崩れる日常2



 いつも通り食卓にパンにサラダにデザートにとずらりと並べられた朝食を前に、私はソファで体育座りをしクッションに顔をうずめたまま微動だにしない。
 ルイーノはそんな私を気にも留めず美味しい紅茶を淹れてくれている。
 私の正面の席にはとても居心地悪そうにディーノが座っている。
 
 かれこれ数分このまんまだ。しかし私のずたぼろの心はそう簡単に傷口を塞いでくれない。
 
「ところでハル様、あの男の人いつまで放っておくんですぅ?」
「あっ!」
 
 すっかり忘れてた!! クッションから漸く顔を上げた私の真正面ににっこりと笑顔を浮かべるディーノ。
 ヤバい!! そうろりと顔を横に向けた。ルイーノがにやりと口元を歪めている。こんちくしょう!
 
「……ハル、お腹空いた」
「ひうっ!?」

 ルイーノに気を取られていたからか、背後に人がいるなんて全く気付かなかった。
 耳元で呟かれたかと思うと、にゅっと後ろから手が生えてきて、私を通り越してテーブルに置いてあったパンを掴む。
 顔を逸らして見上げると、さっきベッドで嫌と言う程間近で見たイケメンが気怠そうにパンを頬張っていた。
 
 みみ、耳元で囁くな!
 
 声が直接入ってきた方の耳を押さえる。
 
「お前、何してるんだ……」

 ディーノが呆れ口調で言う。振り返るとディーノは口調そのままに眉を顰めてイケメンをいぶかしんだ目で見ていた。
 
「ディーノ、この人知ってるの?」
「ホズミでしょう」
「やっぱりこれホズミなの!?」

 問いながらイケメンをもう一度窺うと、気の抜けるような笑みを返された。
 金の瞳がとろけるような甘さを含んでいるような気がしてドキッとする。
 
 ここで超どうでもいい設定を言わせてもらうと。
 ホズミの服は王立魔法機関の特製で、狼型から人型になった時に自動で復元されるというものだったりする。
 それは本人のサイズが変わってもちゃんと適応されて、なので今ちゃんとホズミは服を着ています。
 
 細かく言うと服っていうか魔力の塊で、原理はブラッドが人型を取っていたのと同じようなものだとか違うとか、私には説明されてもさっぱり理解出来なかったが、つまりはあれです。
 度々街中やお城の中で変化しちゃうホズミが、すっぽんぽんにならないように出来てるっていう事です。
 
 以上!
 
「ホズミ、なんでホズミ急にエロく!? こんな色気垂れ流されたら私もう軽々しく抱きしめたり頬擦りしたり甘噛みしたりできないじゃん!!」
「甘噛みしてたんですか……」

 おおっと余計な事まで暴露してしまった!! お、狼の姿してた時だけだよ。
 
「まぁ兎に角ホズミ、ハルに断りもなく魔力を取っただろう。それは良くない事だ」
「え、いつの間に」
「夜這われましたねぇハル様」
「マジっすか!」
 
 ホズミったら寝てる間に私の大切なものを奪っていったのね!? これはもう責任とってもらわなきゃだわ。
 
「ホズミ、おいで」

 イスに横向きに座りなおして片手をホズミに差し出した。彼はその手をぎゅっと握って私の足元にしゃがみ込んだ。
 ジッと私を見上げて沙汰を待っている、ちょっと怯えたような表情にキュンキュンするね。
 見た目は多分ミケくんと同じくらいなんだけど、こういうのはいつものホズミって感じだ。
 
「怒って無いよ。でもどうしてそんな事したの」
 
 するとホズミはちょっぴりムッとした。なにそれ可愛い!
 
「だってディーもソレスタもした!」
「まぁ! ハル様モテモテですねぇ」
「ちっがうよ! 夜這いされたわけじゃないからね!? ホズミが言いたいのはそういうのじゃないから!」

 ていうか夜這いされた=モテるじゃないよ、間違ってるよその方程式。
 しかもすっごいどうでもよさそうに言われたのがショックだ。
 ホズミが言ってるのは、ディーノもソレスタさんにも魔力あげてたじゃんって事だろう。
 
「二人の場合はやむに已(や)まれぬ事情ってものがあってね」
「わかんない」
「うーん……二人はねぇ、寝てるときにこっそり取ったりしなかったよ」
 
 ブラッドのは正直微妙だけど。取るけど、何か? みたいな。お前持ってても意味ないだろ? 的な。
 許可なく人のファーストキス奪ったりしたけど今は黙っておく。
 
「人の物を勝手に持って行っちゃったらダメ。泥棒の始まり。ごめんなさいは?」

 空いてる方の手でホズミの頬を抓る。結構強めに。
 ホズミはすぐに情けない顔になる。こういう時はいつも通りだなぁ。
 急に大きくなって知らない人みたいになっちゃって、驚いたというか怖かったんだけど。良かったホズミだ。
 
「ごめ、なさい」

 よし! 抓ってた手を一度話してからゆっくり撫でた。
 にこっと笑いかける。
 
「でも不思議だねー、魔力吸い取ったら身体大きくなるなんて」
「ソレスタ様もそうですが、魔力が人の身体に与える影響は甚大です。その容姿も体格も性別さえ容易く変えられます」
「性別……! え、じゃあもしかしてソレスタさんが女言葉なのは……」
「奴は男です」

 ヤツって言った! ディーノがソレスタさんの事ヤツって言った! しかも投げやりで早口に!
 キリングヴェイから帰って来てこっち、ディーノはたまに言葉遣いが雑くなる。ブラッドの部分が何かの拍子に表に出てくるのか……。
 



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