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「何なのあの人達……」
「探りを入れたいんでしょう、マクシスの」

 そう。あの人達はロウラン支部から来たって言っていた。つまり、マクシスに禁呪を施した人達って事になる。
 町をメチャクチャにして、マクシスさんを人ならざる存在へと変え、神様を信仰する立場の神官が、自らの手で神様を作ろうだなんて冒涜を犯した。
 
 もうなんていうか、救いようのない人達だ。
 
「マクシスなんて人の事は知らない。フェイラン君とも親しくないから情報は入って来ない、そういうスタンスでいいんだよね?」
「はい」

 すたんす? と首を傾げつつも、意味は通じたらしくディーノは頷いた。
 やれやれ、それにしてもフランツさんは何処へ行ってるんだろう。祭りの打ち合わせを、なんて言っていたけれど、一体何をするのかてんで伝えられてません。
 
 フランツさんも底が知れないというか、いまいちどういう立ち位置にいらっしゃるのか見えないんだよね。
 王様と懇意にしているけど、あくまでも自分は教会側の人間だって自分で言ってたからね。私一度謀られたからね。あの時のショックは忘れられない。
 
 まぁ今日はディーノもいてくれるから、そう大きな問題は起こらないとは思うんだけどね。分かんないよねー。
 予防線を張っておく。何の心の準備もないまま、突然ぎゃーって展開になったら心臓に本当に悪いから。
 
「それにしてもこの図書館、色んな仕掛けがしてありそうね」
「仕掛け、ですか?」

 RPG等でお馴染みのやつ。
 ジャンルごとに本棚が区別されているはずなのに、全然関係ない本が一冊だけあって、それをちゃんとした場所に戻したら、カチっとか音がなって仕掛けが作動して隠し扉が現れるとかそういうの。
 
 変に飛び出してる本が二冊あって、それを二人で同時に押し込んだら、カチッと音がなって以下略。
 
「へぇ、ハルの国の図書館は面白いですね」
「……どうやら誤解を生んでしまったようだ……」

 この国がゲームの中の世界みたいな感じだからもしかしたらと思って言ってみただけだったんだけど、説明の仕方が悪くて日本の図書館が妙な所だと勘違いされてしまった。まぁいいか。どうせディーノには関係のない事なんだし。
 
「この神殿に隠し通路の一つや二つ、あっても驚きませんがね」

 しれっと言いながらディーノが、何気なくといった感じで近くにあった辞書級の分厚くって大きな本を少し押し込んだ。
 すると暫くして、ズズズと近くで重たい物が地面を擦る音がした。

「ディーノさん、何か途轍もなく嫌な予感のする音がしませんでしか」
「……しましたね」
 
 まさか! と思いたいけど、そのまさかですか。

「音の近さから言って、この室内のどこかで仕掛けが作動したようですが、探しますか?」

 そこで判断を私に委ねる辺り、ディーノは全く探す気が無いのだと知れる。
 この面倒くさがりめ。私に言わせればディーノの存在が一番面倒くさいと思うんだけどね。いや、ややこしいと言った方がいいか。

「そのままにもしておけないし、取り敢えず見つけてそっと元に戻しておこうよ」
「調べなくていいのですか?」
「調べただけ真っ黒い埃がもくもく出てきそうだからやめとく」

 葛城家が何宗に入ってるのかも分かってないくらい、宗教に対する免疫のない私にはこの手の問題は深くかかわり合いになりたくないっていうのが本音だ。
 怖くね? なんか最も土足で踏み入れちゃいけないゾーンのような気がするんだけど。
 というわけで、そっとじです。
 
 マクシスさnの件については、非人道的過ぎるし、私や興津さんに関する問題でもあるからどうにかしたいけど、それ以上の事は私みたいな小娘が口出しする事じゃないと思う。
 
「まぁ本当に隠し扉が出現したんだったら壁の四辺のどっかだろうから、すぐ見つかるよね」
「魔術で作られた扉ならそうとは限りませんが」
「…………」

 しまった。私この世界まだ舐めてた。そうか、私の常識なんてホームランで場外どころかドームの外にまで放り出される世界だった。
 思い出したけど、そういやトイレのドア開けたらこの世界に来ちゃったんだったよ。
 すっかり忘れてた。
 
「ありました」
「はやっ!! 私がちょっと思い出に馳せてる数秒の間に!?」

 有能過ぎるでしょうよディーノさん!
 セツカさんが働いている王立図書館に比べたら狭いとはいえ、それなりの空間だよここ!?
 
 音がした方向は大体分かっていましたので、と出来る男アピールをされ、何故かドン引きする私。
 ほんとこの人の能力って人間離れしてるなぁ。それとも訓練すれば人ってここまで能力値上げられるものなんだろうか。
 
 ディーノについて扉の前まで行くと、マジで常識通じねぇな、と感心してしまうくらいにとんでもない、、部屋のど真ん中にある本棚が真ん中でぱっくり割れるように左右にずれて、その間にものものしい扉が出現していた。

「ふむ、これどうやって元に戻せばいいのかな」
「触った本を元の位置に戻しましたが、何も起こりませんでしたしね」
「ディーノ踊ってみて? もしかしたら」
「もしかしない」

 ツッコミも早っ! 迅速かつバッサリ過ぎるわ。全くもう。せめて最後まで言わせてくれたっていいじゃない。
 
 でもどうしましょうね、図書館のど真ん中にこんな扉が出て来ちゃって、知らない人見たら仰天するだろうね。それとも神官さん達は皆これ知ってるのかな。
 
 そっと扉に触れてみた。
 
「っ!!」

 全身を何かが駆け巡るような、奇妙な感覚に襲われて反射的に手を引っ込める。
 
「どうした!?」
「あ、ううん、静電気、みたいな」
「みたいな?」

 私の曖昧な返事に、ディーノは眉を顰めた。
 大丈夫、なんともないと重ねて言うと、彼はそれ以上は何も聞いて来なかった。
 
「……ディーノ、これ、このままにしとこう」
「ハル?」
「私達があれこれ弄るより、フランツさんに言って直してもらった方が早そう」

 私はそう告げると、扉から目を離してディーノの手を引いて図書館を足早に出た。
 
 出てから振り返って、もう見えない扉に目を向けた。
 あの扉に触れた瞬間に聞こえたのは一体何だったんだろう。
 
『葛城悠、今夜迎えに行くよ』

 男の子の声だった。まだ声変わりする前の、幼さの残る声。
 扉の向こうに誰かいたのだろうか。
 もしかして――

 声の事はディーノには言えなかった。どうしてなのか、私自身にも分らないけど。ディーノには言わない方がいいとそう思った。
 
 



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