▼page.8 「信じられないくらいバカですねぇ」 私の惨状を見たルイーノの第一声はこれだった。翌朝、明るい部屋で改めて見た私の足はそれはもう酷い有様だった。 両親指と小指は血豆、踵は皮がめくれて赤く腫れ、更には膿んでいる。足の裏も水ぶくれが出来ていた。 自覚した途端に歩くのも辛いくらいに痛みを訴え出す。しかもやはりというか、昨日打ち付けた膝上も見事に青痣になっていた。 裸足のままぺたぺたとぎこちない歩き方で部屋から出てきた私を見てルイーノが目を輝かせたのは言うまでもない。 「穿き慣れない高いヒールの靴で、延々歩き続ければそりゃあこうなりますよぉ」 しかもガンガン足に力入れて早歩きしてたから余計に負担が大きかった。そりゃあ途中で何度も後悔したけど戻るのもどうかと思ったし我慢して歩き続けたんだ。 棘のある言い方とは裏腹に、ルイーノは丁寧に軟膏を塗り込んでくれる。その上から布を当てて更に包帯を巻かれる。 いくらなんでも大袈裟過ぎないか? 「これで靴も履けないでしょ、今度こそ部屋で大人しくしていましょうー」 ルイーノにより外出禁止令継続を言い渡されました。 ううう、つらい。何もせずにぼうっとしてるの、傷を癒すのにはいいかもしれないけど精神的に追いつめられそうで嫌なのに。 「ほら、これも使ってー」 ぽいと渡されたのは、冷たい水で濡れたタオル。 「バレバレですか」 「その顔見てバレてないと思う方がどうかしてますよぉ」 そんな酷いか。まぁ自分でも鏡見てウワッて思ったけど。 私の目は今真っ赤に充血して少し腫れている。寝る前に泣いたせいだ。感情が昂ってたのか予想以上にたくさん泣いた。もう最後の方は過呼吸でしんどくなって寝ちゃったけどね。 ちょし、と前足を私のふとももに乗せて見上げてくるホズミの目が心配そうにしているような気がする。ただ、朝ご飯は? っていうだけかもしんないけど。 笑って頷くとホズミは足の上に乗り上げて、ふとももをクッション替わりに丸まってしまった。乗ってもいい? って聞いて来ただけだったんだろうか。 でもこの子は私が泣いてたのを知っている。寝ているフリをしながらずっと気にしてくれていたのも知っている。だから寝不足なんだろう。 身体のラインに沿うように何度も撫でていると、穏やかな寝息をたてはじめた。お休み三秒ですな! 起きたばかりでこんな事を言うのもどうかと思うけど、私もまだ寝足りない。 色々ごちゃごちゃと考えるのは明日以降にして今日は何も考えずに眠っていようかな。一度頭をスッキリさせた方がいいかもしれない。 「お待たせしまったー」 仕える主に対する言葉遣いではない軽々しいというか変な語でルイーノが朝食を持ってくる。 一人と一匹の為にしては多すぎる量がテーブルに並べられた。 美味しそうではあるけれど。これをたらふく食った後に寝たら……太る。確実に肥える。 「これだけのカロリーを消費しようとすると一体どんだけ走り込んだらいんだろう」 「走るんですかぁ? それは後で足がどうなってるのか見ものですねぇ」 「ですよねぇ」 決して止めようとしないのがルイーノだ。走りたければどうぞご勝手に。あたしの注意を聞かずに傷を悪化させるんですかそうですか。後で泣く羽目になっても自業自得ですよ、とかそんな風な事を今心の中で呟いているに違いない。 ここには体重計というものが存在しないから数字としてどう変化したのか不明だけど、絶対太った。減ったって事はまずないな。 その辺の自己管理も明日考えよう。明日から本気出す! 前 | 次 戻 |