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 自分が身に着ける服やアクセサリーって、中には仕方なく買う事もあるだろうけど大抵は可愛いと気に入って買うものだよね。
 で、そう思って買ったわけだから早く試したくて私はすごくうずうずしちゃうわけです。
 買い物の途中で休憩に入ったカフェとかで開封してアクセとかつけちゃうわけです。
 
 そんなわけで、只今カフェテラスにて絶賛お試し中。今回買ったのは髪を纏める髪飾りとリボン。しかも何種類も。
 耳の上に一つ飾りを自分に付けて、翠色の石がついている綺麗なリボンを取り出してセツカさんに笑いかけた。
 
「あら可愛いわね」
「でしょー、セツカさんに似合うと思って」
「……え?」

 がたがたとイスをセツカさんの傍に寄せて後ろを向いてもらう。
 簡単に一つに束ねられていただけだった髪を一度ほどいて、くるくると巻きながらもう一度纏める。
 本当は編み込んでみたり色々遊びたいんだけど、櫛も何もないし折角綺麗な髪がほつれちゃったら困るから断念した。
 
 最後にリボンを巻いて仕上げる。ネープルスイエロー ……とセツカさんに言われたけど私には馴染のない色名だったから、ロイヤルミルクティー色だと思っている髪に翠がとても映える。
 
「見て見てヒューさん、綺麗ですよねぇ」

 セツカさんの肩に手を置き、腕組みして明後日の方向を睨んでいるヒューさんに問いかける。
 ヒューさんは前に置かれている珈琲を口にしながら、面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。
 
「どうでもいいが何時になったら帰れるんだ?」
「…………」
「…………」

 言った瞬間、私とセツカさんの顔からすっと表情が抜け、ディーノは高速で目を逸らして我関せずの姿勢を取った。
 
「ヒューさんって……女の人と付き合ったことないんじゃないですか?」

 ぶーっ!!
 飲んでいた珈琲を見事に吹き出したヒューさん。
 きったなーっ! と私とセツカさんは慌てて立ち上がり二人揃ってヒューさんを大いに詰る。
 
「なん、お前、何言って!」
「何言ってんだ、はヒューさんでしょうが! あんなお約束で無粋極まりない台詞が出てくるとは思いませんでしたよ。なんて残念な美形……」
「ていうかあんた貴族の端くれでしょうが、もっと紳士的な物言い出来ないわけ?」
「お前だって曲がりなりにも子爵令嬢だろうが! 慎ましやかになれんのかセレスティナ ファリエール!?」
「はんっ、残念でした。私はもうただのセツカ ロッカです、あの家とは関係ありません」
「そんなものが――」

 というような感じで、途中からセツカさんとヒューさんの痴話喧嘩に移行されていった。
 うん、なんだか途中でセツカさんのお家事情なんかが見え隠れしたけど、ここは黙ってスルーしておくべきなんだろう。
 
「ハル、どうします? 先帰ります?」

 心底うんざりしたような口調で、しかしにこやかな表情のままディーノが問うてくる。
 丁寧に聞いてくるのが余計に怖いよディーノさん……。
 
 放って帰るのは流石に忍びないからと、こっそりお店を出て近くの露店でも見ていようという事になった。ちゃんとテーブルの上に書置きは置いておくのでいつかは気づくだろう。
 
 店を出ると、道に変な人だかりが出来ているのに気が付いた。
 なんだろうあれ……。じっと見詰めているとディーノが確認してきましょうかと尋ねてくるので首を振る。
 
 なんか、大道芸でもしてるのかもしれないねぇと適当な事言って露店に向かおうと後ろを振り返った。
 
「お久しぶりです、ユリスの花嫁様」
「ひぃっ!」

 あと一歩前に出てたらぶつかってたっていう位置に人が立っていた。手を合わせて拝む御老体。
 
「あ、お爺ちゃん! ほんとに久しぶり……ていうかまた一人で歩き回ってるんだ」

 拝む手を止めさせながらお爺ちゃんに胡乱な目を向ける。
 えぇと名前はなんて言ったっけかな。お爺ちゃんで定着しちゃったから記憶がおぼろげだ。
 好々爺な笑みを浮かべた小柄なこのお爺ちゃんは、実は元宰相閣下というとてもお偉い方で、現在は引退して王都で悠々自適な生活を送っているんだけど、よく一人でふらふら出掛けちゃうもんだからお屋敷の人たちは苦労しているらしい。
 
「ていうかお爺ちゃん。こちらにお孫さんがいますが」
「おやおや本当だ。いやぁ歳は取りたくないねぇ、めっきり男が視界に入らないようになってしまって」
「いやいや、お元気そうでなにより」

 ははは、と乾いた笑いが零れた。このお爺ちゃんどうしてこう、ね……。本当にディーノや侯爵と血が繋がってんのかって言いたくなるくらい軟派なんだよなぁ。
 いや侯爵はある意味似ているかもしれない。
 
 ……もしかしてディーノも私が知らないだけで、ダメだ考えないでおこう。精神衛生上あんまよくない気がする。
 
「御無沙汰しております、閣下」
「なんだ堅苦しいの。実に四年ぶりの再会だというのに。いや、違うか……つい一月半ほど前に会ったな」

 にやりと口角を歪めたお爺ちゃんにディーノは深々と頭を下げた。
 うぅむ、どう見ても祖父と孫の再会シーンじゃない。
 



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