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「きゃああっ!!」

 おっちゃんの話にほとほと嫌気が差してきた時、遠くで女性の悲鳴が聞こえた。
 おっとこれは自慢話から逃げる良いきっかけじゃね? ってわけで、ちょっくら野次馬ってくる!

 幾つかの棟に別れている神殿の中でも今私がいるところは最奥で一般人は入って来れないところだ。礼拝室から表に出ると朝の女性神官さんが怯えた様子で一点を見つめていた。悲鳴は彼女のものらしい。

「どうしたんですか?」
「あ、あ、ユリスの花嫁様……」

 だあ! こんな時まで嫁言われるの嫌だな! でも訂正している場合でもなさそうだ。
 彼女の視線の先を辿ると、そこには黒い塊が。
 あ……ホズミ。

「大丈夫ですよ、あの子は」
「な! 獣族!? どうしてここにいる!!」

 おっちゃん神官が追いついて来た途端、ホズミに向かって罵声を浴びせた。ホズミは怯えてはいないけど、マズイ状況だっていうのは理解しているらしく、どうしよう? と私の方を見つめてくる。うん、どうしようかねぇ。

「すみません、あの子は」
「ユリスの花嫁様お下がりください! こんな汚らわしい物の傍へ寄ってはなりません。どうやって入り込んだのかは知りませんが、コイツ等は野蛮で人に害を成す魔の者です!」

 “あの子は”の続きをこの人はどうしても遮りたいらしい。
 よしおっちゃんにもう一度チャンスをやろう。仏の顔も三度までって言うし、もう一回言うから今度遮ったら強硬手段に出てやる。

「あの子は」
「いいえユリスの花嫁様」
「何がいいえかーっ!! 人の話をきっけぇーっ!!」

 何故コイツに否定されなきゃいけない!? しかも言う前から! あんたは私の心の声を聞く能力でも持ってるというのか!? お約束のように丁寧にまた遮ってくれるとは!

 ぎゃーす! と大声を出した私に驚いておっちゃんが黙った。女性神官さんもポカンとしている。
 つかつかとホズミの方へと行くと小さい体を抱きかかえた。

「ユリスの花嫁様! それは」
「ホズミです!」

 今度は私がおっちゃんの発言を遮ってやった。ざまぁ!

「ホズミは私が連れてきたんです。この子は人に危害を加えたりしません。フランツさんに確認してください。……ごめんねホズミ、嫌な思いさせたね」

 顔を寄せるとホズミも頬擦りしてくる。こんな可愛い子を汚らわしい? 野蛮で害があるなんてよく言えたもんだな。

「ハル、大丈夫?」
「え? うん、私は全然。でも何で出てきちゃったの?」
「迎えに来た」
「ああ昨日言ってたところね」

 なるほど。じゃあ行きますかね。またおっちゃんの所戻るのは気まずいし。ディーノの件(くだり)から結構私は腹が立ってたんだからね!

 あれこれ詰問されるのも鬱陶しい。逃げるが勝ちだぜ。

「お騒がせしました。ちょっとこの子と人目につかない所でも散歩してきます。心配ないので探さないで下さい」

 家出の決まり文句みたいになってしまった、まあいいか。口を開けたまま固まっている二人を放って私はホズミを抱いたまま歩き出した。……重たいからもうちょっとしたら降ろそう。

 繋いだ手を引っ張るホズミについて行くこと五分。何処へ連れて行かれるのかと思っていたら、さっき私がいた建物をぐるっと半周して裏側に辿り着いた。

「ハル、ここ」

 いや、ここってあんた。本当に建物の真裏じゃないですか。ただ壁があるだけなんですけども?
 私にはホズミが何を見せたかったのか分ってあげられないよ、ごめんね不甲斐ないお姉ちゃんで。

 壁? この壁のシミが幽霊っぽく見えるとかそういう事? ああ見えなくないね、こことか目っぽいよねうんうん。

「ほら」

 頷いている間にホズミが何をやったのか、壁の一部がごごごごと音を立てて横にスライドした。
 そして現れたのは地下に続く石の階段。

「ええええええっ!!」

 開けゴマ!? まさかのセサミストリート! これなら分かる。これ発見したらそりゃ誰かに言いたくなるよね、自分一人で抱えるにはこの仕掛けは凄過ぎるよね。

 だけどホズミくん、これ絶対良くない方の仕掛けだよ! RPGならこの先はモンスターのうじゃうじゃいるダンジョンになってて、奥には中ボスが待ち構えてるパターンのやつだよ!

 私が躊躇していると「入らないの?」と不思議そうにホズミが見上げてくる。
 私、戦闘能力は皆無なんだってば! そういうのはディーノの担当だからさ。もしも魔物とか潜んでたらどうすんの。

 仮にも神殿の地下なんだから無いとは思うけど、でもファンタジーのお約束でもあるじゃん? 絶対の安全を誇る場所が呆気なく襲われて崩壊しちゃうとかお決まりじゃん?
 階段の先が真っ暗で見えないのが余計に恐怖を煽る。

「大丈夫だよハル、危なくない」
「もしかしてホズミ一人で入ったの?」

 こっくり頷くホズミの額をデコピン。何もなかったから良かったものの、もし怪我でもしたらどうするのよ。メッ、悪い子。
 額を擦りながらホズミはむうと口を尖らせた。

「もし危なくっても、ハルはボクが守るから」

 ぶほっ! 咽(むせ)た! そして鼻血出るかと思った。この子ことごとく私を萌えさせないと気が済まないのか。
 
 惚れてまうやろーっ!!
 



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