▼page.1 ディーノは過保護過ぎると思うんだ。私って対魔物戦の要員として呼ばれたんだよね。なのに魔物に接触しただけで心配されるし、ちょびっと神殿抜け出しただけで外出禁止とか。 かといって私は漫画の主人公みたいに、じっとしてられなくてお城をみんなに内緒で出ちゃって、思いがけず大騒ぎを起こしちゃうような、ありがちなフラグは立たせたりしません。 フラグを立てたが最後、ディーノが怒り狂うのが目に見えてるもの。 それにねぇ、別に私がわざわざ出向いて行くまでもなく、個性溢れる皆様が至る所で勝手にフラグを立ててくんだわ。 「御機嫌よう、お姉様」 ほら来たよ。一級フラグ建築士が。 ラヴィ様は王女様なわけですよね。毎日忙しいですよね。貴婦人達とのお茶会、お勉強にダンスのレッスン等々、毎日過密スケジュールのはず。 なのにちょいちょい現れるよね、しかもアポなし。私は常に暇人だしラヴィ様大好きだからいいんだけど、こんな所で油売ってていいんですか? ていうね。 「ご機嫌麗しゅうお姫様」 ちょうどじゃれてたホズミの肉球を口に入れようかどうしようか悩んでる所でした。口をぱっかり開けてる所見られましたまあいいか。 向かいのソファにちょこんと座るラヴィ様は、背筋がぴんと伸びていて佇まいが美しい。お人形さんのようだけど、喋るととても可愛らしくも毒舌たっぷりで人間味のある女の子なのだ。 たまに王妃様が、この子の将来大丈夫かしらみたいな目で見てる事を私は知っている。 あの世間を斜めに見るような物言いとか年上好みにも程があるところとか、ちょっと心配だよね。 「今日はお願いがあってまいりましたの」 真顔でそう切り出した金髪の美少女はルイーノが出した紅茶を慎ましく飲んだ。 お願い? ホズミの前足を上げたり下げたりして遊びながら首を傾げる。ラヴィ様からのお願い……なんかこう、胸にぐっとくるものがある。 美少女からのお願いを断るなんて女が廃る。私にそんな事が出来ようか、いや出来ない。つまり何でも言って下さいってなもんだ。 「今晩のパーティーに主賓として出席していただきたいの」 「うん? ぱーていー?」 それってなぁに? 美味しいお菓子ですか? カール的なスナックかなー、断然チーズ味だなぁ。 「ムリムリムリ! 私そんなの出た事ないし!」 そんなの漫画やゲームでしか知らないし! 「あらお姉様に出ていかないと困りますわ。ユリスの花嫁様をお迎えする為の催しですのに」 「私の与り知らない所で勝手に決めないでー! てかさっきお願いって言ったじゃん、私に拒否権は!?」 「主賓が欠席なんてありえません」 きっぱりすっぱりとラヴィ様は仰った。だったら最初から強制ですって言ってくれてた方がまだ諦めもついたよ! 希望をちらつかせておいて、高層マンションの屋上から突き落とすような真似をしてくれるとは……。 涙目。六歳も年下の女の子に泣かされました。 「でも私ドレスなんて持ってないよ、これでいいの?」 今着てるのを引っ張る。これだってオーダーメイドの手間暇かけたものだけれど。パーティー用ドレスとなるとこの比じゃないよね。 動きやすさ重視ってわけにもいかないだろうし。ちゃんと踝まで隠れるような丈の何重にもレースをあしらって重たそうなのだよね。 自慢じゃないがそんなの着た事もないしそもそも持ってませんよ。 「御心配には及びません、事前に用意させています」 「いつの間に!?」 「以前採寸した際にサイズは把握しておりましたので、後はこちらでお姉様に合いそうなデザインを独断と偏見で選ばせていただきました」 「いただかないでーっ」 そうだったね、この世界に来てすぐに服を作るために採寸したわ。まさかあの時からパーティーは開くのは決定事項で、むしろ本来の目的はドレスを作るための採寸だったとか言わないよね? ありうるんだ、此処の人達って実に狡猾なんだ! 「ちなみにパーティーの規模って」 「国の要職についてる方々や名だたる貴族達が主ですわ、まあ後は教会の方やその他諸々」 「ムリっす! 私には荷が重すぎるっす!」 要職、名だたる貴族、誰一人として顔見知りになりたいとかこれっぽっちも思わない。むしろ礼儀も言葉遣いも何もなってない私がそんな人達と同じ空間にいるなんて場違いじゃないか。 しかも極め付けが教会関係者。今は会いたくない。フランツさんとだって顔を合わせたくないくらいなのに。 「当然ですが、ホズミはお留守番です」 「そんな殺生なぁっ!」 居た堪れなくなるって分りきってる空間にホズミを連れて行くなとか、ラヴィ様は鬼ですか。 ほら子どもとか動物とかって得てして場の緩和剤になるじゃない。会話が途切れて気まずくなるのを防止するためにも必要だよホズミ。 顔をグリグリすると鬱陶しそうにホズミが前足で私のほっぺたを押した。 「人が獣族に抱いている感情を多少は知っているはず。人の集まる場にこの子を出すわけにはいかないの。わたくし達だってお姉様がそのように接していなければ、ホズミに対して差別的な目を向けていたでしょう」 「ラヴィ様!」 人が獣族に向けるのは、自分達よりも下の者を蔑むそれだ。強大な力を持った彼等の存在を恐れるあまり、人の姿を保てないのを自分達よりも劣っているのだと判断して見下す事で怯えを中和している。 その考えは蔓延し常識化し、人は獣族を下位に見る。そんな相手に対して彼等が良い感情を持つはずもなく、人と獣族の仲は修復不可能な程に崩れてしまった。 無意識の感情を修正するのは困難だ。みんなにホズミの存在を認めさせるのは、私が思っている以上に難しい。 だからって、それを本人を目の前にして言うなんて。 畏れ多くもお姫様をきつく睨んでしまった。だけどラヴィ様は笑ってかわす。 「その子が大事ならこの部屋にしまっておいて、という事ですわ」 お、大人だ……。私なんて足元にも及ばないくらい。王妃様とはまた別の意味で将来が不安だわ。 この子をどうにか出来る男の人なんているんだろうか。 前 | 次 戻 |