▼page.8 何をするのかと思えば、どうやら私の服を作るにあたっての採寸やら好みやらの打ち合わせらしい。 そしてひらひらレースをふんだんにあしらった豪華なドレスを色々と並べられ「どの型がお好みですか?」と問われて沈黙を守った私です。 可愛らしいよ。素敵だとは思うけど、私に似合うかと言われたら完全否定。着せられてる感たっぷりになる事請け合い。王様なんかはドレス来た私を見たら声を上げて笑いそうだ。 「えっと、どちらかというとルイーノみたいなのがいいんですが」 シンプルイズベスト。装飾は殆どなく裾の広がりもあまりないサラッと着れるのがいい。ついでに動きやすいと尚良し。あ、スカートは膝丈ぐらいがいいなぁ。 希望を挙げる度にみんなが目を丸くする。この世界の一般的なファッションとはかけ離れているからだろう。 「ハル様の今の衣装も初めて見る型をしていますものね。ロウランやクトウともまた違っていて」 「そうだわ、ハル様ならクトウの衣装も似合うわね」 クトウというのは、大陸の東の外れにある島国の名前らしい。この世界では黒髪にや黒い瞳というのはとても珍しくて、クトウの王族くらいしかいないとか。昨日フランツさんに教えてもらった。 日本じゃありふれたこの色は、こっちでは相当目立つのだと。なんて嫌な事実なんだ。 私の育ってきた文化の事情を踏まえつつ、しかしこの国でもそれほど浮かない程度の服を何着か作ってもらう事になった。今から仕上がりが楽しみだわ、と一段落した頃にはもう昼前になっていた。 部屋の扉がノックされルイーノが開ける。 「失礼致します。遅れて申し訳ございません」 はきはきとした口調で頭を下げた女性は、ディーノさんが着ていた騎士隊服の型違いを身に纏っていた。腰には細身の剣。女騎士さんのようだ。戦うレディ、カッコいい! 「ハル様、こちら昨日からディーノの代わりにわたくしの護衛に就いたマリコです」 「初めてお目にかかります。マリコと申します」 足を揃え、びしっと敬礼するマリコさんに私も慌てて頭を下げた。眉の上で揃えられた前髪、真っ直ぐで長い後ろ髪は一つにまとめられている。きりりと少し吊り上った瞳にシャープな面立ち。出来る女です、と語っているかのよう。 「ふふぅ、マリコちゃんはあたしのお姉ちゃんなんですよぅ」 ルイーノがマリコさんの隣に立つと彼女の腕に自分のものを絡めた。 「え、姉妹!?」 マリコとルイーノが。マリコとルイーノ……マリ……、赤と緑の髭生やした某配管工を思い出した私は何も悪くない、はず。 というか対照的な姉妹だな。 「この通りの妹ですがお願いします。もし手に余るようでしたら……私ではどうする事もできませんがいつでもご相談には乗りますので!」 「ちょ、ルイーノって問題児なの!?」 マイペースだなとは思ってたけど! そういやフランツさん呼びつけたりしてたしあんまり人の下で働いてるっていう自覚はなさそうな。親身になってくれようとするマリコお姉さんだけど、妹をどうする事もできないんだ!? マリコさんはバリバリなキャリアウーマン風でいて実は可愛らしい人だった。 そしてルイーノはのほほんとしてそうで最強系妹キャラだった。 「ルイーノの事で一つご忠告を。この子の前であまり血を見せませんよう」 「苦手なの? 倒れちゃうとか?」 「狂喜乱舞します」 「ルイーノーッ!?」 はぁいなんて呑気に答えてんじゃないよ! 血を見て大はしゃぎするな! マリコさんは少々青褪めながら衝撃の事実を教えてくれた。 「子どもの頃から何かと手当をするのが好きで、自作の消毒液の効果を試したいからと、故意に怪我をさせられたものです」 「お姉さんに何やってんだぁーっ!!」 子どもの作った恐ろしげな薬の実験台にすんな! お姉さんも優し過ぎるよ、それもう絶縁してもいいレベルだよ! ルイーノの前で絶対に怪我なんかしない。ここに誓います。く……キャラが濃いとは思ってたけどまさかここまでとは……。 「そのお陰でルイーノは今やとても優秀な救急士なのですよ」 「いやだぁ王妃様ったら照れてしまいますぅ」 褒める相手を間違っています王妃様。マリコさんをもっと労ってあげて下さい。ルイーノは自重しろ! きゃーって赤らんだ頬を手で押さえながら体をくねらすルイーノは、それはもう可愛らしいけれども私はもう彼女には騙されないのだ。 というような私達の賑やかな会話を傍観気味に見ていたラヴィ様は 「お城にいる者達の誰もが皆こんなだとは思わないであげて下さいませ」 と、とても冷静で大人な言葉でこの混沌とした女子会を締めくくった。 これが異世界での生活を余儀なくされた私の記念すべき第一日目でした。 前 | 次 戻 |