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「フェイランくんはこれから成長してくんですから今から幾らでも矯正できるでしょう、ラヴィ様が付きについて自分好みの、例えばフランツ様みたいに物腰の柔らかい紳士に育て上げるとか」

 そういや最近気付いたんだけど、ラヴィ様ってオジ専ってわけじゃなくて、大人な考え方を出来て理解力のある、つまり国の重圧を背負って立つラヴィ様と対等又は支えてくれるような包容力のある人がいいって事なんじゃないかなぁと。
 
 そんな人はそうそういないよね。今まででラヴィ様のおめがねに適ったのはフランツさんだけだった。
 条件厳しそうだもんね。一国の王女なんだから仕方ないけど。
 
 だからですよ。好みの男がいないのなら、作ればよろしいじゃない! 大作戦。
 力説する私を最初はぽかんと見ていたラヴィ様だったけれど、途中から目つきが変わってきて、今はとても真剣にテーブルを睨みながらブツブツ呟いている。
 
 おーい帰ってこーい。顔の前で手をひらひらすると我に返ったラヴィ様は、目の前を行き来する私の手をがっしと両手で握りしめた。
 
「さすがお姉様! 何者にも染まっていない無垢な状態から、わたくし色に染め上げるのね」
「う? うー、うん」

 あれ私そんな事が言いたかったんだったか? そんな紫の上計画みたいな内容を話したか?
 ただ、国主たるに足る資質をラヴィ様がスパルタで磨き上げればいいじゃない、というような……、これって近からずとも遠からずなのかな。
 いやでも紫の上計画はむしろ男の夢では……。
 よく分からん、まあラヴィちゃんがちょっとはエイシェンくんに興味持ってくれたならそれでいいわ。
 
 実はラヴィ様の結婚相手候補は何人もいるらしいんだけど、最有力なのはエイシェンくんだとか。一番の友好国の王子だしね。
 どうせ結婚するならより良い関係を築いた方がいいに決まってる。
 
「では早速彼を訪ねていってみる事にします。付き人の方も気になりますし」
「ザイさん?」
「あら、ザイという名なのね」

 おっとこれは余計な情報を与えてしまったかもしれない! ごめんねフェイランくん!
 しかし、フェイランくんとあんま接点持たないようにしてたはずなのに、ちゃんとザイさんの存在は認識してたとは、侮れないねラヴィ様。
 ザイさん初めて見た時から、ちょっとラヴィ様好きかもなぁとは思ってた。
 
「お腹空いたぁ……」

 ムクリと起き上がって人型を取ったホズミが緊張感のない半分寝ぼけた声で言う。
 最近この子食っちゃ寝食っちゃ寝してるけど、本当に大丈夫か。
 今はまだ羨まし過ぎるくらい贅肉の欠片も見えないけど、気が付いたら肥満児になってたりしないだろうか。
 
「もうすぐ昼ご飯だから、軽くしか食べちゃダメだよ」
「えー」

 不服そうなホズミの口に有無も言わさず柔らかいパンを放り込む。
 もぐもぐごくん。漫画ならそんな効果音が入りそうな感じで飲み込んだタイミングでレモン水をあげる。
 
 ふはー! と一息吐いたホズミをラヴィ様とマリコさんが微笑ましそうに見詰めている。
 
 ちょっと待って! マリコさんは分かるよ。でも同い年のはずのラヴィ様がどうしてそんな「うふふ、ほんと仕方のない子」みたいな角度からホズミ見てるの!?
 どこまでも大人びたお姫様だ。
 
「あぁそうだわ。折角だからお姉様達も一緒に行って、皆でお昼をいただきましょう」

 さも名案と言わんばかりに手を叩いて目を輝かせるラヴィ様。
 今、なんと?
 
「み、みんなって?」
「わたくしとロウランの王子と付き人、お姉様とホズミですわ」
「ですわ!?」

 いやツッコミ入れたのは語尾じゃなくて! 強制的に決定的に私とホズミをメンバーに入れちゃってる事だよ!
 
 そうだった。最近いろんな事があってたくさんの知り合いが出来て、それはもうキャラ強すぎる人達ばかりだったからすっかり忘れていたけど。
 ラヴィ様って一級フラグ建築士なんだった……。
 
 だってそうじゃん、この面子が揃って何も起こらないわけないじゃない。
 ラヴィ様が行くならマリコさんも行くし、多分私が行くならディーノも出動する。
 
 どんっだけ濃い空間にする気なのよラヴィ様っ!
 ちらっとルイーノを伺ってみると、「いってらっさーい」と無邪気に手を振られた。
 いいなぁその第三者的な傍観者の距離感。某優秀な家政婦よりもよっぽど遠いよ私とルイーノとのこの距離。
 
「ホズミ、どうする!?」
「お昼ご飯食べる」

 ぎゅるるると空腹を切実に訴えるホズミに断ると言う選択肢はないらしい。この子に人間同士の微妙な空気感を読むとか無理だった。
 
 お昼ご飯ならここでだって食べられるじゃない! とか大声で言いたいのをぐっとこらえた。
 ホズミを理由にして断ったら、最悪ホズミだけここに置いて私は出席という流れになりかねないと気付いたからだ。ガクリと肩を落とす。
 
 ごめんディーノ、仕事増やしちゃった……。
 
 



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