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「そういえばホズミは?」
「お散歩ですよぉ」

 着付け終わった私の髪を梳きながら、ルイーノが答える。
 この頃、ホズミはお散歩がお気に入りだ。
 
 此処へ来た初めの頃は、この部屋から勝手に出る事が出来なかったホズミだけど、ユリスの力によって実年齢の大きさになった辺りからは、よく出掛けるようになった。
 
 獣族は恐れや侮蔑の対象となる。
 だから最初の内はホズミが危険な目に遭わないようにと自由に出歩く事をディーノが禁止していた。
 だけどホズミはもう十歳で、これまで一人で生きてきた実績もある。だから自己判断に任せていいだろうという結論に至ったわけだ。
 
 ホズミがこの部屋から外へ出て、一体どこでどう時間を潰しているのか私も知らない。
 私にベッタリだったホズミだけど、ここの所はそうでもない。彼の世界が開けてきた証拠だろう。
 
 正直言っていいかな。めちゃくちゃ寂しい!!
 うん、でもプライベートも必要だよね。過保護過ぎてもホズミをダメにしちゃうからね。と自分を必死で言い聞かせてる今日この頃。
 
 ディーノに愚痴ったらすっごい白けた目を向けられた。最近聖騎士さんの態度が冷たいです、まる
 
「興津さんとヨエルさんは?」
「さぁ? 敵情視察でもしてんじゃ無いっすかねぇ」
「自由だなぁ」

 そしてルイーノも適当だなぁ。一応興津さんは私付きの侍女設定のはずなんだけどなぁ。
 勝手気ままに出歩き過ぎだろう。いいんだけどさ。
 
 ヨエルさんは何時まで経っても私に心開いてくれないし。
 興津さん曰く「あんたの狼への愛情過多っぷりを見て慄いてんじゃないの」という事らしい。
 
 失礼な! 確かにもさもさ可愛いし大好きだけど、さすがにヨエルさんみたいな大人の男性にハァハァ……あ、してたわ。大分してた。そういやその度ドン引きしてた。ウサギの姿でも引かれてるって分かるくらい。
 
 うぅむ、動物と見ると見境なしに擦り寄りたくなる癖、どうにかしないとなぁ。でもホズミと出会ってから歯止めが効かなくなっちゃって。だってホズミ私が何しても嫌がらないでいてくれるんだもん。
 
「さぁさ、準備が整いましたよ! お披露目といたしましょー」
「おおおー!」

 鏡に映った自分の姿に、思わず拍手をしてしまった。
 白が基調なんだけど、うっすら藤色に染められ模様付けられている衣装。
 袴のようではあるのだけれど、神降ろしの舞とやらを披露しなきゃいけないから、動きやすいように工夫されている。
 
 そしておそらく、本番ではキリングヴェイの時と同じように、音の鳴る装飾が首や腕、足に付けられるんだろうね。髪にも。
 
 化粧もバッチリ施されてるし、馬子にもなんとやらだ。
 
「木偶にも」
「もうそれいいよ! 懐かしいネタ掘り起こさないで!」

 数か月前に私の心を抉ったネタを再活用しようとしたルイーノを阻止する。
 
 そうか。あれからもう数か月が経とうとしているのか。
 早いものだわ。
 そうそう確かあの後だったよね、ディーノと大げんかを繰り広げたのは。あれ以降、ディーノが頭を下げるようなけんかってそう言えばやってないな。
 
 大抵私が一方的に怒られ、ごめんなさいを彼に言うパターンばっかり。たまにホズミも一緒に怒られる。
 いつの間にディーノはオカン気質に成り果てたのだか。
 
「お待たせしました」

 再度リビングの方へと入る。
 そこにはいつもの如く優雅にティータイムをお楽しみ中のラヴィ様と王妃様。そして増えたのは王様とフランツさんだった。
 
「ほほぉーいっちょ前に綺麗に着飾ってんじゃないか」
「お久しぶりです、ユリスの花嫁様。とてもお綺麗で驚きました」
「フランツさん、お久しぶりです」
「おい何でフランツにだけ返事するんだ。俺は王様だぞ」
 
 いやだって、王様が意地悪そうにニヤニヤ笑いかけてくるんだもん。相手したくないなぁって思うじゃない。紳士万歳なフランツさんとお話ししようかなって思うのは当然じゃない。
 
 そして、私と同じように「そんなの当然じゃありませんか」と言わんばかりに、お澄まし顔で頷いたラヴィ様。
 娘の態度にショックを受けたサイラス王が、珍しく消沈した。何気に奥さんと娘大好きだよね、この人。
 
「で? 皆さんお揃いでどうしたんですか?」
「お前の晴れ姿がどんなものか見に来たんだろうが。本番で、どのくらい映えるのか確認しておきたかったからな。ハルのその黒の瞳と髪がよく際立つように出来ているかどうか。ま、上々ってところか」

 褒めるなら手放しで全力で褒めてくれないだろうか。
 なんとか合格点だな、くらいの感じで言われても嬉しくないよ。
 これでもかって着飾って、どやぁって顔で出て来たってのにさ。私とても恥ずかしいじゃない。
 
「ええ、想像以上にハル様の清楚な美しさがよく出ていると思います」

 フランツさぁぁぁぁん!!
 きらきらきらーっと私とラヴィ様から羨望の眼差しを受け、フランツさんは若干居心地悪そうに苦笑した。
 
「さてではユリスの花嫁よ、その恰好を是非教会の奴らに見せつけてやって来い!」
「えー嫌っす」
「おい!」

 だってぇ、あたくし何やら狙われてるらしいしぃ。

「降神祭の話を聞き付けて、各国から枢機卿達がここへと集まって来ております。多少の危険を伴う可能性もございますがいらしていただけますか? 勿論、聖騎士もご一緒に」
「分りました。フランツさんの頼みじゃ仕方ないです」
「おいハル、温厚な俺もそろそろ」
「ではディーノを呼んでいる間、衣装の最終調整を致しましょうか」

 ニコニコと笑顔で王妃様は王様の言葉をかき消した。そしてラヴィ様の後ろに控えていたマリコさんの方を向くと、マリコさんは頭を下げ部屋から出て行った。
 
 この国で一番逆らっちゃいけない人が誰だか分りました。
 



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