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「興津さんとヨエルさんって付き合ってるんですか……?」

 聞いていいんだか聞いちゃいけないんだか分らないけど、気になったからズバッと訊いてみる。答えたくなきゃ興津さんならそう言ってくれるし。
 
「あいつ等って付き合うとかいう概念あるの?」

 イエスかノーで返ってくるものだとばかり思っていた私は、意外な質問返しにポカンと間抜けな顔をしてしまった。
 あいつ等っていうのは、獣族っていう意味だろう。
 確かに、半分は動物だからね。生活スタイルも、どちらかというと動物に近いみたいだしね。
 群れで生活するものや、基本単独行動するものや、一匹の雄が雌を多く侍らせていたりとか、いろいろあるらしい。
 だから、夫婦になるというのはあるのだろうけど、恋人っていう人間的な考えはないかもしれない。
 
「ヨエルが何で私に執着してんだか知らないけど、ちょっと気がかりではあるわね」
「気がかり?」
「だってあんた、もうちょっとしたら私は帰んのよ。その後ヨエルはどうすんのかなって、一応は思うわ」

 お互いの服を交換しながら語られた興津さんの言葉に、私は息を詰まらせた。関係性は全然違うかもしれないけど、私をひたむきに慕ってくれているホズミとヨエルさんが重なったから。
 
 私が日本に帰ったらホズミはどうなるんだろう。それは何度も考えてきた事で。
 でも、どれだけ考えても良い案などなくて。離れないでと泣いたホズミを置いて帰る薄情な私。

「ま、あいつも大人だからね。何とでもするんでしょうけど」

 ホズミはまだ子供だ。獣族の十歳はもう一人立ちする頃なのだそうだけど、日々のホズミを見ていたらまだまだ親離れ出来ない子供だ。
 ディーノによろしくとしか言えない私は、きっとホズミに恨まれるんだろうな。
 
「はい、出来た」

 今日の私の格好は、マキシ丈のワンピだったから興津さんが着てもそこまで違和感はない。まぁ彼女の方が背が高いからちょっと踝くらいから見えてしまっているけど。
 私の方も、白と黒で統一された給仕服は、若干大きい気がするけど気になるほどじゃないし、なんていうか、うん。こっちの方が似合ってるな、私。
 
 大それた肩書き宛がわれて豪華な暮らしさせてもらって、良いお洋服着せてもらうより、こうやって働く娘風の方がよっぽど私らしいわ。なんて悲しい現実。
 そして興津さんのこの贅沢な調度品と質の良い衣装の似合う事ったら。完全に我が物にしちゃってんじゃない、違和感が裸足で逃げて行ったわ。
 
「さてと、じゃあ仕上げといきますか」

 興津さんは魔法を使用する際の杖を取り出すと、カンと大理石の床を叩いた。
 ちょっ、傷ついたらどうすんだ!
 しゃがんで確認しようとすると、その場が紫色に光り出す。
 何か魔法を仕掛けたらしいのだけど、特に何も変化はないまま光は消失してゆく。

「え?」

 何もない、と思ったのは数秒だけで、すぐに違いが現れているのに気付いた。
 肩から胸にかけて流れてる私の髪が、亜麻色に変化している。
 驚いて興津さんを見ると、彼女の長いウェーブの掛かった髪は真っ黒になっていた。
 
「この世界の人は髪染めるって概念ないみたいよね」
「うおー! すげー! 私初めてっすよ、今まで髪染めた事なかったんす!」
「ああそう、真面目な高校生やってたんだ」

 テンション上がり過ぎて口調がおかしくなった私に、興味無さそうに興津さんが返事をくれた。
 鏡で全身をチェックする。うん、コスプレしてるみたい! メイド服だし髪の色も違うし。
 こういうのもたまには面白くていいなぁ。

「じゃ、そういう事で」
「どういう事で!?」

 コスプレだけさせて、またソファに座って寛ぎだした興津さん。テーブルに両手を突いて詰め寄る。
 
「私の印象だと、城の人間の大半はあんたの顔ってハッキリ知らないのよね。黒髪や衣装にばっか気を取られて」
「マジか……!」

 ちょっとそれショックだ。別に一度見たら忘れない美少女だとか、そんなじゃないのは自分が一番良く知ってる。だけど結構長い事ここに居座ってるのに未だ顔を認識されてないなんて、地味に傷つくわ。
 
「好都合よ。こうやって入れ替わり易いんだから。あんたね、教会に狙われてる自覚あるの?」
「あ! そういや、そうでしたね」

 実はそうだったんだよね。これといって表立って接触を図って来ないからすっかり忘れていたけど。教会はマクシスと、そしてユリスの花嫁である私を手に入れたい。
 だけど今私は王家のすぐ傍で、聖騎士であるディーノに守られている状態だから手が出しづらいから、機会を窺っていると言う事らしい。
 この祭りに便乗して動き出すんじゃないかというのがみんなの見解だ。

「だから私が影武者になってあげるって言ってんの。あんたは神降ろしの準備だ、聖騎士との密会だでこの部屋から出る事多いでしょ。その恰好の方がカモフラージュ出来ていいわよ」
「密会はしてない」

 ふるふると首を振って否定する。そんな事は一度たりともしたことないよ。
 だけど、そうね。この格好をディーノに見てほしい気はする。
 ユリスの花嫁だってジロジロと近くから遠くから見られまくるのも嫌だったし、これなら気兼ねなく外に出られる。
 
「ありがとう、興津さん! さっそくディーノに見てもらって来る!」
「行ってんじゃん密会」
「密会じゃない!」

 普通に正々堂々と真正面から騎士舎に行くんだよ! 他の騎士のみんなもいるよ!
 




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