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 直後、そんなハートフルな雰囲気をぶち壊す程、荒々しく部屋の扉が開いた。ノックもなく何奴!? と眉間に皺を寄せて振り返る。

 ツカツカと一直線に私達の方に強歩でやってくるのは私の倍くらいの深さで眉間に皺が寄っているディーノだった。

 ぎゃあああああ! ラスボスの存在を忘れていた!!
 いつもはキラキラして見える朱金の瞳は、今は獲物を狩る野生動物の如くギラギラしている。完全に私ロックオンされてるぅー。無意識にホズミにしがみついた。

 ソファの上でガクブルする私等の前までくるとディーノは私の肩を掴むと、背もたれに押し付けた。

「神殿に行ったそうですね……。アイツに会ったでしょう、アイツは今何処にいるんです!?」

 間近で凄まれて竦む。いつも温和な人なだけに余計に迫力がある。

「アイツってレイの事?」
「レイ? アイツがそう名乗ったんですか?」

 だからそのアイツってのが誰の事を指してんだって訊いてんのよ。十中八九レイの事なんだろうけど。

 そういやレイもディーノを頑ななくらい名前で呼ばなかったな。なにそれ流行ってんの? アレとかアイツとかで通じちゃう仲なの? 実は仲良しなんじゃないの?

 おっとこれ以上はやめておこうか。友人が大はしゃぎで食いつきそうな方向の話だ。でもあの子なら、この手の話題を振りまくってたら「呼んだ? 私の出番だよね?」とかって容易に時空を超えてやってきそうな気もするなぁ。いっちょやってみるか、面白い事になりそうだ。

「ハル?」
「ご、ごめんなさい!」

 脳内ですっごい話が逸れてました! 謝るから怒んないで。美形が怒ると迫力あるんだよ、怖いんだよ!
 
「銀髪で紅い目の男です」
「ああ、やっぱレイか。レイが今どこにいるか? ……そんなもんこっちが知りたいわボケェ! あんの野郎、よくも……!!」

 今朝の感情が舞い戻って来て沸々と怒りのボルテージが上昇していく。

「よくも、何されたんです? ハル」

 はっ! 急上昇していたボルテージが、冷や水掛けられたようにまた急降下していった。
 静かなのにそんな威力のあるディーノの声。いや静かだからこそ怖い。この人の怒り方はフランツさんと同じだ。

「言って下さい。あの男に何されたんです?」

 ひいい、顔は笑ってるのに目が完全に怒ってるよぉ! 無言で首を振る私にディーノは舌打ちしてホズミを見た。し、舌打ち!? 聖騎士様が舌打ち!?

「ホズミ、何があったんですか」
「だあっ! 子どもに向かうのは卑怯だし!」
「……聞いても俺にはホズミが何を言っているのか分りませんけどね」

 うん。うん? あ!! そうだ狼族の言葉は私以外には分らないんだった!

 ホズミは人間の言葉はある程度理解出来るけど喋れない。私はこの世界の言語は何でも日本語に自動翻訳されるから、言われるまで気づかなかったんだけど、ホズミはずっと狼族の言葉で喋っているらしいです。
 
「そんな混乱するほど聞かれて困る事があったんですか」
「いい、いやいやいや」

 とか言いながらとっても困りますええ! ホズミもオロオロしちゃって……ホズミに?
 そういや牢屋でのあれ、ホズミも居たよな。ばっちり見られてたよな。

「レイのヤロオオオッ!! ホズミ、忘れなさい。昨日見た事は全部頭から消しなさい!!」

 何もしてないのにさっきから修羅場みたいなこの場に取り残されて可哀そうだとは思うけど仕方ないのよごめんね!

 だってあんな現場を見られてたなんて、穴があったら入りたいなんてもんじゃない。自ら穴掘って埋まってしまいたい。いや違うな、レイを埋めてしまいたい。
 絶対ディーノに知られるわけにはいかないのよ!

「お願いホズミ」

 ホズミは考える様に目を伏せて、すぐに決心したように頷いた。

「ホズミ―!」

 なんて私思いの優しい子! 溜め息を吐くディーノをあえて見ないようにしながらホズミに抱き着いた。
 
「まぁホズミがハルの言を無視するわけないですよね」

 その通り。ホズミの最優先順位は今のところ私だからね。自分で言っちゃう。だって誰も言ってくれないから。

「アイツと接触して何もないわけありませんが、一応危害を加えられたという事ではないようですし、これ以上は問わないようにします」
「御恩情痛み入ります」
「今回だけですからね」

 次なんて私もあって欲しくないです。危害だって加えられたといえばそうなんだから。私の心はズタボロですよ。

「それより、ディーノこそレイとどういう関係なの?」

 拗(こじ)れに拗れまくってるじゃん。お互いに良い感情は持ち合わせていないみたいだし。レイはそういう風に出来てるなんて言ってたけど、そうなった原因はなんなのか。

 会った瞬間から生理的に受け付けないとかあるけど、この二人に関してはそうじゃないと思う。この軋轢にはれっきとした理由がありそうだ。

 どれどれちょっとハルさんに話してみなさい。もしかしたら仲直りする良い案がふわっと降臨するかもしれないじゃない?

 そんなまさか、好奇心でちょっと聞いてみたいだけだなんて、そんな……そうなんだけどね!
 期待に胸膨らませる。お節介焼きのおばちゃんみたいだわ。

「ハルが話してくれないなら、俺も言いません」

 なん……だと? この男実は拗ねてる? 爽やかな笑みを浮かべつつも私がレイとの間にあった事をひた隠しにしてるからご機嫌斜めか?
 反則だろこんな成人男性!

「あ、そうだハル」

 うっかり八つも年上の男に萌えそうになったけど、それより先にディーノが喋り出した。

「暫く外出禁止ですからね」
「ええーっ!!」

 あんた鬼かっ!? 私悪くないじゃん、神殿にはフランツさんにだまし討ちみたいに連れて行かれただけだし、レイに会ったのは仕組まれてた事だったし、レイが逃げたのだって私関係ないのに!

 横暴だー! と散々文句言ったけど、前言撤回はしてくれなかった。

 暫くってのがどのくらいかは分らないけど、ディーノの気が済むまではお城で引きこもり生活を送る羽目になりました。
 
 



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