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「さ、ヒューイットこれ着て!」
「はぁっ!? 着るわけないだろこんなもの!」
「そこをなんとか! オレ達を助けると思ってーっ」
「勝手に死んでろ馬鹿共がっ」

 テンション上がり過ぎて手に負えなくなりかけていたウィルちゃんの顔を片手で鷲掴み、そのまま壁に後頭部を激突させたヒューさんマジカッケー。
 ヤンキー漫画の喧嘩シーンみたいだ。
 
 脳震盪を起こしたらしく、伸びてしまったウィルちゃんに、他の騎士様方がわなわなと恐怖で震える。
 明日は我が身。やり過ぎはいくない。
 
「お前等もさっさと脱いで仕事に戻れ」
「はーい」

 さっきまでの悪ノリは何処へやら。皆さん素に戻った。流石ヒューさん。鶴の一声というやつだね。
 
「ところでディーノは?」

 はしゃぎ過ぎて本来の目的をすっかり忘れてたわ。
 
「もうそろそろ戻って来ると思うよ」

 あ、出掛けてたのね。そんな事さえもすぐに教えてもらえないなんてどうかしている。それにしてもディーノはいっつもどこかに出かけてるよね。忙しいんだろう。あんまり邪魔しちゃいけないな。
 勢いだけで押しかけちゃったけど、冷静に考えたらディーノは仕事中なんだから迷惑だよね。
 
 それを言ったらウィルちゃん達も仕事中だったわ……。あれ、仕事って概念が分らなくなってきたぞ。
 
「ディーノ忙しいんだね」
「そうだよ隊長は大忙しだよ! 出来る男だからあちこち引っ張りだこでさ」
「へぇー、まぁディーノ真面目だし頼まれたら断れ無さそうだもんね」

 ブラッドな部分さえ出なければだけど。あのスイッチがいつ押されるのか私にはいまいち分らないんだよね。
 
「じゃああんま長居しても迷惑になるし、私帰るね」
「えええ、何しに来たの!? ディーノ隊長に用事あったんじゃ!?」
「別にない。ただこの格好見てもらおうかなって思っただけ」
「見てもらいなよ!! 見せちゃいなよー!」

 まだちょっとソレスタさん口調が抜けきって無いウィルちゃんに肩を揺すられる。
 いつの間に意識を取り戻したんだろう。
 
「何を見せるんですか?」
「い、いたいっ! すごく痛いです!」
「あはは馬鹿丸出しですねぇ」

 おやぁ? 訊き慣れた声に後ろを振り返ると、ボールのようにがっしりとウィルちゃんの頭を片手で掴んでいるディーノと、その隣で朗らかかつ毒々しく微笑むルイーノがいた。
 ……ディーノはいいとして、どうしてルイーノまで気配消して歩けるの……。ルイーノのキャラの方向性が未だに把握しきれていないって気づかされた。
 
「ハル……?」
「はい、悠です」

 ディーノは私に気付いて驚いた表情で全身に目を通した。
 
「一瞬誰か分りませんでした。髪と服装で変わるものですね」
「だね、自分でもちょっとビックリした。ここまで来る間も誰にも気づかれてなかったもん」
「皆さん、ハル様の髪と服しか見てませんもんねぇ」
「いやそうなんだけど、直球で言われたら傷つくから!」

 緩く笑いながら、ザクッと突き刺さる一言をくれやがるルイーノ。
 彼女は私と会話しながらも、持っていた大きな籠を床に置いて、中身をそこら中に並べはじめる。
 
「さぁ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ルイーノの薬屋出張だよぉー、今日も高額ふっかけるよぉ!」
「ふっかけるんだ!」

 それ言っちゃうんだ。さすがルイーノ。なんて武家商売だ。
 高額だとおおっぴろげにしているというのに、あっという間にルイーノの周りには騎士さん達が群がった。皆真剣に薬を手に取って確認している。
 
「効果は確かですからね。多少値が張ろうと人気商品ですよ、彼女の作る薬は」

 へぇ、そうなんだ。確かに怪我した時とかの塗り薬も、効き目はばっちりだな。直りは早いし痕残らないし。
 けど、ダントツに罰ゲーム用の苦い飲み物出されてる方が多いから、そっちのイメージしかなかったわ。
 
「ディーノは買わなくていいの?」
「ええ。怪我なんてしませんから」
「うわぁ。さすが聖騎士」

 平然と言ってのけたディーノ。隊長さんは違いますね。
 
「ところで、その恰好は一体どうしたんですか」
「興津さんにしてもらった。この方が楽に部屋から出入り出来るでしょって」
「動かないでもらえると有難いんですけどね」
「はっはっはー」

 そんな嫌味には動じません。
 
「あまりあの魔女を信用しないで下さい。ハルを一人で外に出して教会の動きを見る囮にしているのかもしれない」
「かもしれないねぇ。まぁいいんじゃない?」

 苦い顔をするディーノにひらひらと手を振って笑う。
 そもそも興津さんは味方というわけでもない。ただ今は利害が一致して協力関係にあるというだけだ。
 彼女の日本に帰るという目的が達成されないと見ればすぐにだって寝返る可能性もある。
 セツカさんの存在もあって友好的な関係を築けただけめっけものだ。

「それで、俺に何か用事でしたか?」
「うんにゃ。どのくらいこの変装が役立つのか確認がてらディーノの顔見に来ただけ」
「……では、これから少し一緒に行ってもらいたいところがあるんですが」
「うん。いいよ」

 ちょうどディーノの方から私の部屋へ行こうと思っていた所だったと言う。
 なんだろう、珍しいな。
 
 首を傾げつつ私は頷いた。
 
 



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