崩れる日常3


「ところでぇ、ホズミって今何歳なんでしょうねぇ?」
「五歳じゃないの?」

 そのくらいだよね。元の身体の大きさからいっても、あの卑怯なまでの可愛らしさからいっても。
 でもディーノは少し考える様に顎に手を添えてホズミを凝視した。
 
「狼族が争いに負けて数年、ホズミはずっと一人で生きてきた。狩りも満足に出来ない子供が生き残るには厳し過ぎる環境です。身体の成長しようとしてもそれに見合う栄養が取れない。ともすれば餓死する状況なら……、少しでも長く生きるために無意識下で魔力により成長を止めていた可能性もあります。身体が小さければ消費するエネルギーも魔力も少なくて済む」

 ふむふむ成程よく分らん!
 
「要するにーホズミは身体がちっちゃいだけで、ホントは大人かもよーって事ですね。もしかしたら今の姿よりもとかぁ」
「なんですとー!?」
 
 いつの間にか私の両手を掴んで、握ったり引っ張ったりして遊んでるホズミを食い入るように見た。
 三人の視線が集まってギョッとするホズミ。
 と、とても大人とは思えないけど……。
 
「ほ、ホズミって何歳なの……?」

 よく考えると今までちゃんと聞いた事無かった。勝手に私が五歳くらいだと思い込んでただけで。

「人間と狼はッ数え方が違う」
「じゃあ人間で言ったら?」
「じゅう……十二回年をこえたよ」
「年をこえたって事は、十二年だよね!? 十二歳!?」

 魔力で成長を止めていた説で確定。ちなみに他に説の候補はありませんでしたが。
 歳を取ると身体も心も成長する。そんな当たり前の自然現象をストップさせないと生きていけない状況ってどんなだ。
 私には想像さえつかない。こんなポエっとしてるホズミにはそんな日常がつい最近までだったんだ。
 
「ずっと魔力を温存いていた所に、キリングヴェイで殆ど使い果たして、仕方なくハルから貰ったのかもしれませんね。摂取量の加減が分からず過分に撮り過ぎたようですが」

 長い間成長を止めていたせいで、身体の方も勢いが付きすぎたのかもしれない。
 十二歳すっ飛ばしてもう反抗期突入しちゃいそうなくらいまで大きくなっちゃったんだから。
 
「それならそうとちゃんと言ってくれたら良かったのに。別に寝てる間にこっそり取らなくても……」
「だ、だって……」

 何故かここで急にホズミがもじもじし出した。
 目を逸らしてそこはかとなく頬も赤らめている。どうした、なんなのその謎の反応!
 
 ぽかんとする私の横では「あらぁ」と笑うルイーノ。
 ディーノは舌打ち交じりに立ち上がるとホズミの顔に手の平を当てた。
 
「魔力の制御が未熟な者が不相応な量を体内に溜めておくのは危険です。暴走する可能性もある」
「え!?」
「過不足ないように一度余分なものを取り出しましょう」

 すっごくいい笑顔。ディーノ今日一番の笑みいただきました。
 でも人の好さそうな感じは一切しない。むしろ餌を仕留める獣のような。
 もっと言ってしまえばブラッドっぽい人の悪い感じ。
 
 外見年齢差約十歳。ディーノがホズミを威圧しまくっている。
 
「い、いた、いたいディー!」

 顔を掴んでる手に力が込められたらしく、ホズミがじたばたともがく。
 けれどディーノは笑顔のまま締め付けを強くしていっているらしくホズミの悲鳴がどんどん切羽詰まったものになっていった。
 
 何度か見た事のあるような魔法陣が浮かび上がる。
 最初は青みがかっていたその円陣が、じわりじわりと赤みを帯びていく。インクがにじんでいくみたいだ。
 ほえーっとその様子に気を取られている間にディーノがホズミから手を離していた。
 
「終わりました」
「おおー」

 歓声を上げたのはルイーノ。解放されたホズミは涙目でディーノを睨んでいる。その背格好がさっきより一回り小さい。
 おおー! ルイーノと一緒にぱちぱちと手を叩く。何か達成感でいっぱいのディーノ。
 十二歳児ホズミだけが不満顔。
 
「にしてもホズミ……ホントはこの大きさなんだね……」

 日本でなら小学六年生。お、おっきい! さっきよりは縮んだけど、五歳から十二歳って飛び過ぎ!
 
「勿論もう一緒に寝るのもお風呂入るのも禁止です」
「なっ!?」

 何故私とホズミが一緒にお風呂に入っている事を知っているこの男!?
 言った事ないよ、狼のホズミを丁寧に洗い上げてブラッシングした話なら何度かしたと思うけど。
 
「禁止です」

 私が絶句した理由を捉え間違えたらしくディーノは念押ししてきた。
 さすがにこんな大きい子と一緒にお風呂は入らないよ!
 ただ今まで入ってたの知られてたのが怖かっただけだ。流石ブラッドだった時の記憶も零す事なく全て覚えている上に、魔力を完全に使いこなせるようになっただけの事はある。
 
「じゃあ、ボク、これからどこで寝ればいいの」
「俺が連れて」
「やだ! ハルと離れるのやだ! ここで寝る!」

 ぼふぼふとソファを叩く。やめ、埃立つから!
 
「てか、ソファでなんか寝かせらんないよ! 一日二日ならともかく、ダメったらダメ!」
「だったらハルと寝る!」
「今禁止だって言ったところだろうがっ」

 というようなやり取りを延々と繰り返した結果。
 ルイーノが食べかけだった朝食を綺麗にさげてしまってから
 
「ハル様の寝室に仕切りを作って別々のベッドに寝ればいいじゃないッスかぁ」

 とめちゃくちゃ面倒くさそうに提示してくれた案で落ち着いたのだった。
 
 この落ち着き方に懐かしさを覚えたような気がしたけど、そっとしておいた。
 



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