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「今後の大まかな方針が決まったところでな、ハル、基本的にお前の行動に制限はつけない。護衛はつけるが好きにしていい。城に部屋を用意してるからそこを使え。あとお前の世話はルイーノに一任している。何かあればそいつを通せ」

 ルイーノさん? と後ろに控えていたナースさんを振り返るとペコリとお辞儀された。
 な、ナースさんだと思ってたらメイドさんだったのかしら? いや侍女っていうのか? よく分からん。

「宜しくお願いしますねぇハル様ぁ」
「こちらこそぉ」

 なんかユルユルで良い感じだ。あんまりビシッと畏まられると緊張しちゃうし。
 そしてお城に住める! すごいぜきゃっほー! ホテルのスイートルームに泊まるより価値があるんじゃないの、うえへー友達に自慢したい。

「あ、護衛っていうのは?」
「ディーノを付ける。返品不可だ」
「はい?」

 ぱちくりと目を瞬かせてディーノさんが問い返す。突然会話を振られてビックリしてるようだ。事前に聞かされてなかったのかな……。

「兵を何十人付けるよりお前一人の方の傍の方がよっぽど安全だろうが。なんてったってこの国一を誇る聖騎士様なんだからな」

 そうなの!? 強い人だとはさっき説明があったけど、そんな最強っぽい人だったとは。大らかそうというか人当りの良さそうな感じだから全然そうは見えない。
 ていうか聖騎士様直々に護衛だなんて恐縮してしまうわ。

「ディーノさんはお姫様の護衛だってさっき……」
「御心配には及びませんわお姉様、わたくしの新しい護衛はもう決まってますの」

 お姉様! 私の事はお姉様呼びで決定なのか、なんか耽美な響きだ! え、そんなことない? まあいいじゃないの。ふふふお姉様かぁとか悶えてる場合じゃなかった。

「いやでもディーノさんみたいなすごい人をわざわざ付けてもらわなくても」
「すごい人、ねぇ?」

 皮肉げに嗤った王様にムッと口を曲げた。なんだよぅその言い方。嫌な感じだ。

「確かにディーノ様は若くして確固たる地位を持つ有能な人材ではありますが、お立場の話をするならばハル様の方が尊き方ですよ」

 開いた口が塞がらないなんて状況に陥ったの初めてだわ。尊き方ですって? 私が?

 友人が聞いてたらこの瞬間爆笑の渦だと胸を張って言える。「悠ちゃんリアル乙女ゲーの主人公設定じゃんやったね!」とか腹抱えて笑いながら言いそう。

 唖然とする私に気遣いながらもフランツさんは容赦なく続けた。

「ハル様をこの国の身分制度の中に組み込むのはおかしいかもしれませんが、神の代理人なわけですから陛下ですら本来なら頭を下げなければならないくらいなのですよ」
「まぁそうなんだけど、でも三十超えた男がこんな若い女の子にヘコヘコしてちゃ国民に示しが付かないだろう?」
「嫌です絶対やめて下さい! 王様に敬語使われたりとかしたら怖い!」
「おやそれはどういう意味でございましょう、ハル様?」
「やめてってばー!!」

 全身寒気が走った! 何なのよこの国の王様! 人の嫌がる事ばっか言って楽しむなんて為政者としてどうなの!?

 「へぇこりゃいいな、今後これでいくか」とか企むのやめて下さい。地位とか立場とか身分とかさぁ、これまでの人生で一度たりとも考えた事無かったのに、いきなりそんな座を据えられても困る。

 私なんてせいぜい、RPGで村の入口近くにいて話し掛けても「ようこそ、○○の村へ!」としか喋らないモブでいいのに。

「ハル様のおられた世界はとても自由で平和なところだったのですね」

 今にも頭を抱えそうな程唸り出した私にフランツさんがそう言う。うん、そうだったんだな。
 気にした事無かったけど、気にせずにいられたってのが何よりの証拠だ。

「元の世界でどうだったかは知らないが、こっちではお前は唯一無二の神の御使い。人間で害をなす馬鹿は早々おらんだろうが、魔物にとっては何より邪魔な存在だ。何時どこで襲って来るか分らん。魔物が相手なら余計に聖騎士の守護が必要だ」

 魔に対抗する為の神剣。破魔の剣。そのただ一人の使い手であるディーノさんでなければ、守りきれないだろうという。

 こんな一介の女子高生に過ぎない私でも、この世界にとったらいなくなったら痛手で。
 なら私に出来る第一の事は命を危険に晒す事なく大人しくしている事。みんなに余計な心配をかけない事?

「ディーノさん」
「は、はい」

 あれ何でこの人どもったの? と思ったけど流す。

「これからしばらくお世話になります。不束者ですがよろしくお願いします」

 本当なら三つ指ついて礼をしたいくらいだけど、この国の人にそれをやってもポカンとされそうだから、深々とお辞儀をする。

 足元を見ていた私の視界に大きな手が入ってきた。えっと思って顔を上げると私より背が高い筈のディーノさんの顔が下にあった。
 膝をついて私の手を取り微笑みをたたえて見上げてくる。

「こちらこそ宜しくお願いします、ハル様」

 ごくごく自然な動作で手の甲に唇を押し当てた。
 
 
 ……ぎゃああああああっ!!
 
 
 と叫ばなかった私を褒めてください!
 



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