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 朝起きて寝室を出て、ギョッとした。
 慌ててもう一度ドアを閉めて寝室に引きこもろうとしたんだけど、ルイーノが超笑顔で足を隙間に入れて阻止してきた。
 何この素早さ、侍女の動きじゃない。
 
「ハル様なに逃げようとしてるんですかぁ」
「いや、だって。なんか人いっぱいいるんだもん!」

 知ってる人もいた気がするけど、知らない人のがダントツ多かった!
 なんかワラワラと人がいた!
 
 もう一度そろーりとドアを開いて確認すると、やっぱりいた。見間違いじゃなかった。
 ソファには王妃様とラヴィ様、その後ろに数名のルイーノと同じ給仕服を着た女性が控えていた。
 
 どういったご用で、と聞きたいような聞きたくないような。
 
「そりゃいますよ。今からお披露目のお時間なんですからぁ」

 ふふふーと気の抜けるような笑みを浮かべつつ、目が笑ってませんねルイーノさん。

「おはようございます、お姉様」
「おはようございます……ラヴィ様、王妃様。いつもいつも朝早くにおいでくださって」
「ふふ、おはようございます、ユリスの花嫁様」

 ああ、今日も朝からこの母子は輝いてるわぁ。とっても自由で活き活きとしていらっしゃるわぁ。
 来る時には事前に一報をと遠回しに言っても聞いてくれやしない。

「さぁさ皆さぁん、獲物はこちらですよー」
「獲物だと。私の事かい!?」

 ルイーノが私の腕をガシッと掴んだ。え、ちょ、痛い。二の腕にルイーノの細い指が食い込んでとても痛い。血が、血が止まるってばよ。
 
 そして彼女の声かけに反応を示したのは、ラヴィ様達の後ろに控えていた侍女の方々だった。 ぎら、と目を光らせながらにじり寄ってくる皆さんがとても恐ろしい生き物に見えて仕方ないんだけど。
 
 え、え、なに? 私一体なにされるの?
 
「いやぁ! 私の貞操の危機が……助けてディもが」
「言わせませんよぉー、あの人ほんとにすっ飛んで来ちゃいますからねぇ」

 口を手で塞がれた。
 ディーノを呼ぶ事すら許されない。まさに八方ふさがりな私。ていうかディーノに頼らなきゃ未だに何も出来ないって、本当に私自身は無力だな。
 
 朝からどんよりした気分になりがら、引き摺られるようにしてさっき出てきたばかりの寝室に逆戻り。
 
「さぁさ、じゃあまず着替えからですよ」
「え、じゃあつい今しがたパジャマから着替えた意味は……」

 正確には夜着っていうんだろうけど、私はパジャマって言ってる。
 それから普通の服に着替えて部屋に出て行ったらまた着替えろって酷くないですかね。二度手間じゃないですか。
 
 私とルイーノに続いて入ってきた人達のうち一人が、にこやかに着替えを広げて見せてくれた。
 
「あ、完成したんですね」

 それは今度の祭りで着る用の衣装だった。
 スケッチというのか、完成予想図のような絵は見せられた事はあったけど、現物を見るのは初めてだ。
 
「本番にはこれに様々な装飾品を付けていただきます。其方は今最終調整の段階ですので、完成までもう暫しお待ちくださいませ」
「はぁ。まぁ無理しない程度でお願いします」

 王様の無茶振りのせいで、相当作り手さん達は苦労させられているだろうから。
 制作期間があまりに短い為に、話を持ちかけられた時には悲鳴を上げたり眩暈を起こしたりする人が居たらしい。
 本当に申し訳なくって……

 いいよ、何なら制服で踊るよ! って言いたいくらいだ。
 珍しい衣装って点なら、女子高生ルックでも引けは取らないはず。
 
 それにしてもです、この衣装っていうのが少し和装に近い気がするんだけど。多分気のせいではないんだろうね。
 過去に送られてきたという歴代のユリスの花嫁やら花婿が着ていたものを参考にしたって言ってたから。
 
 何でも、当時彼女らが着ていた服がまだこの王宮のどこかに残っているらしい。
 厳重に宝物庫に保管されているのだとか。
 まさか、私の制服も同じ末路を辿るのではないかとちょっとヒヤヒヤしている。
 
 いえね、もう卒業したしいらないっちゃいらないんだけどさ、三年間着続けて、スカートとかテカりが出て来てるし、裾のところも擦れてるしさ……宝物にされたりなんかしたら居た堪れない。
 
 ちょっと待って! 私の部屋のタンスの中にある一番上等なの持って来るから! どうせならそれを保管してて! って叫びたくなるわ。
 
 というわけで袴のような作りをした衣装を着つけられていく。
 此方の世界のクトウという国の民族衣装にもよく似ているのだとかで、そのクトウ国出身の侍女さんが慣れた手つきで着せてくれた。
 
 その人は、他の人達よりも容姿もどこか日本人である私に近いものを感じた。

「クトウは極東にある島国で、あまり大陸とは国交も少なく、彼女のように海を渡ってくる人はとても珍しいのですよ」

 しげしげと彼女を見つめていると、侍女頭である年配の女性が教えてくれた。
 ほほう、なるほどなるほど。鎖国してた時代の日本みたいな感じかな。
 ぱちりと彼女と目が合うと、控えめな笑顔を見せてくれた。




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