騎士舎にて2



 
「どんがらがっしゃーん!」
「あぁん!? なんじゃいその間抜けな効果音!」

 でぇい、私の視界に入ってくんな邪魔だウィルちゃん! 美人が見えないだろうが!
 服を着たウィルちゃんの胸倉を掴んだ。
 
「ハルちゃんが恋に落ちる音だよー、ぽえーって見惚れちゃってまぁ」
「はぁ!? 何言ってんの!? 私が一目惚れした時の音はもっと上品でクラシカルな感じだもん!!」
「ユリスの花嫁様否定! ツッコミよりまず恋に落ちたトコ否定して!」

 何故か必死になる他の騎士達。どうしたんだろうこの人達忙しくていらっしゃる。主に口が。
 
「いい加減にしろ職務中だぞ。ユリスの花嫁殿も用事が澄んだなら早くお帰り下さい。貴女がいるとコイツ等が余計に調子に乗る」

 ええ!? 自然な流れで私のせいにされちゃったよ! うそでしょ、何も悪くないはずなのに!
 
「そんなぁ、ディーノ隊長が帰ってくるまでは待たせてあげようよー」
「いやそれは別にいいんだけど」
 
 ウィルちゃんの提案に首を横に振ると、またも周囲の人たちがざわつく。そして美人さんが額に手を当てながら深々とため息をついた。

 ははぁん、早くも隊内でのこの人の立ち位置が把握出来てきた。こっちの世界で数少ない常識人だなこの人。
 
 慰めの意味を込めて目を細めて微笑みながら肩を優しく叩いてあげるともの凄い勢いで払われた。
 
「あーガイちゃんいけないんだー、女の子叩いたりしちゃ!」
「そうっすよ! しかも相手は神様の遣い!」
「罰当たりだガイちゃん!」

 ウィルちゃんと、彼とノリが似ている二人が美人さんに向かって猛抗議という名の弄りを開始した。
 だがそれは全く長続きしなかった。

 ガイちゃん! と言った直後に、彼等三人の身体が綺麗に後ろに吹っ飛んだのだ。
 あんまり見事に飛ぶもんだからワイヤーアクションかと思った。この世界にはそんな技術はないはず。だったら彼等の身に何が起こったのか。

 正解は、常人の動体視力では追いつかないような速さで美人さんがウィルちゃん達を順番に殴り飛ばし、蹴り飛ばすという、人間離れした技を繰り出した、でした。
 
「す、すごい……」

 飛んでったウィルちゃん達の心配よりまず美人さんのすご技に感動する方を優先する私って薄情かしら。でもそんな事どうだっていいよね!
 
「師匠って呼ばせて下さい!」
「はぁ!?」
「師匠! 私に護身術教えて下さい!」
「あぁ!?」

 前から思ってたんだ。この国は日本ほど治安が良くない。それに加えて私は魔物にも狙われ易いときた。

 自分のみは自分で守るなんて格好いい事は言えないけど、せめて抵抗するくらいは出来るようになりたいんだ。

 だけどディーノに言っても取り合ってくれないし、ウィルちゃんやマリコさんに言っても苦笑されるだけ。しかし、いい人材を発見しました!
 
「わぁい、宜しくお願いしまーす」
「おい誰がやると言った!?」
「そんなぁししょー」
「師匠じゃない!」
「……分りました。師匠が嫌なら仕方ない……。あなたの事はこれから、ガっちゃん、と呼ばせてもらう」

 ぐっと拳を握りしめて力強く。
 私が言った瞬間、周囲の騎士さん達の目が輝いたのは言うまでもない。
 
「師匠じゃないあなたなんてガっちゃんで十分だ!」
「どんな言い草だ! どうしてウィルフレッドといい、名前の中途半端なところを取るんだ……」
「そういやガっちゃんの正式名称ってなに?」

 ガイさんなんだと思ってたら違うのかな?
 
「名乗るのが遅くなりました。ヒューイット アルガイストと申します」

 急に改まって礼を取りながら名乗るガっちゃんに、私も慌ててお辞儀を返す。

「どうもどうもご丁寧に。ハルと申します。ヒューイット アルガイスト略してトトちゃん」
「お前……! ユリスの花嫁だと思って下手に出ていれば!」

 え、あれで!? 結構言いたい放題言ってたような気がしたけど!

 敬語なんて途中から死亡してたよね。でもまぁ、有無も言わさず殴り飛ばされてたウィルちゃん達からすれば、確かに一応遠慮はしてくれてたのかも。

 女に手を上げる男なんて騎士失格どころか死んでいいと思うけど。
 
「じゃあ、師匠とガっちゃんとトトちゃん、どれがいいの!? ほんともう、手のかかる人だ事!」
「どうして俺が呆れられてるんだおかしいだろ……」
「はいはい、師匠ね、師匠でいいよね」
 
 おれトトちゃん、ガっちゃん、とそれぞれ選び出した外野は取り敢えず無視。
 どこまでノリが良いんだこの国の騎士は。ていうか仕事しなよ。
 
「ディーノはこんな女のどこがいいんだ?」
「いやぁ、さすがにいつもはここまでハイテンションじゃないよー、ガイちゃん美形だから浮かれてるんじゃない?」

 その通りでございます! 目の保養だね、やっぱ美人は素敵だ。
 ソレスタさんが残念なだけに師匠に対する期待値が高まるというか。
 
「というわけで、また明日にでも来るから稽古お願いします師匠!」
「あ、ちょっ、やるなんて一言も……」

 すちゃ、と敬礼して私は駆け足でその場を後にした。
 だから直後に帰ってきたディーノと騎士達が色々と大騒ぎだったことは知らない。
 



|




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -