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「息災なようで安心した。全く何を遠慮しとるのか一向に顔も見せんで。だがまぁ、言い面構えになったな」
「……、ありがとうございます」
 
 堅いよ! かっちこちだよディーノ!
 でも確かにお爺ちゃんの雰囲気が私と話してるときと違って、とっても威厳たっぷりなんだよね。こっちが素だったりするんだろうか。
 だとするとえっらい狸だな……。曲者で評判だったらしいからね、元宰相閣下様は。
 
「しかしこうしてユリスの花嫁様と聖騎士であるディーノが揃っているのを改めてみると」

 一度言葉を切ってお爺ちゃんはしげしげと私達を見比べた。
 
「ひ孫をこの目にするのも近そうですな! 出産予定日が分り次第この老いぼれにもご連絡下さい」
「そんな予定はどこにもないよ! カレンダーのどこ探してもないよ! お爺ちゃんは神の使いと聖騎士をどんな風に捉えてるの!?」
「いやしかしユリスの花嫁様、することをすれば子は成されます」
「してねぇっつってんのよ!」

 こんのクソジジイ! と言いそうになって流石にそれは飲み込んだ。
 本当に危なかった。すぐそこまで出かかったから。
 お爺ちゃんのこの下世話ささえなければ好きなのに。
 
 人生の大先輩にして国を背負って立ったような偉大な人に向かって、無礼千万な物言いをしてしまったせいで、珍しく横でディーノが焦っている。
 お爺ちゃんは大きい声で笑ってるんだけど、やっぱあれは拙かったか。
 
「ディーノ、儂は悲しい。貴様には男としての甲斐性というものが欠落しているのではないか。据え膳くわぬは」
「大真面目な顔してとんでもない事言わないでお爺ちゃん! それ私の身の危険に繋がるじゃないっ」

 私は膳になったつもりはない!
 私はお爺ちゃんの権威というものを正しく理解してないけど、今の二人の様子をみている限り、お爺ちゃんの命令をディーノは断れないような関係なんだろう。血縁とか関係なく。
 
 そのお爺ちゃんが、私に手を出してしまえと言えばディーノ真面目に受け入れちゃうかもしれないじゃない!
 なんて怖い事言ってるのこの人っ。
 
「おいお前等! 勝手に出ていくな声くらいかけろ」

 店から出てきたヒューさんが眉間に皺を寄せてツカツカと大股こちらへやってくる。
 思ったより遅い着きだなぁ。もしかして今の今まで喧嘩してたんだろうか。これってケンカップルってやつだろうか。

 少し遅れてセツカさんが小走りでついてきていた。だからヒューさん……女性を置いて勝手に自分のペースで歩くとかさぁ、ああもうほんと残念なイケメン。
 
 あれでも、私も何回かヒューさんと城内歩いたりしたけど、その時はちゃんと合わせてくれてたような。

「おやアルガイスト家の坊じゃないか」
「っ! ファーニヴァル閣下!? これは、大変失礼をいたしました。おい貴様ら閣下に立ち話をさせていたのか!?」
「よいよい、儂は今では肩書も爵位もない爺よ」
「しかし!」
「相変わらずだのぅ」

 顎を軽く片手で撫でながら、懐かしむように目を細めた。
 ヒューさんとお爺ちゃんは昔から面識があるようだ。まだ幼い頃のヒューさんでも思い出しているのだろうか。
 
「成程。よく分かりましたユリスの花嫁様。御身に宿る新たな命の種はディーノとは限らないと。よもや三人でとは思いつきませんで」
「おじーちゃーん!? もう、いい加減その妄想、やめてください!?」

 そろそろ私ついていけないよ! 耳年増だっていうのは認めるけど、私男の人と付き合ったこともそういう関係になった事も一度もない少女なんだからね!?
 あんまそっちのネタには耐性ないのよ本当に。
 
 顔を真っ赤にさせてふるふる震える私をディーノが宥めてくれる。
 お爺ちゃんはというとその間にセツカさんと挨拶を交わしていた。
 
「それで、さっきからずっと気になっていたんだけど、あの人だかりは何かしら」

 挨拶を終えたセツカさんがそう言って首を捻った。
 私達が出てきた時から途絶えない人垣は一向になくなる事無く、今もその中心が何なのか見えない。
 
「あれはきっと黒衣の魔女でしょう」

 聞いていたらしいお爺ちゃんがぽつりと答えた。
 
「最近この街にやってきて、ああやって路上で占いをしているのです。それが良く当たると評判で、未来に起こる事も予言してみせるのだとかで、先見の魔女とも呼ばれて持て囃されているようです」
「へぇー魔女かぁ」

 黒衣の魔女って、私のイメージじゃ魔女はみんな黒くて長いローブ着てるんだけどこの世界じゃ違うのかな。
 
「ちょっと見てみたいけど、こっからじゃ分かんないね」
「妖艶な美人だそうですよ。大層魅力的な肢体を惜しげもなく晒す危うげな服装だというのも男性客を増やしているのだとか」
「えらく詳しいのねお爺ちゃん」

 女の人大好きだよねお爺ちゃん。老いてなお盛んってこういう人の事言うのかな、え? 違う?
 でもお爺ちゃんがこの辺うろうろしてたのって、その魔女さん目当てだったんじゃ……とか邪推しちゃうよね。
 
「路上で商売するなら目立ってナンボだからね。そんくらいやらないと、ポッと出で稼げないでしょ」

 と、魔女さんに肯定的な発言をしつつ、途轍もなく冷たい視線を送るセツカさん。
 まぁその反応は同じ女として私も分かるけど。
 
「しかし、魔女がここまで人気が出た一番の理由は髪でしょうな」
「髪?」
「ええ、全体的には赤茶をしておるのですが、頭頂部から少し……つまり最近生えてきた部分が真っ黒なのだそうです。ユリスの花嫁様のように」

 私達四人は、一斉に人だかりを振り返った。
 見えるはずもない、魔女の姿を探して。
 



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