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 私がどうしてこの世界へ来たのか。どうやったら帰れるのか、誰に連れて来られたのか。
 
 レイがあんまり自信満々に持論を展開するもんだから一瞬そうだったらどうしようとか心配になっちゃったんだけど、冷静になって考えればそれはないよね。私怨に利用される為だけに連れて来られたなんて。

 そんなの私が不憫過ぎるもの、有り得ない有り得ない。
 
 私の使命とやらを見つける手っ取り早い方法は消去法だと思う。今出ている候補の中から可能性の低いものから順に削っていくのだ。
 そんなわけで、この国の生きる歴史書ことソレスタさんにお話をお聞きしました。
 
「神以外が異世界から人を呼び寄せる方法? ないわよ、そんなもの」

 はい、レイが自力で私を連れてきた説消えた。ディーノお疲れ様でした。
 ほら見た事か! ふふんと勝ち誇る私をソレスタさんが不思議そうに見ていた。

「ディーノかレイ辺りに妙な事言われたのね。気にしないのよ、あいつ等デリカシーなんて持ち合わせてないんだから」
「ほんっとですよね!」
「それに……これはアタシの意見だけど、仮に神を介さずに異界から人がこちら側に流れてきたとして、それは只の人よ。聖剣に触れる事も他者に力を与える事も出来やしないわ」

 私がレイに施したのはユリスの花嫁だからこその力。だから貴女はそんな心配しなくていいのよ、と言われた気がした。何百年も生きるこの美青年には私の悩みはちっぽけで、分り易過ぎるものなんだろうか。
 それなら、ともう一つ質問してみる。

「じゃあ、聖騎士以外がユリスに願って、こっちに人を送ってもらうっていうのは?」

 ディーノの案は却下されたので次はレイのを。ちょっと身を乗り出す。
 ソレスタさんは顎に手を添えて暫く考えていた。

「これまで何度かユリスの花嫁を召喚したとか、自分こそが異世界から来たとか言い張る輩は稀にいたけれど、当然全て偽だったわ。でもその中には実際に空間を繋げる事には成功している者もいたし、きちんとした手順で儀式を行っていた者もいた。だから召喚に最も必要不可欠なのは聖剣だろうとアタシ達は踏んだんだけど……実際のところは不明ね」

 神様の考えなんて所詮人間には掴めないのよ。なんて賢者様に言われてしまうと小娘の私には何も返せない。
 つまりここはグレーゾーンという事らしい。確信を持てなくて憶測の域を出ない。

「しかも今回は特に……」
「特に?」
「いえ、何でもないわ」

 何でもないってこたぁないだろーっ!? 分りやすく意味深な発言しやがって、気になるじゃないの!
 ソレスタさんの綺麗な白のローブを握りしめてグイグイ引っ張る。皺になろうが知ったこっちゃない。
 吐け、吐けー!

「や、やめなさい!」

 分かったから、言うから! と慌てて私を止めたソレスタさんは口元を手で覆った。
 揺さぶられて気持ち悪くなったようだ。結構軟弱だなぁ。

「まぁ貴女にも知る権利はあるわよね。いいわ、アタシが教えてあげる」

 バチコンとウィンクされたので、大袈裟に避けた。なんか良くないものが投げつけられた気がしたから。
 失礼ね! とぷりぷり起こる美形お爺ちゃん。

「この世界の人は光か闇、どちらかの属性を持って生まれてくるの」
「あ、レイに聞いた事あります」
「そう。それで聖騎士はそのどちらかの力の突出した人が選ばれているようなのよ」

 私もそうだし、基本神様っていうのは無属性なので聖騎士だからといって光属性の人ばかりが選ばれているわけではないらしい。どっちに傾いているにしろ、他者より大きな力を持っているのが条件だという。

「ディーノは光、レイは闇。それぞれ尋常じゃない力を持ってるわ。……どちらが聖騎士に選ばれても不思議じゃなかった。もうずっと幼い頃からあの二人は次に聖剣が現れたら聖騎士にならなければならない、そんな強迫観念を植え付けられて生きてきたのよ。選ばれなかった場合の末路は、知っての通り」

 過ぎた力を危ぶまれ、神殿の地下の薄汚い牢屋に閉じ込められた。
 あの牢は、入れられた者の魔力を奪う特殊な呪が張り巡らされていたようだ。ホズミが魔が満ちていると言っていたのは、放出されたレイの魔力が蔓延していたからだった。

 あのまま全ての力が奪いつくされたら……レイは死んでいた。
 もしも聖剣に選ばれたのがレイだったなら、あそこに入っていたのはディーノだったに違いない。

「でも結局選ばれたのはディーノって結果は出てたんだから、レイには聖騎士の資格はないですよね?」
「それもちょっと微妙なの」

 ソレスタさんは眉を下げて困ったように苦笑した。どう説明したものか迷っているのか、自分の口から伝えてしまっていいのか思案しているのか。

「……私をここに呼んだのがディーノじゃなくレイであってもおかしくはない?」
「そうねぇ、可能性としては低い、とは思うけど無いとは言い切れない」

 グレーゾーンだ。果てしなくグレーな男、その名はレイ。そういや髪の色もそんな感じだしな! 正確には灰というか銀なんだけど。




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