▼page.7 毎日のように往復してるような気がする。ブラッドに強制連行されたのは森でした。予想してた事だけど。 もうこの足場の悪いけもの道にも慣れたよ。 ブラッドに私にディーノ、ホズミにミケくんにミラちゃん。ぞろぞろぞろぞろと、遠足ですかという感じだ。 この間も魔物さん達がちょっかい出して来てるんだけど、ディーノが片っ端から薙ぎ倒してくれています。 聖騎士ままさまです。 それにしてもです。それにしても何しに連行されたんだろう。 ブラッドが自分の行動の説明をしないのは今更だけど、この緊迫した状況でこれはないだろう。 「ブラッド! こっち来てどうすんの! みんな困惑してんじゃん」 「連れてきたのはお前だけだ。後のは知らん」 ええー!! いやあの状況じゃ普通みんなついてくるでしょ。そりゃそうでしょ。 あんなとこで取り残されたくないだろうし。 「じゃあ、私になにさせようっての」 「分かってんだろ」 分りませんよ! いやユリスの力目的だってのは分かってるけど、何の為に森に来たのかはやっぱり謎だ。 「別に何処だっていいが、町から離れて広いところに行く」 ああ、はい。じゃああのお花畑に行くのね? 大魔法とか使うんじゃないでしょうね、魔物を一か所に集めといてどかーんと一発ぶちかます気がじゃないでしょうね。 私巻き込まれ事故で死んじゃわない!? 大丈夫!? ブラッドならやりかねない。私の身の安全とか全く保障してくれなさそう。 うむ、みんなが来てくれて良かった。みんな一緒なら怖くない、多分。 花畑に着いた。ここで何するつもりなのか。ブラッド以外の全員が何処か不安そうな表情を浮かべている。 魔物の咆哮が聞こえて、ホズミが花畑を囲むように半透明なバリアを張った。これで暫くあいつ等は入って来れないらしい。 「おい、鏡を出せ」 前置きもなくいきなりブラッドがミラちゃんに向かって手を差し出した。 急に話し掛けられてきょとんとしていたミラちゃんだったけど、言われた内容を頭の中で反芻して理解したのか慌てて手に持っていた鏡を両手で抱きしめてブラッドを睨んだ。 「何のつもりか知らんが早くしろ、今更それをお前が持っていたってどうしようもないだろうが。事は既に起ってるんだ」 「ミラ」 彼女を諌めるようにミケくんが声を掛けると、不安そうにブラッドと顔を見比べた。 「ねぇあの鏡って」 「ええ。恐らく本物でしょうね」 傍にいたディーノにこそっと耳打ちすると、彼も頷いた。 ミラちゃんが大事そうに抱えているその鏡は、本物の神器らしかった。 鏡はミケくんとブラッドが隠し持っていたはずなのに、どうしてミラちゃんが持っているのか。 しかも話を聞いていると、ミケくん達が知らないうちに奪ったようだ。 「あんた達、これで何するつもりなのよ、渡したら悪い事に使うんじゃないの!?」 じりじりと後退するミラちゃんに、ブラッドは目を細めてふぅとため息をついた。 「悪事を起こしたのはお前だろう。こうならないようにとコイツが隠したってのに」 「何、それ……どういう」 「この鏡が何をするものかは知ってるな。術を用いた者の願望をそのまま現実にする……だが余程の術者じゃなければそんな大それたものは発動しない。それこそそいつの力でも使わん限りな」 クイと顎で示されて私は何となく姿勢を正す。みんなの視線が一気に集中して照れる。 「発動しないとはいえ、毎年祭りに使用されているんだ。どんどんと術者の願いと魔力はこの中に蓄積されていく」 この場合術者というのは舞台で女神役をする子の事だろう。 こっちの世界の人は必ず魔力というものを持って生まれてくるらしい。使えるかどうかは別として。 舞台に立ってこの鏡を持って祝詞を唱える。自覚はなくともそれは術を発動させるための儀式で、人間誰しも何かしらの願いっていうのは持っているのだから、実現こそされなかったが、鏡には何かしらの作用をもたらしていた。 儀式を行った者の中には魔力が大きい人もいただろう。それが徐々に蓄積され、もう鏡の許容量を超えようとしていた。 しかも今年は人間よりも魔力のある猫族の血を引くミラちゃんが抜擢された。 「術は発動するが、様々な願いと魔力でぐちゃぐちゃになったその神器は最早ただの魔具だ。ねじまがった人間の願望や欲望で染まったものを使えば、どんな暴走を起こすか分らん」 だから隠した。 方法はともかくとして、聞いてるとなんだかブラッドが良い人みたいな気がしてくる。 そうボソッとディーノに呟いたら、ブラッドにも聞こえたらしく小石を投げてきた。 おい! 当たったらどうすんの! 血みどろになったらどうしてくれんのよ! ディーノが剣で弾き飛ばしてくれたから良かったものの、あの人的確なコントロールで私の眉間を狙ってきやがった、許さん。 この地獄耳め! 前 | 次 戻 |