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 部屋の窓際に椅子を置いて、ぼんやりと外を眺める。今日も晴天ぽかぽかで日向ぼっこ日和だ。

 私の膝の上ではホズミが絶賛居眠り中。平和だ。誰だこんな平和な世界に私を呼んだ奴。ディーノだ。その彼は何をしているかといえば、近郊の町へ視察に行っている。

 この前城下に魔物が現れた事を受けて、変化がないかの確認らしい。暫くは帰って来れないというので、私は護衛がいない状態となり引きこもりを余儀なくされた。
 
 図書館で本を借りて読んだり、ラヴィ様と喋ったりルイーノの人体実験の道具にされそうになったり、なんだかとってもいい感じに満喫している。

 けれども私は一体何をしているんだろう。こんなゆるゆる異世界ファンタジーを堪能していていいんだろうか。視察について行った方がいいんじゃないかとディーノに言ったんだけど、危ないから駄目の一点張りで拒否されちゃったし。

「ハル様ハル様ぁ」

 ぱたぱたと足音を立てて走ってきたルイーノに目を向ける。
 ラヴィ様のところの侍女さん達は決して走らないし足音も立てない、楚々とした立ち居振る舞いだけど、ウチのルイーノさんはそうじゃない。

「フランツ様がお越しですぅ」
「お久しぶりで御座います、ハル様」
「お久しぶりです」

 相変わらず腰の低いロマンスグレーの神官様だ。ラヴィ様が愛していると言って憚らないフランツ神官長様だ。

 もう彼女のストライクど真ん中なんだとか。おじ專ってやつなのかな。まぁ私もフランツさんならアリな気がするけどね。

「こちらでの生活で何か不都合などはありませんか?」
「ありませんですよ。むしろ良くしてもらい過ぎて肩身狭いくらい」
「それは良かった」

 どのあたりを指して言ったんだろうこの微笑み紳士は。
 私は心苦しいんですよこの現状が。かといって下手に動けば余計にみんなに迷惑をかけると思って今のところ大人しくしているのだ。
 そうしろと昏々と説教したのは他でもないこのフランツさんだ。

 この人の説教は堪える。一気に怒りが爆発してワーッと怒る人っていうのは逆に、熱が冷めれば急にトーンダウンするんだけど、フランツさんの場合は常に一定の温度で淡々と説き伏せてくるのね、逆に怖い。

「ハル様、私と付き合って頂きたいのですが」
「え……?」
「ああ間違えました、私に付き合って頂けますか?」
「わざとですよね!?」

 こんの似非紳士めがぁ! すっごい笑顔でさらっと心臓に悪い台詞投下してくんじゃねぇ!!
 ビックリし過ぎて膝の上のホズミを叩き落しそうになったわ! どちらにせよ大きい声出したから、ビクッと起きちゃったけど。

 良い歳した、しかも聖職者さんが何を言うやら……まったくまったく。と、ときめいたり、してないんだからね!
 
 人畜無害そうな笑みを浮かべるフランツさんに絆されて、用件も聞かずに私は頷いてしまったのだった。
 

 というわけで、やってきました大神殿。

 お城から少し離れた所に、それはまた立派な神殿があった。シーア教の総本山は大陸の西端にあって簡単に人が立ち入れないのだそうだけど、ここは一般公開されてたくさんの人で賑わっている。

 祈りを捧げる場所なので騒がしいわけではないんだけど。浅草の浅草寺がいついっても人がいっぱい、みたいなそんなくらいの人の量だ。
 
 かなり昔からある神殿は、細やかな彫刻がめぐらされている白亜の外壁からしてその存在感を誇示している。
 中は何本もの太い柱が建物を支えていて、その一つ一つが剣や盾や鏡など神々の象徴となる物の形をしていた。

 毛足の長い絨毯を渡っていくと、一番奥にはステンドグラスを背景に立派な祭壇があった。
 私がディーノに呼ばれたあの儀式の建物も教会のものだって言っていた通り、この造りはよく似ている。
 
 海外に観光に来た気分で見入っていた私に、フランツさんと同じ服を来たおじ様方がぞろぞろと近づいていた。あ、なんだか嫌な予感。

「ようこそおいで下さいました、ユリスの花嫁様」

 きっと教会の中でもそれなりの地位にあるだろうと思われる人たちが一様に私に頭を垂れる。
 
 何事かと祈りを捧げに来た人、私と同じように観光でやってきている人が遠目に、しかし興味津々で見てくる。ちょっとした人の垣根なんか出来てきちゃってる。

 何してくれてんじゃこの人らぁ! 目立つ、とっても悪目立ちしてるじゃないの!
 ああほら、そこのお爺ちゃん私に向かって手を合わせて拝むのやめてちょうだいよ、そんな大それた者じゃありませんから!
 
 お婆ちゃん何感動して泣いてるの!? 歳のせいで涙もろくなってるの!? だから私は、ただの女子高生だっつのっ!

 ちょっとフランツさんどういう事ですか!? とぐりんと彼のいる後ろを振り返ると、彼は他の信者と思しき方のお相手をなさっていた。

 ふーらーんーつーさーん!? あんた、私を売りやがったわね!? というかこれが目的で連れて来たのかこの野郎……。

 それから暫くはおじ様方に神殿とシーア教についてのウンチクを色々と聞かされた。いや話は面白かったんだけど、やたらとユリスの花嫁様って連呼するもんだから周囲の目が痛いのなんのって。

 黒髪ってだけでも目立つのに、あれって絶対わざとだ。ユリスの加護が今この神殿にあるんですよー的アピールだ。

 大人の事情に使われたって感じであんまり良い気はしないけど、フランツさんの顔を立てて大人しくしていた。

 ぴろりろりーん、ハルはレベルが上がった。スキル大人の一面を手に入れた。
 


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