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「でもミラちゃんはどうやって鏡を取り返したの?」
「……この鏡で弟が何かしようとしてるんだと思ったから邪魔してやろうと……。お姉さんに適当に弟が悪巧み考えてるから捕まえてってお願いして、その間に森に来て盗った」
「ええええっ!?」

 わ、私ってば思い切り良い様に使い捨てられてんじゃん! どういう事!?
 異世界トリップなんて物語の主人公みたいな偉業を成し遂げといて、年下の女の子に踊らされちゃったよ!?

 てか嘘だったんだ! ミケくんが祭りを妨害しようとしてるとか言ってたのあれ嘘だったの!?
 酷い、猫不信に陥りそうだ……。

「……で、鏡の暴走のせいで魔物がうじゃうじゃ出てきたって事?」
「ああ。正確には人の欲と膨大な魔力に惹かれて魔物が集まってんだ。しかもハルがいるせいで事態が悪化した」
「ええええっ!? ま、また私のせい!?」

 強制的に連れて来られて、私がいるせいで魔物が寄ってくるだとか酷くない!?
 私が悪いんじゃないよね、王様のせいだよね!? 踏んだり蹴ったりじゃないの泣いてもいいかな……。

 がくりと崩れ落ちた私の隣で、ミラちゃんが絞り出すように言った。

「鏡をあんたに渡したら、どうにかなんの?」
「だから言ってるんだろうが」

 恐ろしく上からで横柄な態度でのたまったブラッドに、今までずっと大人しくしていたミケくんが耐えきれなくなったのか、シャーッと威嚇して飛びかかった。

 あっさりと前足掴まれて阻止されちゃったけど、グッジョブだよミケくん。

「ディー! もうダメ!」

 ずっと魔物を押しとどめてくれていたホズミが叫ぶ。
 花畑を囲むように魔物の群れがうようよと蠢いている。

「早くしろ!」

 切羽詰まったホズミと、追い打ちをかける様に迫るブラッドに押されてミラちゃんが鏡を彼に渡した。

「たく、手間取らせやがって」
「完全に悪役の台詞だからそれ……」

 ちっと舌打ちしながら鏡を受け取るブラッドは、どこからどう見ても悪役だ。
 
 パリンッ!!
 
 ガラスが割れるような音がして、ホズミが張っていた半透明のバリアが砕け、そのすぐ傍にいたホズミが雪崩込んできた魔物の群れに飲み込まれた。

「ホズミーーッ!!」

 咄嗟に地面を蹴って駆け寄ろうとした私の腕をブラッドが難なく掴む。

「ホズミは俺が助けます」

 ディーノが私の肩に手を置いて、ホズミが消えた方へと走って行った。
 振った聖剣が赤い光を放っている。

「魔物はあいつにやらせる。おい、猫の首輪を外せ!」

 これはミラちゃんに向かって。
 珍しくブラッドが焦った口調になっている。慌ててミラちゃんが首輪を外すとミケくんにかかっていた呪が解けて人型に変化した。

「自分の身は自分で守れ、そっちまで手が回らん」

 突き放すように吐き捨てると、ブラッドは私の手を引いてまた歩き出す。
 
「ちょっと! ブラッド!?」
「煩い黙れ」
「黙ってられるか! どこ行く気!?」
「どこにも行かん」

 ブラッドはぴたりと止まった。ミラちゃん達から少し離れた位置だ。
 彼が手を前へ翳すと、地面に青い円陣が浮かび上がる。

 もうこの世界に来てからお馴染みになりつつある魔方陣だ。
 そしてその青白い光の中にブラッドは無造作に鏡を放り込んだ。

「ど、どうすんの?」
「壊すに決まってる」
「こ、壊っ!? 出来るの!? 神器なんでしょ」
「だから、お前の力がいる。神の力を相殺するには神の力が必要だ」

 ブラッドが私の方を振り返った。

「ある程度の事は許すんだったな?」
「はへ?」

 何を言っているの? ときょとん顔を返したのにブラッドはニヤリと笑っただけでそれ以上説明はしてくれなかった。

 掴んでいた私の手を自分の口に持っていくと、ガブッと力任せに噛んだ。

「――ッ!?」

 驚きと激痛に声も出ない。反射的に手を引こうとしたけど強い力で握られていてピクリともしない。
 脈打つのに合わせてジンジンと訴えてくる痛みに涙が零れそうになった。
 尚も歯を立てるブラッドはドSって言うかもう鬼畜だ。ド鬼畜だ。

 そして、ついに零れてきた血を彼はあろうことか舌で舐めった。

「ぎゃああっ! 何してんの!?」
「お前の魔力は血から接種すんのが一番手っ取り早い」

 ひいい! だからって本人の了承もなく吸血行為っておまっ!
 うぎゃぁ、血って実はそんな綺麗なものじゃないんだよね確か。他人のを安易に口にしちゃいけないってなんか保健体育の時間に習ったような……。

 ブラッドが病気になったらどうしよう! え、私の血って病気含んでんの!? それかなりショックなんですけどー!!

 パニックで頭グルグルしてる間にブラッドは私の手から口を離していた。私の血で赤く染まった唇を乱暴に手の甲で拭う。
 
 そんな仕草に色気を感じてしまった私は一発鈍器で殴られた方がいいかもしれない。
 



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