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「おはようございますユリスの花嫁様」

 部屋から一歩出た瞬間に神官らしき人に捕まってこの挨拶。黒のローブをまとった女性神官さんは深々と頭を下げている。

 花嫁花嫁と、生娘に向かってやめていただきたいのだけれども。いい加減どうにかしたいなぁこの敬称。

「フランツさんは?」
「神官長は所用で出ておりますので代わりを仰せつかりました」
「さようですか」

 フランツさんめ……! こんな腹にぱんぱんに思惑抱えた人達がたくさんいるところに私一人放置ってどういう事ですか。ラヴィ様に言ってやる。株を大暴落させてやる。

「どうぞ、お召替えを」

 さっと何処からともなく出された真っ白な衣装を咄嗟に受け取ろうとしたらキョトンとされた。
 何故? 分らず私も同じような表情になる。部屋の前で二人で立ち尽くす。何やってんだ私等。

「あの……僭越ながらわたしがお手伝いさせていただきますので」
「えぇ!?」

 着替えを!? ああそうか、身分の高い人は一人で着替えたりしないで侍女にやってもらうのか!

 しかしお城でも私は自分で着替えている。ルイーノは衣装を渡してくるだけで手伝ってくれた例はない。

 一人で着れないようなややこしい服じゃないし、多分初日に私がちゃっちゃと一人で制服着たのを見て、コイツはこれでいいのか楽だなラッキーと思われたんだろう。

 丁重に断って部屋で一人で渡された服に着替えた。
 ちなみにホズミはもうとっくに窓からお散歩に出かけて行った。さすが身軽でいらっしゃる。
 
 
 服はソレスタさんのに似ていた。白地に金のラインやボタンが付いたワンピースのようなコートのような、一枚羽織ったらいいっていう簡単なものだった。

 詰襟って新鮮だ。丈も膝がギリギリ隠れるくらいで実に動きやすい。フランツさんがそういうのがいいって言ってくれたのかな。

 いつもはルイーノが遊び半分で結ってくれる髪はおろしたまま。

「お待たせしました」

 さっきと同じように外で控えていた神官さんは私を見て目を見開いてすぐに頭を下げた。
 今日も昨日と同じようにシーア教について色々聞いた。

 神様達は人の世界に介入しようとするとき、絶対に自身の代理を立てるのだそうだ。ユリスなら私のように異世界から。

 他の神様もそれぞれ人間や獣人もしくは魔物、多種多様ではあるけれど絶対に何かに意志を託すのだとか。神様自らが動いちゃうと影響が大きすぎて世界が壊れかねないという事らしい。

 でも殆どが神話やお伽噺の中で語られるばかりで実際に現れたのを確認できたのはユリスくらい。
 そんな訳で、街頭インタビュー! あなたが思う一番身近な神様は? ってしたらダントツ人気はユリスさんなのだそうです。

 やっぱり目に見える形でその存在が感じられた方が有り難味が増すってもんだよね。
 そりゃお爺ちゃんも拝んじゃうよね。昨日のあれは衝撃だった。

「昨日からファーニヴァル卿のお姿が見受けられませんが、ご一緒ではないのですか?」

 顎髭を蓄えたおじ様がチラリとこちらを見た。ふぁーにばる? ああディーノの事か。

「ディーノは他のお仕事で遠くへ行ってます。この前町に魔物が出たので」
「魔物の討伐ですか。しかしこんな時だからこそユリスの花嫁様のお傍を離れるべきではありませんな」
「でもそれもディーノの仕事だから」

 ちょっと哀愁漂った感じで言ってみた。ディーノが行っちゃうのは淋しいけどお仕事だから我が侭いわないわ! みたいな。

 そういう答えが欲しかったんだろう? そうなんだろう!? いい子ちゃんテンプレ回答をさっきから連発している私です。満足そうに目を逸らしたおっちゃん(おじ様から格下げ)に溜め息を吐きそうになった。
 
 実際にはディーノと私を並べて置いておきたいのが本音だろうけれど。花嫁とそれを守る聖騎士なんてまるで物語のような絵面だものな。片割れが私だというのが、本当ごめんなさいでも現実はそこまで上手にはできないのよって事で。

 ああこの試されてるような会話はいつまで続くんだろう。早くおうち帰りたいよう。それが無理でもホズミ欲しい。抱きしめたい。

 そういやホズミが見せたいものがあるって言ってたなぁ。

「ユリスの花嫁様?」
「あ、すみません。えっと、ディーノが?」

 いけないボーっとしてた。

「ええ、ファーニヴァル卿は幼い頃一時期この神殿でお預かりしていたのですよ。当時から彼は何をさせてもとても優秀で神童でした。まさに聖騎士になるための存在で――」

 その後も、ディーノが聖騎士になれたのはこの神殿で教育を受けたのが良かったのだというような話が暫く続いた。

 途中から聞くのをやめちゃったから内容は全く覚えていないけど。
 ユリスがどういう基準で聖騎士を選ぶのか知らないけど、絶対この人達のお陰って事はないな。一ミリも関係ないと思う。それに、最初から彼は優秀だったんでしょう?

 だったらあんた達がお節介焼かなくたって選ばれてたんじゃないのって話だ。
 やだやだ、いっちょ噛みしてあたかも自分の手柄みたいにさぁ。



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