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 飛び出したミケくんを追って舞台に出ていいのかどうか悩んで、おろおろと左右を見渡す。

 猫なら仕方ない事故としてみんなそれ程は怒らないだろうけれど、私が今舞台に飛び込んで行ったら「おらお前邪魔だすっこんでろ!」って野次飛ばされそうだし。
 い、いた、うわやめ! みたいな事態にはなりたくない。

 そう迷っていると
 
 ドオンッ!!
 
 爆音が轟いた。地面が激しく揺れて、立っていられず前につんのめった。

「じ、地震!?」

 ていうか、ちょっと前にもこんなんありませんでしたっけ?
 何時だったっけなぁと頭の片隅で考えながら、どうにか体勢を持ち直す。

 一体何が起こったんだろう。さっきとは比べ物にならないくらい大きなざわめきが周囲から聞こえてくる。

 いや、ざわめきなんて生易しいものじゃない。悲鳴だ。
 
 慌てて舞台を振り返って目に飛び込んできたのは、無数の魔物だった。
 心臓が掴まれたような衝撃を受けて息が止まる。
 瞠目して硬直してしまったが、呆けている場合じゃない。
 
 舞台の上で突っ立っているミラちゃんと、彼女を庇うように立って毛を逆撫でてるミケくん。
 絶叫しながら散らばっていく町の人たち。

 上空を旋回する翼の生えた牛のような二頭の魔物と、ガリガリに痩せこけて骨と皮だけになったハイエナのような獣が四匹。

 細長い舌を垂らした馬の頭部に身体はゴリラみたいなのが数頭、遠くの方からじりじりとにじり寄ってくるのが見えた。

 咆哮を上げた馬? ゴリラ? どっちでもいいわ! 魔物がミケくん達へ一直進に突進してくる。

「ミケくんミラちゃん!!」

 叫ぶと同時に二人の元へと駆けだした。
 考えちゃダメだ。頭で考えちゃったら足が竦んで動けない。逃げ出したくなる。

 だから何も考えずにただあの姉妹のところへ行くんだとだけ脳に命令した。

 考えるんじゃない、感じろ! なんかこれ違うけど! もう何でもいいよ、とりあえず恐怖心を頭から追い出せるなら!!

 こんなもの役に立たないと分かっていながらも、近くに転がっていた、舞台の組み立てに使ったのだろう鉄の長い棒を手に取った。

「二人共突っ立ってないで避けて!!」

 ああもう、これだから猫ちゃんは! すばしっこいはずの猫達は、状況について行けずに呆然と立ち尽くしている。

 私の声に先に我に返ったのはミケくんで、猫の小さな身体でミラちゃんに体当たりして横に倒れさせていた。おおやるな!

 それを見届けて、鉄の棒を握る手に力を込めて、走るスピードを加速する。

 近付くと予想以上に大きかった魔物に色んな後悔が競り上がってきて、恐怖心を殴り飛ばす勢いで棒を野球のバットの要領で振った。

 見事な当たりでした。真正面を捉えた球は伸びがよかった。
 私が打ったのは魔物ではなく、魔球です。いやいやいや、ジョークなんて言ってないよ、そんな余裕ないもの!

 客席にいたホズミが魔術の球を魔物に向かって投げたのを私はばっちりと見ていたのです。
 でも猛スピードで突進する魔物に軌道が逸れてしまっていた。

 だから私はその球の方へと走り、鉄の棒でカキーンと打ったというわけだ。
 魔術の球、略して魔球。消えてはいない。

 打った球は綺麗に進行方向を変えて魔物に当たり、ぶつかった瞬間に爆発した。
 耳に痛い断末魔をあげながら魔物が消滅していく。

「すっげぇ!」
「なに、呑気な事言ってるんです。どうしていっつも真っ先に飛び込んで行くんですか貴女はっ!!」

 客席の方から舞台の上へひょいと軽い身のこなしでやってきたのはディーノ。
 聖剣で群がってきた魔物達をばっさばっさと斬り倒しながらも私への小言は忘れない。

 小姑……いえ、嘘です。そんな風に思った事なんて一度たりともございませんよ。

「ご、ごめん、居ても経ってもいられなくて」
「ちょっとでいから大人しくしていて下さい」

 吐き捨てるように言われてへこんだ。まさかディーノにそんな風に言われるなんて……。
 どういうこったい、私がまるでお転婆娘みたいな言い草じゃないか。決してそんなんじゃない。
 違うはず。生まれてこの方そう言われた事ないし自覚もないし。
 
「あ、あ、ミラちゃんミケくん大丈夫!?」

 寄り添って震える姉弟に駆け寄ってミラちゃんの肩にそっと手を置いた。怯えてはいるが怪我はしてないようだ。

 ホズミも私の傍まで来てぴとりとくっついてくる。く……っ! 鼻血が出そうなくらい萌える!




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