page.1


 黒衣の魔女が王都に現れたのはほんの最近の話らしい。
 ある日大衆食堂、というか場末の酒場にふらりと現れ、そこにいた男達に賭けをもちかけた。

 簡単なカードゲームで、勝ちに勝ちまくった魔女はそこいら中の男から金を巻き上げたのだそうだ。
 イカサマじゃないのかと詰め寄る輩に彼女は言った。

「私は未来が見えるのよ。だから負けないの」

 誰も信じなかったが、付け入る要素としては十分で、先が読めるのならばやはりそれはイカサマじゃないかと捲し立てた。
 だが魔女は一度手に入れた金は私のものだから返すわけにはいかないと突っぱね。

 その代わりに貴方の未来を見てあげようと提示した。勿論口から出まかせに違いないと取り合わなかったが、彼女が次に言った言葉に男は凍りついた。

「貴方の娘さん、明日の夜結婚したい相手がいるから会ってくれって言うわよ。覚悟しときなさいね。それと、娘さんが可愛くて手放したくないからって反対するのはお勧めしない。縁切って出ていっちゃうわ、貴方と奥さんの時みたいにね」

 にんまりと口角を上げて微笑む魔女は、怪しくも艶やかだった。
 何を馬鹿なと罵ろうとしたけれど、男に溺愛している娘がいるのも事実で、実は男がいるらしい雰囲気も何となくは察知していた。
 
 だがこんな話を誰にもした事がなかったし、娘の知り合いにいかにも怪しげな魔女がいるとも思えない。何より、自分と妻の結婚当時の事をどうして知っているのか。
 ゾクリと背が粟立つ。
 
「掛け金を返す返さないの話は、明日以降で良いかしら?」
 
 何でもないように言ってのけた魔女は、反論も許さず金を持って酒場から消えた。
 
 そしてその翌晩、魔女の言う通りになったのだった。
 その噂は酒場での男の知人を発信源として瞬く間に広がっていった。
 
 お金を積んで自分の未来を占ってくれというものが後を絶たなくなり、今では昼夜問わず大繁盛の占術屋だ。
 
「名は絶対に名乗らないのだそうです。それと、よく兎族の少年と共にいるところを目撃されているとか。そのくらいでしょうか……彼女自体の情報は殆どないに等しいですね」
「よくもまぁ得体の知れない人物の言を皆さん鵜呑みに出来るものだわ」

 報告書をざっと読みあげるマリコさんの話を聞いてラヴィ様が腕を組んだ。
 納得がいかないわ、と眉尻を上げている表情もなんて可愛らしい。
 
 あんまりにも怪し過ぎる黒衣の魔女について調べてもらった結果、とんでもなく何か事件を起こしそうなフラグを立てまくっている人だという事だけが分かった。
 
 それ昔っから漫画やアニメでよく見かけるパターン! ってくらいベタに怪しい人物だ。
 
 まぁでも、毎日あんなにも大勢の人を占ってもなお、未だあの人はインチキだというような声は上がっていないらしく、未来を見る能力というのはあながち嘘ではないのかもしれない。
 
 賢者ソレスタさんに言わせると「神様じゃないんだから、人間如きにそんな大それた力があってたまるか。あたしが欲しいわ!」との事だった。
 あんだけの力を持っていてまだない物ねだりをするのか、なんて強欲な。
 
「一体、何者なんでしょうねぇ」

 姿を見ていないから想像での人物像を頭の中に描く。峰不二子さんのような体つきに、フードつきの長いローブ(でもやたら露出が激しい)を着た美女。
 
 ああ、もう分り易! とても丁寧で分り易く悪者魔女さんだ!
 あからさま過ぎて逆に疑いたくなるよね。
 
 一度話をしてみたいとディーノに言った所、当然だけどいい顔されなかった。
 他の人達にも先走るな、今は様子をみろと散々言われたので大人しく城で待機しておりますが。
 何か動きがあればお爺ちゃんのところの優秀な必殺仕事人が情報提供してくれるらしいので、今はそれ待ち。
 
「ところでラヴィ様、その後フェイランくんとどうですか」
「どう、と仰られても」

 はぐらかしているというわけではなくて、本当に何もないから進捗を聞かれても困るといった風なラヴィ様。
 
「わたくしよりも、お姉様の方が仲が良さそうではないですか。よくここに入り浸っているという事ですし」

 うん、それは取りつく島のないラヴィ様と一緒に居るのは気詰まりだから、楽していられる私のところに逃げてきてるだけなんだけどね。
 日本の同年代の男の子と比べたら、フェイランくんは平均的な感じだと思うんだ。
 好奇心旺盛で感情が素直で……、王族が平均的だったらダメじゃん。
 
 いやでも、あれであの子も場は弁えてるというか、形式ばった喋り方も態度も取れるんだよ。私にはあんなだけど。
 
「ラヴィ様からしたら子供過ぎて話にならないかもしれないけどねぇ。逆に育てる楽しさってのもあるかもですよ?」
「育てる?」

 聞き返しながらラヴィ様は私の太腿に前足と頭を置いてウトウトしている狼姿のホズミを見る。
 完全にラヴィ様がホズミとフェイランくんを同レベルで見てるってのが分かっちゃったね今の。 ……あながち間違っちゃいないかもしれないけど。

 続きを、と目線で訴えてくるラヴィ様にちょっとは興味をそそられたのかなと気をよくする私。
 


|




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -