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「ハル様準備よろしいですぅ?」

 ひょこりとドアの向こうから顔を出したルイーノに大きく頷いた。
 
 ユリスの花嫁やら何やらの説明を受けてから一日経ちました。昨日は色々な事情が重なり私の脳みそがパンク寸前でぐるぐる状態だったので、早めに休ませてもらう事になった。

 こういう時は寝てしまうに限るとベッドに潜り込み、部屋の豪華さなど目に留める暇もなく就寝。
 そして朝ルイーノに叩き起こされるまで熟睡していました。私は枕が変わっても眠れる子。
 
 初めはルイーノさんって呼んでたんだけど「さん」はいらないというので呼び捨てに変更。私も様いらないんだけどなぁ。

 それで、私用の服をまだ誂えてないとかで今日も制服のままで過ごす事になった。そもそも制服は毎日着るものだから全然問題ない。あ、下着は替えました勿論。

 向こうの世界はあの日ひどく寒かったので黒タイツを穿いてたんだけど、そんな厚手のものはないと言われ、別にハイソックスで構わんよと返せばソックスとは何ぞやと問い返され。

 黒のストッキングを穿かせていただく事になりました。素足でなければなんだっていいんだよ、なんだって!
 
 寝室から出ると続き部屋には美味しそうな朝食がずらり。そして何故か王妃様とお姫様もずらり。なーぜー?

「えええ! まさか来られてると思ってなくて……待たせてすみません!」

 慌ててテーブルに駆け寄った。

「いいえお姉様が謝る必要はないの。わたくし達は勝手にお邪魔して、先に朝食を済ませましたもの」

 あら本当だ! 料理のお皿はずらっと並んでるけど結構中身は減っている!
 部屋の主を待つという概念はこの国の王族にはないらしい。

 文句ありまして? とかラヴィお姫様なら言っちゃいそうだな。おおお、許せる、この子になら言われても全然腹立たないむしろちょっと言われたい。いかん、変な趣味に目覚めそうだ。

 では私も遠慮なく、とイスに座って手を合わせる。

「いただきまーす」

 手近にあるパンを取ってもふもふ口に入れる。うん美味い。ちょっと硬いけどフランスパンみたいに噛み千切れないほどじゃない。ほんのりした甘みが後からやってきて、素朴だけど飽きが来ない味だ。

 何故私は脳内食レポをしているんだろう。
 次何食べようかなぁとちょっと顔上げたら、向かいに座っていたお二方がポカンと口を開けて私を見ていた。

 あ、りゃ? どうした、私なんかマズった? もしかしてとってもお行儀悪い? え、パンって手で食べちゃ駄目なのかな、ナイフとフォーク必要? テーブルマナーのテの字も知らないから普段通りに食べちゃったけど……。
 
 反応に困ってルイーノに無言で助けを求めると「気にせずお食べ下さい」と帰ってきたので、その通りにした。
 まずは食す! 良く考えたら昨日の朝から丸一日何も食べてなかったんだよね。やっぱり環境の変化で緊張してたのかお腹は空かなかったんだけど、いざ目の前に料理出されたら途端に食欲が湧いてくるんだから不思議。

「昨日はあの人がさっさとお話を進めてしまって挨拶もさせてもらえなかったんだもの、腹が立ったのであれから文句を言って、今日一日はハル様を貸していただきましたの」

 しとやかに王妃様が仰られた。おっと私ってば貸出可能だったのですね!? まるで図書館の蔵書のようだわと思いながら二個目のパンを咀嚼する。

 あの人って王様の事だよね。成程、王様が頭が上がらないのは娘だけじゃなく奥さんもなのか。意外に尻に敷かれてたりしてね。ぷぷぷ。

「では改めましてユリスの花嫁様、私はサイラスの妻エルネスティーヌと申します」
「わたくしは娘のラヴィニアです。宜しくお願いしますわお姉様」

 ま、眩しい! まるで朝陽を間近で見ているようだ。この二人の煌めきが目に突き刺さる。しぱしぱする目を何度も瞬きする事で元に戻す。

「葛城悠です」

 知ってるわ! って感じだろうけど、やっぱ名乗られたからには名乗り返さないといけない気がしたので。
 サラリーマンが名刺交換するみたいな。

「ああそうだ忘れていたわ。今日はお昼頃までディーノが町の方へ視察で戻らないそうですので、それまでは女同士でゆっくりと過ごしましょう。ね?」

 オッケーです。問題ないです王妃様。私に用事なんてありませんし当然予定なんかもないから、むしろ相手してくれるなら有難い。

 それにディーノさんと顔合わせるのがまだ先らしいと知ってかなりホッとした。まさかあの人に天然タラシ属性があったとは思わなかった。ああいうのは対応に困るから本当にやめてほしい。




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