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「考えてもみてよこの面子! 目立つ、実に悪目立ちするの! ユリスの花嫁に聖騎士に? 彫刻なのダビデ像なの? なムカつく面した男とか、もうこれでソレスタ様とかいたら完璧ね! ってアホか、いてこますぞ!」

 せ、セツカさんが壊れた……!
 息継ぎなしに一気に捲し立てたセツカさんに、ふぅとヒューさんが溜め息を吐く。
 うん、彼女こそが今この街で一番悪目立ちしていると思うわ。
 
 ねぇママあの人どうしたの? しっ、目を合わせちゃダメよ……という親子の会話が聞こえてくる。何事かと横目で見つつ関わり合いにならないよう距離を保ちつつ、若干早足でみんな通り過ぎて行く。
 
「そんなメンバーと出掛けるんだから、最低限の武装は必要でしょう?」
「それで、めがね?」
「ええ。考えてみてよ。普通人の第一印象って、髪の色とか髪型とか、顔の造形とか背が高いとかだけど、このドラ○もんも真っ青な道具を使えばあら不思議。セツカ? あああの眼鏡の、てなるでしょ? 眼鏡を掛けた人っていうか、むしろ、ああユリスの花嫁様と一緒にいた眼鏡ねってくらいにしか人の記憶には残らないの、私の顔やら容姿やらの印象はデリートされるの!」

 それはどうだろうか。そんな事にはならないと思うよ。
 しかも言わせてもらえば、ドラ●もんは最初から真っ青です。
 
 本当に、この国の人って面白い人が多いなぁ。
 でもセツカさんの気持ちは私にも覚えがあるので悪あがきしたくなるのも分かる。
 マジで目立つんだわディーノ達。
 最初は嫌だったけど、今はもう諦め半分慣れ半分よ。
 
「でもねセツカさん。セツカさんも十分美人さんだからビンでも目立つよ」
「んなわけないやろ! 自分の顔は自分が一番よう知っとるわ!」

 セツカさんの前世は関西人だったらしく、たまにこうやって方言が飛び出す。
 そして残念ながら、眼鏡を掛けたところでセツカさんの印象は、インテリ美女なんだよね。
 この国の美意識の標準ってのは分らないけど、私からしたら大人の魅力あふれる女性だ。まぁ女子力はあんま高くなさそうだけどね!
 
 セツカさんの眼鏡ウンチクは置いといて、ここで問題が発生したことに私は気づいた。
 
「どうしようセツカさん、男共がハンターの包囲網から抜けられそうにない」
「チッ、死ねばいいのに」

 黒い! さっきからやさぐれてセツカさんが暴言吐きまくってる!
 私とセツカさんがちょっと立ち止まって、屋台の前でその品物と全く関係ない眼鏡の話をしている間に、ディーノとヒューさんが女子という名の恋のハンター達に捕獲されていた。
 
 私とディーノ二人で出掛けるときは、黒髪黒目の私には近付き難いらしく女の人達はディーノが気になりつつも話し掛けてきたりはしない。
 大体は爺ちゃん婆ちゃん達が拝みに来るくらいだ。
 
 だけど目立ちたくないっていう一心でセツカさんがディーノとヒューさんと距離を置いたのが裏目に出たらしい。
 
「あのクソ野郎はどうでもいいとして、ディーノさんは助けてあげなきゃ可哀そうよね」

 く、くそ!? え、そんなにヒューさんの事毛嫌いしてたの!?
 愛想は生ごみの日に捨てちゃったような人だけど、真面目だし決して悪い人じゃないよ!?
 色々文句は言われたけど、私に丁寧に護身術教えてくれてるし。
 
 あわわ、と慄いている私の手を掴んだセツカさんは、ヒューさんを見ているときの冷め切った表情から一転、にっこり笑顔を称えていた。
 
 え? なにこれ嫌な予感しかしない。
 
「ディーノは私のなんだから手を出さないで!」

 は? なにそれ意味がわか
 
「きゃっ!!」

 急にセツカさんは何を言っているのかとついて行けない私を、彼女は思い切り突き飛ばした。
 つんのめった私は走るように数歩足を動かして、こける寸前で何かにぶつかった。
 
「ディーノ……あぁ」

 なるほど理解しました。
 ディーノに抱きとめられた私は彼の腕にすっぽりと収まる形で。
 顔を上げて名前を呼んだ瞬間に、これこそセツカさんがさせたかった事だったのだと悟った。
 
「ハル、怪我してませんか?」
「うんだいじょうぶ」

 だけど大丈夫じゃないかもしれないぃ……!
 こける前にディーノが助けてくれたから外傷はない。だけど殺気立つ女性陣の視線に刺殺されそうです!
 神の使いだろうと畏れないその大胆さに完敗。
 
 よしよしと満足げに頷くセツカさんが今ばかりは憎い。
 くそう、こうなったら!
 
「ヒューイット! 貴方は何をしているのです!」

 突然大声を出した私に全員が驚いて動きを止める。
 ディーノだけは、何を始める気だと顔を顰めたけれど今は無視。
 
「愛するセツカの前で他の女性に言い寄られて黙っているとは情けない! セツカを泣かせる気ですか!?」

 と言ってセツカさんを指差す。
 はぁ!? という顔でこっちをガン見してくるセツカさんも、あんぐりと口を開けて呆然としているヒューさんも無視。
 
 ざわめき「ちっ、女付きかよ」と捨て台詞を吐いてハンターさん達は徐々に散って行った。
 
「……意図は分かりますけど、どうしてそんな口調なんです?」
「雰囲気作り? 何かこの方が神の使いぽいかなぁと思って」
「へぇ、そう」

 あ、面倒くさくなったでしょ。もうどうでもいいわっていうのが暗に含まれてるのが伝わって来たよディーノ!
 
「ハル!? あんた一体何してくれとんのじゃいっ!!」
「セツカさんにだきゃー言われたくないわい!!」

 この世界に来て初めて女性と(不毛な)言い争いをしました。
 



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