page.9




 ディーノさんは私の護衛なんだけどそれ以前に聖騎士であるわけで。山と言う程公務を抱えている。

 だから私が呼ぶかどこかへ出かけるかしない限りは、そうそう顔を出す事はないという事が分かった異世界生活三日目。

 この前頼んだ服も仕上がったので早速着てみる。白のブラウスにノースリーブのワンピース。フリルになっているけど抑え目で丈は膝が隠れるかどうかというところ。

 膝のすぐ下までのブーツを合わせれば肌の露出はない。ストッキング穿いてるんだけど、どうも足の形が丸わかりだとそれもアウトらしい。難しいなぁ。

 あと二着あって、どちらもこれをマイナーチェンジさせたような感じ。あ、一つはプリーツスカートになってるよ。
 高校の制服を見て作り手さんがいたく気に入ったらしく「これいただきです!」と興奮気味に言ってたのは覚えてたけど、まさか本当に作ってくれるとは。
 
 髪と瞳の色はどうしようもないけど、これで町を歩いてもそこまで違和感はないだろうという事で。
 今日はお出かけです。三日ぶりにディーノさんに会うわけです。
 
 ぶっちゃけて言います。私は物凄く彼を意識してます。だってあの人格好いいんだもの。隣に立たれると緊張する。しかも手の甲に口付けちゃう気障ったらしい一面を持ってるって知ったら余計に。

 私は悟りました。美形っていうのは遠くから眺めながら「お近づきになりたいなぁ」って思うくらいの距離感がちょうどいい。もうテレビ越しに見てるくらいでもいい。

 支度を終えた私は部屋でディーノさんが公務を終えるのを待ちながらドキドキしっぱなしです。
 
「遅くなって申し訳ありません」

 ドキドキするのにもだんだん飽きはじめた頃、急いだ様子のディーノさんが部屋に入ってきた。

「こっちこそ仕事があるのに付き合せてごめんなさい」

 彼が入ってきたと同時に動揺し過ぎてガタッとイスから立ち上がってしまったのを誤魔化すように、小走りで近寄った。

「いえ、貴女の護衛が私の中で一番重要な任務ですから」

 ぐあっ。言ったね、言っちゃったねこの人! 美形に言われるとダメージデカい、いや美形だから許される気障ったらしい台詞なのか。
 心の準備はしてたはずなのにやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしかった。

「ではいってらっしゃいませぇ、ハル様ディーノ様」
「ルイーノも行くんじゃないの!?」

 お見送りの体勢を崩さないルイーノ。一緒に行ってくれないの!?

「ルイーノもいっしょ」
「お二人でどうぞー」
「冷たいっ!」

 最後まで言わせてもらえなかった。私のお誘いに被せて否定してきたよ。どんだけ嫌なの私とお出かけ。

「あたしにもやる事あるんでぇ、ハル様がいないうちにやっちゃいたいんですよねぇ」

 甘えたっぽいイメージのある彼女だけれど、結構クールなんだよね。
 というか日が経つにつれてちょいちょい私に毒吐くようになってきたよね、もしかして嫌われたのかな……。

 頑なに同行を拒むルイーノに後ろ髪引かれつつ私とディーノさんは町へ降りた。
 

「楽しそうでしたね」

 塔を出たところで思い出したようにディーノさんが笑って言った。ルイーノと私のさっきの会話の事を指しているらしい。

「楽しいですよ、ルイーノ容赦ないけど逆にあの毒舌がたまんない。最近クセになってきた」
「あの子を受け入れられるのはマリコくらいのものかと思ってました」

 いやマリコさんの包容力の大きさは異常。私はあそこまでは無理です。泣き叫ぶか罵声浴びせるかしてます。

「そうですか……ハル様はああいうのが好きな人なんですね」
「やめて!? なんかその言い方勘違いされそうだからやめて!?」

 まるで私がマゾの人みたいじゃないの。違うわよ至ってノーマルです。どストレートだもの。
 ちょっと思ったんだけど、もしかしてディーノさんの中でマリコさんってマゾっ子なんだろうか。
 敢えて聞かないけど。否定してあげないけど!

「というかマリコさんの事は呼び捨てなんですね?」
「それを言うならハル様もルイーノと呼び捨てにしてましたね」
「ルイーノがそうしてって言うから」
「私も似たようなものです」

 …………。会話終わっちまった。おかしいな、私の脳内シュミレートによるとこの会話を突破口に「私にも様いらないです、ハルと呼んでくださいな」っていう流れに持っていくはずだったんだけど。どこでマズったかしら。

「そろそろ大通りに入りますよ」

 私の思惑など露程も察しないディーノさんがニコリと笑った。
 ちなみに私達はお城から裏ルートを通って町へやってきました。
 正規のルートを通ると徒歩なら城門に辿り着くまでに日が暮れてしまうので、限られた者しか使用を許可されていないという特別仕様の空間跳躍できる扉を使わせてもらいました。

 要するにどこでもドアですね分ります。
 でも急に大通りのど真ん中に現れたりしたら、みんな度肝抜かれちゃうので奥まった路地裏に出たのです。
 
 大通りは賑やかだった。建物を構えた店舗や露店、大小様々な店が軒を連ね、行き交う人々の数も多い。

 がやがやと騒がしいけど煩いわけじゃなくて活気づいているというものだった。
 RPGに欠かせない武器防具屋や宿屋に酒場もあってテンション上がる。カジノはないのかカジノ。お金持ってないしギャンブルなんて怖くて手出せないけど。
 



|




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -