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 見る位置をずらした事で、その光が円陣を描いていると気付いた。
 何層もの円が絡み合っていて、しかもどこの国のものとも知れない文字の羅列がずらずらと並んでいる。
 
「クリスマスっつーより黒魔術?」

 あまりおどろおどろしい感じはしないが、昔見たアニメで悪魔を呼び寄せる儀式に使われていたような。
 ここに同僚の男がいたら、どんなアニメ観てんだよとツッコミが入りそうだが、幸か不幸か今は上総一人しかいない。
 
 例に手を光に差し込んでみる。金が揺らいで上総が降れた部分の色が朱色に変わった。
 「おお!」と面白くなって何度も遊ぶ。どういう仕組みになっているのかさっぱりわからない。
 
 夢中になっている上総は、オフィス街の一角にも拘わらず先程から周囲に誰一人として現れないという事に気付いていない。

 何度か手を左右に動かしていると、突然ガシリと鷲掴みにされた。
 
「見つけた!!」
「なんぞ!?」

 円陣の内側からにょきりと現れた手は、上総の半分にも満たないような大きさのものだった。
 慌てて振り払うと同時に、あれほど眩かった金の光は消え去り、かと思うとその場所には見知らぬ子供が佇んでいた。
 
「なにあんた」

 それは上総にも分かる異常さだ。
 夕方のオフィス街に明らかに小学生以下の男の子が一人でいる、のは百歩譲っていいとして、何故この幼児はカエルの着ぐるみを着ているのか。
 全身緑色、フードつきのツナギのような服で、顔だけが出ているような恰好だ。
 
 許される。幼児だから。そこはかとなく可愛い気もする。でもこの全身真緑な服装で出掛けさせた親の神経を疑った。
 柄にもなく状況について行けず固まる上総に、幼児はにっこりと微笑みかけた。
 
「魔法少女になって僕を救って!」
「は?」
 
 天使もかくやという眩い笑みで、コイツ何言った? 露骨に口をへの字に曲げて怪訝な表情を取る上総に、幼児は首を捻ってもう一度言った。
 
「僕の為に魔法少女に……、あれ!? おかしいな、でも確かに……。ううん、いいよあなたで。魔法少女って歳じゃないけど、おばさんで」
「誰がおばさんじゃっ!! こちとら女ざかり驀進中じゃボケェッ!!」
「ぎゃふんっ!」

 ツッコミ所は色々あったけれど、やはり訂正が必要なのはここだろうと、男の子が言い終える前に頭頂部に鉄拳制裁を加えて黙らせた。
 ふんと鼻を鳴らして腕組みする。
 
「いったぁい……ひどいよおば、お姉さん」

 ギロリと睨まれ、即座に言い直した。学習能力はきちんとあるらしい。
 上総がよしと頷くのを見てほっと息を吐いた。

 小さい子から見れば、大きいか小さい、子供か大人かでしか区切られないのだから、分別するなら当然大人でつまりおばさんとなる。
 悪気は欠片も無いのは当然だが、だからこそ時として子供の言葉が刃となるのだ。
 上総はその刃を見切って避け、さらにカウンターをしかけただけ、だと本人は思っている。
 
 幼児の頭を容赦なく殴るのが「だけ」で済まされる行動なのかは知らない。
 
「まぁいいわ、アニメの世界に行きたいなら家帰ってテレビつけな」

 それを言ったらおしまいだろうという夢をぶち壊すのが目的としか思えない一言を吐き捨てて上総は歩き出したのだけれど。
 
「わー! お姉さん何処行くの!」
「帰るに決まってんじゃん、ビールが私を待ってるのよ。言っとくけど今日はプレモルだからね!」
「ぷれ? ……いやいや帰っちゃうと困るの!」
「だったら困るがいい!」

 どーんと衝撃を受けた音がした気がする。まさかあからさまに見はなされるとは思っていなかったのだ。
 幼気な子供をこうも見事に見捨てる人がいるとは、多大な誤算だった。
 
 だがこのまま引き下がるわけにもいかない。もう彼女の手を握ってしまったのだから。
 
「ぼ、ボクの名前はマクシス! お姉さんは?」
「……興津 上総」
「おきつ かずさ。おきつ……かずさ、おきつ」

 ぶつぶつと何度も人の名前を連呼するマクシスを胡乱気に見やる。
 視線を合わせるでなく、ハイヒールで身長より高くなった位置から腕を組んだ状態で見下ろしているという、とんでもなく高圧的な態度でだ。
 
「おきつかずさにボクの魔力全てを与える。代償は契約の履行。契約内容はボクを解放する事。不履行とみなされた場合には死を」

 さっきまでの子どもらしい、どこか舌足らずな喋り方ではなく、すらすらと小難しい内容を並べ連ねたマクシスは背伸びをして上総の手をもう一度握った。
 
 同時に消えたはずの金の光が再発し、マクシスと上総を取り囲む。
 ぶわりと風吹き上総の髪が靡いた。
 徐々に金の光が朱色に染まっていく。どうなっているのかと呆然としていると光が完全に色を変えた。
 
「魔力転送終了。これより時空の跳躍を行う。おきつかずさ、魔法少女はちょっと無理そうだから、魔女になって僕を助けて!」

 アニメの見過ぎだろう。そうツッコミしたくなるような台詞をカエルの幼児は笑顔でのたまった。
 
 



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