▼page.3 急遽開催される事となりました、この円卓会議。実況はこの私、ユリスの花嫁こと葛城 悠がお届けします。 ちょっとした思いつきから始まった食事会は、そんな畏まった雰囲気の中で催されております。 天気がすこぶる良いからと、外でお食事パーチーを開く事と相成りました。 一流の腕を持つ庭師の方々が丹精込めて整えた庭園でそこまで品数は多くないにしても、贅沢なラインナップの料理がテーブルに並べられております。料理名は私にはいまいち分りません! なんちゃらのソテー秋風にのせて〜みたいな。 食卓を囲っているのは私とホズミにラヴィ様そしてフェイランくん。 マリコさんとディーノとザイさんは後ろで待機。 いや見張られながら食べるのとても嫌ですって言ったんだけど聞き入れてもらえなかった。 流石に一国の王女王子と同席は許されないらしい。なら私とホズミは何なんだっていう。あ、私はユリスの花嫁か。 「フェイランくんって食べ物好き嫌いないの?」 「はぁ!? あるわけないだろ! 馬鹿にしてるのか!」 何故そんなケンカ腰。ちょっとした話題作りなだけなのに。あ、そうかラヴィちゃんが居るから緊張してるのか。 「ホズミはトマト苦手だよね」 「……ぶちゅってなる」 初めて食べた時の触感を思い出したのか、苦々しい顔をしている。 いやぁあの時のホズミのリアクションは最高だったよ。リンゴみたいなのを想像してたらしくって、思い切りかぶりついたら中からドロッとしたのが飛び出してくるし、独特の酸味があるしで暫く固まってから、ブルブル震えてた。 吐き出していいのか飲み込まなきゃいけないのかみたいな葛藤をホズミがしている間、私は必死で笑いを堪えながら観察してたともよ。 「慣れないと食べにくいものね。でもトマトは頭良くなるから食べなきゃダメよ?」 なんかラヴィ様が、お母さんが子供にどうにか食べさせようして言う、非科学的で根拠の無さそうな説を語っている。 だから貴女はホズミのどういう立場の方なんですか。 「ラヴィちゃんは?」 「虫は食べません」 「大抵の人はそうじゃないかな!」 たまにテレビでイナゴだとか芋虫みたいなのとか油で揚げちゃう料理紹介してたけどさ! ごく少数派だと思うよ虫食べる人。 フェイランくんが口を手で押さえて視線を彷徨わせている。ちょっと想像しちゃったね君。 因みにホズミは、食べないんだ? みたいな顔をしている。流石狼。 そういや家の近所で飼われてた犬も、目の前をウロウロしてたカマキリをハムハムしてたなぁ。 食材の話をしているのに、どうしてだか食事中にしちゃいけない話になってしまった。 「あらあら皆さんお揃いで」 微妙な空気が流れだした時、ある意味ナイスタイミングで声を掛けられた。 振り返ると、王妃様がお付の方が差す日傘の下に佇んでにっこりと微笑んでいらっしゃる。 出た……トラブルメーカーならぬ第二のフラグメーカーが! 王妃様は表立っては目立った動きはないんだけど、話を聞いてたら、おいちょっと待て! という事が多い。 ラヴィ様に城下町で演劇があると教えたのも王妃様だし、キリングヴェイに行くソレスタさんにホズミを同行させるよう頼んだのも王妃様だったんだと後で聞かされて身震いしたよ。 実は裏で糸引いているというか、いっちょ噛んでいるというか。 ラヴィ様との血の繋がりを強く感じさせるエピソードだね。 「酷いわ、私も誘ってくれればいいのに」 「だってお母様は先客がいると聞いていたのだもの」 誘うつもりではいたのかと、ラヴィ様以外全員の目が遠くなる。どんだけ緊張を強いるランチにするつもりだったの。 「そうだわ! 折角だし皆さんもご一緒しません? 私、今巷で話題の魔女様をお招きしましたの」 手を胸の前で合わせて名案とばかりに王妃様がはしゃぐ。 「魔女、ですか?」 「ええそうよ。なんでも未来を予見出来るのだとか」 ビンゴだ! 思わず立ち上がってしまった。王妃様が言っているのは黒衣の魔女に違いない。 なんでも魔女さんの噂は宮中でも有名になってきているらしく、興味を持った王妃様が使者をやって呼んだのだとか。 勿論身元の割れない、しがない一介の占い師なんて怪しいものだから、かなり厳重な警備を敷くらしいのだけれど、そこまでして会いたいかと私は言いたい。 でもこれは飛んで火に入る夏の虫というやつじゃないの! ディーノを振り返ると、若干眉間に皺を寄せてはいたけれど、頷いて許可をくれた。 「私も魔女さんに会ってみたいです!」 「まぁ! ユリスの花嫁と魔女の対決ね! 楽しみだわ」 いえ別に闘ったりしません残念ながら。ただどんな人なのか直接見て確かめたいだけ。 魔女というくらいなのだから、きっと彼女の能力の源は魔力だろう。だったらディーノにお任せ! 騎士としてだけでなく、今やソレスタ様に負けずとも劣らない魔力のエキスパートだからね。彼に魔女さんの力が本物なのかどうか分析してもらえばいい。 「魔女様もね、神様の使いだと仰っているのだそうなのよ」 「は?」 「だから新旧対決ね」 いえだから対決はしませんってば。ていうか私は旧か、旧なのか! 「お母様、魔女が神の使いだと信じているのですか?」 「さぁ。それは一度見てみないと分らないわ。だからね、直接会ってお話してみたいと思ったのよ」 うふふ、と微笑む王妃様はやっぱり一国の母であるだけあって、只者じゃなかった。 自らを神の使者と宣う者を見定めようとするなんて。 「もうそろそろ来るはずなのだけれど。楽しみになって来たわ」 どうやらここで魔女さんを迎え撃つらしく、王妃様は当然のように空いていた席に腰かけた。 「フェイランくんはどうする?」 途中から置いてけぼりを食らっていたフェイランくん。このまま居たら次何時解放されるか分かったものじゃない。興味がないなら今のうちに退散した方がいい。 フェイランくんはチラリとザイさんに目配せしてから「御一緒させていただきます」と王妃様に頭を下げた。 あれ訊いたの私なのに。まぁいいんだけどさ。一番偉いの王妃様だし。 前 | 次 戻 |