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 キリングヴェイから無事帰還した私達を待っていたのは、王様一家自らのお出迎えだった。

 ちょっと想像してほしい。城門の前で国のトップに君臨する人達が立って待っているんですよ。彼等三人だけで済むはずがないよね。

 三人の護衛の人達の数は倍以上、普段なら門番は二人なのに、それも増やされて六人。

 しかも櫓にも厳重な見張りがおり、最終的には王様が出迎えてるのにその臣下が無視するわけにもいかず、結局は宮の中に最小限の人員のみを残し総出で私達を待ち構えるという、絶句ものの大騒動と成り果てまして。

 分かるだろ。普通に考えて大混乱になる事くらい予想できただろうサイラス王よ。
 
 私やホズミは勿論、王様と長年の付き合いのディーノやソレスタさんでさえ唖然としてた。

 彼の手に負えないところは、分かってて敢えてやっているという、性格が極悪なところなのだ。

 そしてその後、内輪だけのささやかな生還パーティーが催され、私達はキリングヴェイで起こった出来事を根掘り葉掘り問い質された。
 サイラス王の「酒の肴になる良い話を聞かせろコラ」という目が爛々と輝いていたのがとても印象的だ。

 因みに王妃様は「あらあら、まぁそれは楽しいそう」とか実に毒のない反応でした。

 ラヴィちゃんはずっとディーノの様子を気にしていて、もしかしてディーノとブラッドが合わさって完全体となった彼に惚れたか!? とドキドキしていると

「実に面倒くさそうな感じに落ち着いたのね。お気の毒ですがお姉様頑張って下さいましね」

 と何故か毒を吐きつつ憐れまれてしまった。私は一体何を頑張ればいいんでしょうか?

 ルイーノはルイーノでディーノを見た途端に舌打ちするという、こっちもよく分からない反応だったし。こちらの世界の女性の心理はまっこと読みにくい。

 王妃様が「あら仲良しさんなんだから」とか微笑んでいたのは取り敢えずスルーしておいた。

「おい! お前聞いているのか!?」

 ずいと目の前に現れた小さな顔に視界を奪われた。
 怒って眉を吊り上げている顔を失礼にならないように気を付けながら、手で押して遠ざける。

「ちょっと私のモノローグに入って来ないで下さいよ」
「もの……? 意味の解らん事を言うな!」
「はいはい、すんまそん」

 朝も早くからレディの部屋に乗り込んできて、あまつまだ支度の済んでない状態の私をソファに座らせて、何やら長々と語っていたこの少年。

 若草色の髪は少しウェーブがかかっていてフワフワしている。今流行りのゆるふわですね、可愛らしいと本人に言ったところ、天パをとても気にしていたらしく激怒された。

 可愛いって褒めたのに!

 この見た目は可愛らしいけれど、やたらとツンケンした男の子は、ロウランという国の第三皇子という大層な肩書を持った御子だったりする。

 名前はフェイラン。ファミリーネームとかは王族らしくずらずらと長ったらしかったので覚えてない。右から左だ。呼ぶことなんて絶対ないだろうしね。

 ちなみに歳は十歳だったか。ホズミやラヴィちゃんよりちょっと下。

 他国の王子様が一体何の用かと言えば、この子実はラヴィちゃんのお婿さん候補らしいのです。

 え? ってなるよね! 私も聞いた時軽く一分はぽかんとしたものだよ。

 だってあのフランツさんラブな、年上専門のラヴィちゃんに年下の婿候補だと!? どんな命知らずだよこのカップリング考えた人!

 まぁお国同士の利潤やら策略やらが絡みまくってるものだから、好み云々だけで決められないのが位の高い人の悲しい定め。

 ラヴィちゃんも勿論自分の立場を弁えているから口に出しては何も言わない。口では、ね……。

「おい何だ人の顔見て溜め息とは! 失礼な奴だな!」

 私の目の前でぷりぷり怒る男の子は、私からすりゃ歳相応の生意気なガキで、これはこれで可愛いもんだけど。

 ラヴィちゃんはフェイランくんがこの調子で口を開くたびにブリザードが吹きすさぶ勢いで周囲の温度を下げるのだ。

 こんなお子ちゃまの相手なんぞしてられるかと、目が語る。口で言わないというだけで態度では大いに出してるんだなこれが。

 外見だけでいけば、小くて可愛らしいお人形のような恋人同士でお似合いなのに、相性は抜群に悪い。

「フェイランくん……ラヴィちゃんに相手にされないからってどうして私のところに来るかなぁ」
「な……! だれがあんな陰険女なんか! お、おれはただ、お前も他国の客だというから淋しがってないかとだな」
「そっか、フェイランくん寂しいんだね」

 そりゃそうか。十歳でたった一人外国に滞在するなんて、心細いに決まっている。



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