。二人がそんなの望んでなくても。これが私の報復。
 
 



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