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 なんだかちょっぴり緊張する。
 騎士舎には数える程しか来た事がないのだけれど、この中に居るのは別に緊張するような方達じゃないっていうのは十分分かっている。
 それでもやっぱり緊張するのは、いわゆるコスプレ姿のせいだろう。
 
 この世界じゃ立派な仕事着なんだけどね、ルイーノだって毎日着ているし。だけどやっぱり現代日本人としては、このメイド服はコスプレという感覚だ。
 
 ドキドキしながら扉を開けると、相変わらずの男臭い空気がした。
 
「こんにちは、ディーノいますか?」

 訓練している騎士達に向かって話しかける。
 なんの気なしに近くにいた人に言ったのだけど、何故か彼らは私の方をジッと見るばかりで反応を返してくれない。
 
 あれ、聞こえなかった? ともう一度訊こうとした瞬間、私を凝視していた数名が目をカッと見開いた。こわい!
 
「え、嫁!?」
「ホントだ、嫁だ!」
「マジかよ、嫁かよ分らんかったわ!」
「嫁言うな嫁って!!」

 ユリスの花嫁様っていうのが長いのは良く分かるけど、略して嫁って止めてくれ。それならハルって呼び捨てにされた方が何倍もマシだわ。
 
 と、いっつも思うんだけど、名前で呼ぶのは失礼だからってそこは一線引いてくるんだよね、誰も彼も。この世界の人達の感覚っていまいち掴めない。
 これだけフランクな態度取っておいて今更そこ気にするの? って思うんだけど。
 
「何、どうしたの嫁さん。そんな恰好してるから一瞬誰か分らなかったですよ」
「さん付けすればいいってものじゃないからね」
「お嫁さんから侍女に転職したの? それとも花嫁修業?」
「いい加減にしろよテメェら。話進まないでしょうが!」

 ノリが良いのは大いに結構なんだけど、会話がどんどん横に逸れていくのは如何なものか。
 
 すみませーん、と全然反省して無さそうな謝罪を一応は受け入れる。じゃないと本当に話先に進まないから。
 
「で、なんでそんなカッコしてんの?」
「あのね、黒髪とかいつものカッコだと目立つから自由に出歩けないでしょ。だから」
「はっ、まさかユリスの花嫁様……俺達に可愛さ勝負しに来たんですか!?」

 おい答え聞く気ないなら質問するなよ。なんだってんだ、ここの奴等はよぉ!
 半目で睨んでいるにも拘わらず彼等の勢いは全く衰えない。
 
「ふ、ふんだ、アタシ等だってあんたなんかに可愛さで負けたりなんかしないんだからね!」
「括目して見よこの勇姿! どうだハルちゃん!」

 カッとヒールを響かせて私の前に現れたのはウィルちゃんと騎士さん二人。
 ウィルちゃんに言われるまでもなく、限界まで目を見開いて彼らを見た。
 
 武人らしいガタイの良い体躯の男が揃いも揃って、私と同じ侍女服に身を包んでいる。
 服がパッツパツで、身体がムチムチなのが丸分りだし、見えてる二の腕とかふくらはぎとかの筋肉が生々しくて、普通に騎士服着ているよりも迫力がある。
 ハッキリ言おう。こんなメイド嫌だ!!
 
「えっ、これ何の勝負!? 確かにそれで人前に出るのかなり勇気いると思うけど、可愛さ勝負なの!? 私同じ土俵にあげられてるわけ!? ごめんけど、それは私の圧勝だよ!」

 つーか、これに負けたくないわ。ウィルちゃんの侍女服姿に負けた日には私女やめる。むしろ人間失格なくらい落ち込む。

「うん、悪いウィル……それ無いわ。気持ち悪ぃから早く脱いでくれ」
「ていうかどっから持ってきたんだよ。なんで三着もあるんだ……」

 口々に他の騎士の人達もげんなりした表情でダメ出しをする。良かった、この感性は日本もこの国も一緒だった。
 
「くっ、仕方ない、アタシ達の負けのようね。だけどハルちゃん、アタシ達にはまだ最終兵器があるのよ!」
「まだやるの……?」
「やるわよ!」

 なんでさっきから女口調なんだろう。変な所で完成度上げようとしなくていいよ。段々とオカマバーに居る気分になってきたじゃないの。一度も行った事ないけど。
 
「ふふ、例えハルちゃんでもこの人に勝てるかしら? 出でよ、ヒューイット!」
「あ?」

 実はいらっしゃったヒューさん。真面目な彼は奥の方で一人でせっせと雑務をこなしていました。もしかしたら、関わり合いになりたくなかっただけかもしれないけど。うん、こっちの可能性の方が高そうだけど。
 
 しかしウィルちゃんが放っておくはずもなく、お声が掛かってしまった。途轍もなく機嫌悪そうだけど、私以外誰も気にしていないみたいなので黙っておこう。
 
「ねぇちょっと、ヒューさんはダメだよ」
「どうして?」
「だってどう考えたってアレに勝てるわけないじゃん! ソレスタさんでも連れて来ない限り勝ち目ゼロじゃん!」
「だからこその最終兵器じゃないの!」

 おほほほ! と高笑いするウィルちゃんの腹に一発グーで決めつつ、ブーイングをやめない。
 しかし、私が拒否すればするほど楽しいウィルちゃんは、嬉々としてヒューさんへ駆け寄って行った。
 



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