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 ほのぼのした展開にほっとして、漸く周囲に目を配る余裕が出来た。
 舞台を囲むように魔物がうじゃうじゃいる。一体どこからわいて出たのか。

「町の人は……」
「ソレスタ様が侯爵の屋敷に誘導しているので大丈夫でしょう」

 仮にも大賢者にして大魔術師のソレスタさんだ。多くの人を誘導するのは難しいかもしれないけど、上手くやってくれるだろう。

 なら私達は、この場を切り抜ける事だけを考えればいい。
 聖騎士ディーノに上位獣族のホズミがいるんだ難しい話じゃない。……非戦闘員三人というお荷物を抱えているとしても、大丈夫なはず。

「そうだ!」

 ぽむ、と手を叩いた。

「ディーノディーノ! 私の力ってディーノも吸収できるんだよね? 今こそちょっとくらいは私も役に立つ時だよね!?」

 今使わずして何時使うと言うのか!
 聖剣の威力の賜物なのか、一定の距離を置いて魔物達は近づいてこない。しかし離れて行く事もせずにこちらの様子を窺っている。

「ハル……?」

 ぐいぐいとディーノの裾を引っ張ると、彼は少し焦ったように私を振り返った。

「えっと、どうやるのが効率よく力供給出来るの? 緊急事態なのである程度の事は許します、ばーんとやっちゃって下さい」
「ハル! 冷静になってください!」
「なれるか馬鹿ぁ!!」

 あんな奇妙奇天烈なエグイ形(なり)した魔物さん達に囲まれて四面楚歌状態で、どうやって落ち着けというのか。

 私はディーノと違ってこういった緊急事態に慣れてないんだよ!

 聖剣のお陰で今は大丈夫でも、いつまでもこのまんまってのは無理だ。

 戦うとなったら実質ディーノが一人で相手しなきゃいけない。ホズミも数に数えたけど、まだ子供のホズミじゃサポートが精一杯。

 だから少しでもディーノの体力をつけておいた方がいい。

 確かブラッドの話だと私のユリスの花嫁としての力(略して嫁力)は無限で吸収し放題だし私はどんだけ取られても痛くも痒くもないって言ってたはず。

「ディーノ! これがブラッドだったら迷いなく搾り取ってるよ」

 禁断の台詞チョイスをしてみました。勿論わざとです。
 これがまぁ想像以上に威力があったようで。

「あいつが、なんですか? 何をするって? 何されたんですか?」
「あ、いや、されたとかされてないとか、そういう」
「だったらどうしてあいつが出てくるの」
「あの、ごめ」
「どうして謝る?」

 ひぇえん! こんな地を這うような声の低さ初めてだよぉ!
 しかも口調まで変わってきてますディーノさん怖い! 予想以上の食いつきに泣きそう……。

 ミケくん達なんてやっと治まってきた震えが再発したのが手から伝わってくる。
 ホズミも私の腕に巻きついて必死で隠れようとしてるし。

 ディーノさんよ、どうかその怒りは魔物達に向けてくれまいか。

 起爆剤的な意味合いで投入したブラッドの名はむしろ誤爆に近かった。しなくていい大けがを負ったような気がする。

「うう、ブラッドのバカァ!!」
「おい他人(ひと)のせいにすんな」

 泣き言ついでに八つ当たりしたら見事に本人に聞かれたという。

「え、ブラッド!?」

 近くで凄んでいるディーノから視線を逸らしたら、少し離れた所にいつもながらの黒のローブに身を包んだプラチナブロンドの男が佇んでいた。

 ブラッドが手を翳すと空中に幾つもの魔法陣が浮かび上がった。
 それらが四散して魔物達の方へと飛んでいく。

 稲妻が落ち、氷結が飛んできて、炎が大爆発を起こし……
 轟音に耳を塞ぎながらも私達は唖然としながら見守るしかなかった。

 ディーノでさえもポカンとただ見ているばかりだ。

「ユリスの力は魔力に直結する。まともに魔術の扱えないそいつに与えても持ち腐れだ」
「え、そうなの?」
「誰が魔術を使えないと言った」
「碌な魔力持ってないだろうが」
「あれでもディーノ、身体がふわってなるヤツ使ってたよね?」
「だから、んな子供だましみたいなのしかコイツは使えん」
「剣も握れん奴が偉そうな事言うな」
「問題を擦りかえるな」

 …………。うーん、なんだろうこれ?

 魔物が居なくなって緊張感が無くなったからか? いやこの人達はそんなの気にしないよな。
 しかしいがみ合ってる割にはポンポンと言葉の応酬が続くってのは流石というか。

「んな事よりも、早く場所を移すぞ」
「移すって、どこ行くの」
「ついて来い」

 答えになっておりませんブラッドさん!

「ちょっと!」

 腕を引っ張られて、どこか迷いなく歩いて行くブラッドに半ば引き摺られながら、彼の目的地とやらに向かう事になった。




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