page.3



「やはり魔の力が増大してきているのは確かなようね。キリングヴェイでの話を聞いててもそう。鏡の力に引き寄せられて魔物が押し寄せてきたそうだけど、そもそも大量に魔物がこの地に発生していなければ寄って来るものもない。魔物が増加している証拠です。それに辺境地域では魔物による被害報告も徐々に増えてきているとの事。騎士団の方々も遠征に出る数が多くなっているようだし。この状況の打破がユリスの花嫁に課せられた使命とみて間違いないんじゃなかしら」

 なるほど、説明ありがとうございます。
 ノンフレームのメガネを掛けてインテリジェンスな雰囲気漂わせてるセツカさんの言葉にはとても信憑性があるように思われた。
 
 め、眼鏡に騙されてるわけじゃないんだからね! 眼鏡=勉強出来て頭良いなんて、それこそ頭悪い公式を信じてるわけじゃないんだからね!
 
 いえ、国立図書館の司書さんであるセツカさんは本当に博識で頭がいい人なんだけど。
 ミルクティーのような柔らかな色の長い髪と、グレーの瞳の落ち着いた雰囲気のある大人の女性だ。
 腹黒そうな一面もあるのだけれど、基本的には良い人だよ。
 
 現在、非番の彼女と一緒に街でお買い物中。
 とはいってもショッピングなんて女子らしいお出かけではなく、がっつり私の為の社会見学なのです。
 お仕事お休みのところわざわざ付き合せちゃって申し訳ないのなんのって。
 
 彼女は私と同じ日本人として生きていた前世の記憶を有した、とっても世にも珍しい人なんです。
 神様の使いに言われたくねぇって感じでしょうがね。
 
 つまりそんなセツカさんだからこそ、異世界人の私の、ここが変だよマナトリア人! な所なんかが理解出来てフォローしてくれるだろうってなわけで、ソレスタさんに紹介してもらって、最近よく一緒にいるのだ。
 一方的に私が懐いてくっついているともいう。
 
 やっぱりね、ここの人はみんないい人だけど、それでも同じ日本人(とは微妙に言えないけど)が居てくれるっていうのは心強い。
 
 セツカさんがマナトリアの特産品だとか、世界の構造だとかを分りやすく噛み砕いて説明しながら街を闊歩していく。私は隣で「ほほう」「なるへそー」とかバカ丸出しな相槌を打つ。
 
 私達の後ろで護衛のディーノと師匠ことヒューさんが付かず離れずの位置にいる。
 ヒューさんの本名はヒューイット アルガイスト。
 騎士団の人達は彼の事を変なあだ名で呼んでて、私も真似てたらブチ切れられた。
 すったもんだの末、ヒューさんで落ち着きました。
 
 なんか風で飛ばされそうな名前だねって素直な感想を言ったら、ウィルちゃんとセツカさんに大爆笑され、その後しばらくヒューさんに無視され続けたりしたのは良い思い出でもなんでもないわチクショウ。
 
 何となくお気づきの皆様、朗報です。
 この恋愛度の低い私の周りの人物の中で、一番その指数が高いと思われるのが、このセツカさんとヒューさんなのです!
 ルイーノとウィルちゃんはにっちもさっちも行かないので、最近諦めムードです。
 
 がっかりしてたところにこの二人と知り合えたのは僥倖としか言いようがない。
 とはいえ、この二人も何やら微妙な距離感があるんだけどねぇ。
 私の女の勘が言っている。まだ死ぬ定めではないと。あ、間違えた、これは日本の友達がよく言ってたネタだ。
 
 セツカさんもヒューさんも何やかんやでお互いの事意識してるような気がするんだよ!
 
 しかしセツカさんが二五歳、ヒューさんが二七歳。
 十八歳の私がとやかく口出しできるはずもなく、こちらもまた生温かく見守るだけだ。
 なんて歯がゆい……! そんな話をこの前ディーノに言ったら苦笑された。
 
 ディーノはこの手の話に一切乗ってこないよね! 全然面白くない!
 この手の話で一番盛り上がるのは流石というか王妃とラヴィちゃんとマリコさんの、あの例の女子会組なんだよ。
 あの人達大好きだよ、他人の恋バナ。
 
 おっと話が脱線した。
 
「魔を払うって言っても、辺境地域に出向いて行ってチマチマ消していくのも現実的じゃないですよね。なんか、時が満ちて復活した魔王を倒しに行く的なイベント発生するんですかね?」
「魔王ねぇ……禍星を打ち払うのはシーアの託宣神子の使命よ。ユリスの使いが出る幕じゃぁないわ」
「まがぼし、みこ……。出たよ中二設定」

 この辺りは以前神殿にお邪魔した際に、神官のおっちゃんに説明してもらった事がある。真面目に聞いてたわけじゃないからうろ覚えだけど。
 
 託宣の神子が現れるのはアルマゲドンな、世界に終焉が訪れる時らしい。
 世紀末伝説は何処の世にもあるもんなんだね。まぁその辺は一子相伝の秘儀を会得した青年に全てを委ねようじゃないか、私には関係ない。
 
「ところでセツカさん」
「あらなに?」
「どうして今日は眼鏡なの?」

 いつもは眼鏡掛けてないのに。この世界にはコンタクトという便利グッズは存在しないので裸眼か眼鏡の二択だ。
 
「とてもいい質問ね!」

 くいと眼鏡を押し上げて存在をアピールしたセツカさんはその顔をグイと近づけてきた。



|




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -