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 そんな竹下通りのような人混みの中で、私達は人の目を集めまくっていた。

 主に私の隣にいる男性が。すれ違う女の人の振り返る率の高い事ったら。どころか男の人まで見てるものな。本人は慣れてるのかしれっとしてるのがまたすごい。
 私の方がそわそわするわ。

「ディーノさんていつもこんななの?」
「こんな?」
「いやいいです、何でもないッス」

 いつもらしい。この視線の群れに晒されるのが標準らしいです。恐ろしい子!
 私が気にしてても仕方ないと割り切る事にした。
 
 キョロキョロとあちこち忙しなく視線を彷徨わせていると、一際大きな建物が目を引いた。

 急な角度の屋根はガラス張りになっているのだけれど、その大半が痛々しく割れて穴が開いている。

 もしかしなくても、どうやらあそこが私が最初に落とされた所みたいだ。実は今日の目的はあそこだったりする。
 
 中はそれはもう悲惨な状態だった。鮮やかに彩られたガラスの破片が床に散らばり、祭壇の一部は破壊されていた。

「ねぇ本当にこれで怪我人出なかったの?」
「心配いりませんよ、みんな無傷でしたので」

 確か、誰かが魔法で防いでくれたんだったか。うわぁどこの誰とは存じませんが感謝します。

「でもこんだけ派手に壊しちゃって弁償しなきゃだよね。どうしよう」

 アルバイトでも始めるか? ぶつぶつ悩んでいるとディーノさんが耐えかねたように笑いを零した。

「それも心配ありません。ここはユリスの花嫁を召喚するため場ですから、その為に多少壊れたところで何の問題もないですよ」

 果たしてこれは多少かな!? でもまぁ良いって言ってくれてるなら何も言うまい。本当に修理費請求されちゃ困ってしまいますもの。

 ふむそうか、祭壇とかあるから教会みたいだなって思ったけど、儀式のための場所なのか。厳かな雰囲気なわけだ。

 祭壇の奥に大きな鏡が壁に付けられているのが見えた。

「ハル様?」

 奥まで行こうとしたけどディーノさんのこの一言でやめた。気が削がれた。

「あーやっぱハル様っていうの嫌だなぁ。私なんて両親共働きの中の中の超一般庶民だもんで、年上で身分のある男の人に畏まられるなんて落ち着かない。王様とかルイーノみたいなのがちょうどいいの」

 私がルイーノにやたらと心を開いているのは、口調はどうあれ態度が対等だからだ。
 王様のあれはフランク過ぎてどうなんだって感じだけど。もうちょっと威厳ある態度取った方がいいんじゃないのかな。

 フランツさんもすごく丁寧に接してくれるけど、あれは多分あの人の標準なんだろうなって思う。
 でもディーノさんのは違うんだ。一線引いてユリスの花嫁は神の使者、自分はその下! みたいな考えが態度に現れてる。

 あんだけ町で羨望の眼差しを一身に受けてた人が私の下であってたまるかと言いたい。

「敬語キャラに敬語使うなって言う程無茶振りはしないつもりだけどさ。私の勘は言っている。ディーノさんは普段はこんな堅苦しい喋り方はしていない! ついでに言うなら一人称は「私」じゃなく僕か俺だ!」

 どうだ違うなら反論してみるがいい! 自分でもどういう心理か分らないけど胸を張って宣言した。
 探偵が事件の推理をみんなの前で発表しているときのような感覚。

「その通り。一人称も俺、ですね」

 ほれ見た事か! だからどうしたと言われたらそれまでだけどね。

「貴女は御使いとして敬われるよりも、友人のように接する方がいいのですか?」
「ええ、そう言っておりますですはい」
「……貴女が望まれるのであれば、その様に」

 胸に手を当ててディーノさんは私に向かって一礼し、目を細めて微笑んだ。
 し……しまった忘れてたこの人タラシ属性だったあぁー……!

 ステンドグラスは割られて無残な姿になってるはずなのに、ディーノさんの周りがキラキラと輝いて見える。この世界の美形は自力で発光するのか。

「ですがその前に一つお願いが」
「はい、何でしょう?」

 ちょっと怖いけど、どうぞ。と先を促す。

「俺の事もどうかディーノと呼んで下さい」
「は……」

 お、お願いされたはずなのに有無を言わさない押しの強さを感じるのは何故でせう。

 確かに丁寧にお願いされた。だがしかし無言で微笑む彼に途轍もない迫力があるんだ。大人しく呼べよ、ああん? ってオーラが言っている。
 
 ちょっと待て、この人のキャラ設定どうなってんの。様々な属性が入り乱れすぎやしませんか。
 紳士に天然タラシに腹黒!? もうお腹いっぱいだよ!
 
 無言で私が名を呼ぶのを待機している彼に根負けした。六歳も年上の人を呼び捨てするなんて人生初ですよ。

「ディーノ……?」
「はい」

 いや、はいって返されても! どこにも持っていきようのない羞恥心のせいで顔が真っ赤だ。うぅ、悔しいからタラシのタラちゃんって呼んでやろうか。

「俺も貴女の事を呼んでもいいですか?」
「は!? も、もちろん。いくらでも!」

 なんだこれ、なんだこれ!! どうなってんのこの流れ!
  頭掻き毟りたくなってきた。私経験ないから分かんないんだけど、一定以上仲良くなった男友達ってみんなこんななの!?

 ああチクショウ、こんな事になるって知ってたら友達に聞いておいたのに。奴は腐女子で脳内がかなり残念だったけど、やたらと周囲に男の子がいてわいわいと賑やかだった。

 例の如く私の心中をお察し下さらないこの方は、嬉しそうに私の手を取った。名前を呼ぶのに手を握る必要はないんじゃない?
 



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