▼page.9 フライアの力を無に帰すには、同じく神であるユリスの力が必要。 という事で絶賛血を抜き取られ中。貧血になりそうだし痛くて気が遠くなりそうだし。 「ブラッド……」 「黙れ、気が散る」 ブラッドはあれからもう一度がぶりと私の手に歯を立てて血を流させた。 とんでもない痛さに悲鳴を上げたのを煩そうに顔を顰めたヤツは 「血を地面に落とせ」 とわけ分らない事を言いやがった。 ぽかんとしてる間に、私の指から滴り落ちた地が土に吸収されていった。 その瞬間、私とブラッドの周囲にぐにゃぐにゃとしたミミズのような文字が囲んで円柱を作った。 「ッ!?」 なん、じゃぁ、こりゃぁ!! どしりと重力が増して立っていられない。上から何かで押さえつけられているようだ。 耐えられなくて座り込む。 押さえつけられているだけじゃなく、身体から力が抜けていっている感じがする。 頭がガンガンして視界が少しかすみ、血の気が失せて胃が気持ち悪い。 あれこれ貧血? 血流し過ぎただけ? そんな死にかけな状態で無理やり顔だけ上げると、鏡の置かれた地面からも魔方陣が浮かび上がり強烈な光を放ち、一瞬でそこに咲いていた花々は塵と化して土は抉れていた。 まるで焦土のようになった中でも鏡だけがその輝きを失わない。 ブラッドは鏡から目を離さずずっと術を発動させ続けている。 相当強力な術をぶつけているはずなのに鏡はビクともしない。まだ全然力が足りないんだろうか。 結構な力を搾取されたと思うし、ブラッドの身体にもかなり負担が掛かっているのに。 ブラッドの顔色もどんどんと悪くなっていく。眉間の皺がえらい事になっていく。 今ならコインを間に挟めるんじゃないかな。 どうでもいい事を考えているのはわざとです。ちょっとでも気を抜けば気絶してしまいそうなのよ。 多分、同じ円柱の中にいるんだから私と同じ症状になっているのではないかと思われる。 どうやったら立ってられんの? マゾなの、ドSだと思わせといてその逆属性なの? この苦痛が快感なの? ああ、ダメだ。座っているのもしんどい。寝ころびたくなってきた。 私の頭がぐらついたのが前を向いていたブラッドの視界にも入ったのだろう。 「おい気絶するなよ」 「も、無理……」 「意識がなくなれば力の供給が遮断される」 えええ、そんな事言われても! 既に朦朧としているのですが! 喋る元気もなくて目で訴えてみれば、ブラッドもチラリと私を一瞥した。 「鏡の破壊が失敗すれば更に事態は悪化する。ここに居る奴等全員死ぬぞ」 ただ事実を伝えるだけの言葉は酷く淡々としていて、切迫も危機感も感じなかったけれど。 だからこそ背筋が凍えた。 私を叱咤する為に言ったのではなく、紛れもなくそういった事態に陥るのだと伝えているだけだと理解出来て余計に怖かった。 「ブラッド……だいじょぶ、なの?」 「……やかましい」 声が掠れている。彼も相当体力消耗してきているようだ。そりゃそうだろう、力抜き取られても身体に影響は出ないって言われてたはずの私がこの状態なのに、この中でブラッドは鏡の破壊術を行使しているのだ。 「ブラッド」 何の意味もないのは分かってるんだけど、排他的なブラッドが珍しく頑張っているのに、私がへこたれるわけにはいかない。 そう思ったら自然と手が伸びていた。そっと彼の空いた方の手を握る。 ブラッドが、微かに笑った気がした。 前 | 次 戻 |