page.2


 
「やっぱマクシスいつでも捕まえられるようにしとこ」

 ぶつぶつと呟く興津さん。祭りの日が近づくにつれ、彼女の中でも色々と身の固め方とか、算段とか色々と考えるところが出来てきたんだろう。
 そしてこの発言から察するに、神降ろしは失敗すると踏んでいるようだ。まあいいんだけどさ、私自身成功する確率の方がよっぽど低いと思ってるし。
 
 でも出来るなら私に聞こえないように言って欲しかったよ。もしくはわざと私に聞こえるように言って、プレッシャーを与えようとしているんだろうか。
 ……いや、彼女に限って他人の事を考えての言動なんて有り得ないかな。きっと、ただポロッと口を突いて出てきた本音なんだろう。
 
 なんていうかさ、興津さんが悩むのも当たり前だしね。一応協力してくれる気でいるみたいだし、文句なんて言いたくないんだけどさ。
 
「興津さん、仕事は?」
「あ?」

 ルイーノと同じメイドさん服を着込んだ興津さんが、私の部屋で私以上にこの部屋の主らしく優雅にソファに足組んで座ってお茶を飲んでるってどういう事。
 
 彼女は今、私付きの侍女として城に紛れ込んでいる。いつまでも祭壇のある所に潜んでいるわけにもいかないのでね。なんてったって興津さん美人だから目立つし。
 
 しっかしこの人仕事しないんだわ。一応形だけでもしてるフリはして欲しいんだけどなぁ。侍女の格好した人が、ぷらぷら城の中歩き回ってたら怪しまれるじゃない。何度も言うようだけど、興津さん目立つんだから!
 
 という事をやんわり伝えてみた所、今度は私の部屋に入り浸るようになったというわけだ。兎さんはとても嬉しそうだけどね、興津さんがここに居てくれるのが。
 一生懸命興津さんにくっつこうとしているのが、可愛いのなんのって。しかし興津さんの反応はドライなものなんだけど。
 
「そもそもさ、やっぱ私がユリスの花嫁だって設定の方がしっくりくるわよね」
「はい?」

 また突然変な事言い出したよ。会話のキャッチボールが出来ない大人多いな私の周り。ブラッドが筆頭だったけど、ディーノと足して二で割ったらいい感じに緩和されたから、王様と興津さんがいい勝負かも。
 でもこの二人だと全然会話を成立させない理由が違う気がするね。王様は相手の言いたい事が分かってる上で無視してるけど、興津さんは相手の言い分を聞く気がない。
 ダメな大人共め!!
 
「ほら見て、私のこの豪奢な部屋に似合う事。全く浮いてない」
「あ、はぁそうですね。そのメイド服以外は」
「よしチェンジ!」
「はぁっ、何を!?」

 パチン、と見事に指を鳴らしてから、私を指差した。
 きっと碌でもない事だろうとは思うけど。ぎゅっとホズミを抱きしめる。
 
「何って服に決まってるでしょ。あんたがこれ着て、それを私が着るのよ」
「いやいや何言って! 興津さんがこれ着るって、年齢的に」
「着こなせるに決まってんでしょうがっ!!」

 ひぃっ! すごい剣幕だった。美人さんの怒り顔は迫力がハンパないです。
 ガクブルと震えるとホズミが上向いて顎をペロリと舐めて慰めてくれた。ああ、私この子いなかったらもうとっくにストレスで死んでいたかもしれない。そのくらい毎度癒されている。
 
 なんだか分らないけど、引かなさそうな興津さん。こっちが折れるしかなさそうだ。
 
「じゃあ、寝室の方に
「なんでよ、ここでいいじゃない」
「ここでいい理由がないっ!!」

 今この部屋にいるのは私と興津さん、兎さんにホズミだ。
 二人って言うべきか二匹っていうべきなのか、どっちにしろ獣人組は雄ですから!
 しかも兎さんはもうとっくに成人してる青年ですよ、私ちゃんと人型とってる所を何度も似てるんだからな!
 ホズミだって、少し前まで一緒にお風呂入ったりしてたけど、最近は私が着替える時はちゃんと移動してくれてるっていうのに!
 
「ああ、ヨエルの事なら気にしなくていいわよ。私以外の裸見たりなんてしないでしょ」
「…………え?」

 ヨエルっていうのは兎さんの名前だね。うん、そうだ。そうのはず。
 確認の意味も込めてなのか、興津さんがチラリと兎さんの方見てるし。
 
 て、え? 興津さん以外の裸見ない? え、じゃあ興津さんの裸は見るの?
 ん、んん!? 取りようによってはすごい発言に私の脳みそが破裂しそうになった。
 いや、取りようによってはっていうか、そうとしか取れないよね、今の!
 
 なんだか私が恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながらヨエルさんを見ると、目を瞑って片方の前足で耳元をカカカカと掻いていた。
 わっざとらしい動きだな!
 
「……ホズミ、ヨエルさん連れて寝室の方行ってて」

 見ないと言われてたって、そこに男性がいるのに着替えるなんて変態チックなプレイは出来ません。
 わふ、と一吠えしてからホズミはヨエルさんの傍まで行くと人型になって、彼の首根っこを掴んで寝室へと消えていった。扉の向こうで一戦交えてないといいけど。
 どうもあの二人は相性があまり良くない。狼と兎だしね、仲良くってのも難しいか。



|




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -