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「でも、魔女なんて明らかに怪しい人間を王宮のこんな奥まで連れてきちゃっていいんですか?」
「失礼致します、黒衣の魔女様をお連れ致しました」
 
 あ! 重要な部分を訊きそびれてしまった。
 侍女さんに連れられてやってきた黒尽くめの女性。
 
 頭はフードを被って更に目元まで黒レースのヴェールで隠されていて容姿は分らない。
 だけど鼻より下だけ見ても、美人さんである事は分かる。
 透き通るように白い肌と、桃色の口紅がひかれた唇がとても色っぽいのだ。
 
 一番色っぽいのは胸か足か……。魔女らしいローブを着てはいるんだけど、胸元はガバッと開いていて谷間がとてもセクスィー。
 ローブの腰より下は前が膝くらいの丈なのに対して後ろは踝くらいまであるデザイン。
 美脚が引き立っていますね。
 
 おお! と身を乗り出したのは私だけで男性陣は冷静に魔女を観察していた。
 あれれ? おかしくないですかね。大興奮した私が変みたいな空気になっちゃってますけど。
 
「初めまして王妃様皆々様、わたくしカズサ オキツと申します。占い師として身を窶している者でございます」

 優雅に腰を落として礼を取った魔女さん。
 全員が黙って見守っている中、私だけがまた反応した。
 
「かずさ おきつ……おきつ かずさ?」
「はい。興味のきょう、津波のつ、上下のうえ、総動員のそう。興津 上総。日本人です」

 にっこりと彼女の口角が三日月のフォームを描く。
 にほんじん……。どくりと心臓が大きく脈打った。
 
「ぜ、前世が日本人とか?」
「はぃ? 前世!? ぶはっ、あんた面白いこと言うわね漫画の読み過ぎだし! 中二病!?」

 ウケる! とお腹を抱えて爆笑する魔女さん、ねぇさっきまでの畏まった態度どこ行ったの。
 でも、漫画とか中二病とか言うって事は、少なくともこっちの人じゃなくて日本人なのは確かだ。
 魔女さんにセツカさん紹介したらどんなリアクション取るんだろう。どきどき、ちょっと楽しそう。
 
「失礼しました。同郷の方に会えた嬉しさでつい」

 嬉しいなんて感情は無かった絶対無かった!
 私達の会話の意味が分らずみんな反応し損ねていたのだけれど、魔女さん改め興津さんの『同郷』という単語に大きく目を見開いた。
 
「お姉様と同郷と仰いました? お姉様はユリスの花嫁なのよ分かってらして?」
「ええ。よぉく理解しておりますよ、王女様。この世界でたった一人、私と同じ異世界から連れて来られた日本人。彼女はまだ高校生かしら?」
「卒業式の日に連れて来られました!」
「マジで!? 日本人卒業しちゃったんだドンマイ!」

 このお姉さんさっきからすぐキャラ崩れちゃうんだもん、面白いわぁ。
 日本人だっていうのとこのキャラ立ちのせいで、既に私は親近感湧きまくりなんですが。
 ホズミとディーノが警戒を解いていない気配がするので、まぁ彼らに任せておけばいいか。
 
「俄かには信じられません。異世界の扉を通って来る為には神の力が必要なはず。私はハル以外呼んでおりません」
「そうねぇ、聖騎士の呼びかけがないと花嫁は来ないものねぇ」

 おっとりとした喋り方で王妃様がディーノに同調する。
 その通り。私だってディーノというかブラッドのせいで型破りな感じで異世界入りしちゃったけど、なんにせよ聖騎士が行う儀式で来た。
 
「神の花嫁とかその呼び名のセンスの無さはこの際置いておいて。私こそがそれだった、とは考えられませんか? その子はただ誤送されてきただけ」

 …………はい?
 なんかすごい事言われたような気がする。
 
「そ、その発想は無かった……」

 誤送。誤って送られる。つまり私はこの世界に来なくていい、来ちゃいけなかったのに何の因果かディーノのところに落ちてきちゃった。
 しかも興津さんがよく分からないけど、違う場所に転送されたか何かであの儀式の場に現れなかったせいで、人が入れ違っているのに気付かなかった?
 
 ユリスの花嫁であるかどうかの区別は、異世界人であるかどうか。
 じゃあ、私は一体今まで何のために――
 
「突然現れた女に言など信じられないのは百も承知で申し上げております。しかし、そこの少女。確かにその黒髪と雰囲気は日本人に違いないでしょうが、こちらに送られてきてから今までの間に一体何を成しましたか?」

 さっきまでのフランクな態度を一転した興津さんは無感情に問う。
 ヴェールで隠された目が鋭く私を見据えている気がして息が詰まった。
 返す言葉がない。私こそがずっとずっと引っかかっていた事なのだから。一体何を成す為に呼ばれたのか。
 
「私には確固たる神に与えられた力があります」
「それは、未来の予言の事を言っているのか」
「予言などと大それたものではありませんが、ほんの少し未来が見えるのは真実です。町の人々の下さった評価は王妃様のお耳にも届く程と自負しております。それに、それだけではないのですよ?」

 どこから出したのか、興津さんは背の丈ほどもある、綺麗な細工が施されている木の杖を手にしていた。
 
 地面につけると、しゃらんと装飾品が揺れて音が鳴る。
 すると途端に彼女の周りが紫色に光り出した。
 
「なっ!」

 それはソレスタさんが魔術を使う時と同じ光景だった。
 ただ魔法陣はなく、ただ無数の球体の光が興津さんを囲んだかと思うと一層眩く輝き、彼女の姿を消した。
 
「ちょっとした転移です」

 全員が固唾を飲んで彼女が消えた場所を見守っていると、全く真逆の方向から声がした。
 一斉にみんな振り向く。
 するとクスクスと笑う黒衣の魔女が私達の真後ろに立っていた。
 
「異世界人が魔術を使うのか……」

 一体誰が呟いたか分らない。私もそうだし、みんなも思った事だった。
 



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