はるうらら
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春は曙やうやう白くなりゆく山際

と、言っているが白くなりゆくのは山際では無く半端な建築物たち。
中途半端なアパートやマンション、ビルの間からゆっくりと太陽が頭を擡げ始める。
その様子を、窓からぼんやりと眺める彼は、自室の時計と外を見比べていた。

(…やっべー、早く起きすぎた…でも寝れねぇ…)

仕方ない、とひとりごちながら彼はベッドから降り、くしを手にとってふわふわのネコッ毛を梳かし始めた。
肩の上まで伸びた髪を、後ろ上半分だけしばり、髪型を整える。右上にアホ毛が出来てしまうのはもう諦めていた。

顔を洗おうと洗面所に向かうと、その足音で彼の母が起きた。とても眠そうな顔をしながら、訝しげに顔を洗う彼に話しかける。

「…和樹、まぁだ5時よ…遠足じゃないんだから…」

「わ、分かってるよ!ちょっと眠れなくて…」

「今日から始業式なんだから…」

ちゃんと睡眠をとりなさい、とだけ母は言って和樹を残しまた眠りについた。
それもそのはず、母は出張から昨夜帰ってきたばかりでいくら寝ても寝たり無いのだ。
それを和樹も分かっているため、小さく 起こしてごめんと呟く。

そんな母のために、自分が美味しい朝食を作ってやろうと台所へ立った。

朝日が彼の瞳を照らし、色素の薄い髪を輝かす。

彼の名は松本和樹。
今日から高校2年になる。
クラス編成と友人との掛け合いを楽しみにする、ごく普通の男子高校生であった。



(…まずい、これはまずい)

自分の席に着き、頬杖を着きながら内心焦る。
和樹は安全にここまで(教室)辿りついたのは良いが、早朝起床が祟って、非常に眠たい。
気付けば瞼が落ちている。そしてはっと目を開けるも、やっぱり瞼は落ちている。

さすがに、始業式早々眠る訳には行かない。
担任によってはかなり叱られる危険性がある。

和樹は脳内で、怒鳴られることをシミュレートし、何とか起きようと努力した。
その時、背後からいきなり肩を叩かれる。

驚いて振り向くと、そこには見知った顔。

「はよ、和樹!今年も一緒のクラスだな」

「よ、稔。ここまで来ると腐れ縁だな!」

それもそうだな、と言いながら太陽のように笑う彼は、和樹の親友兼幼馴染の 牧田稔である。
五十音順の出席番号のため、稔は和樹の席の前になった。
稔は自分の席に着き、楽しそうに振り向く。

「なぁなぁ、聞いたか、このクラスレベル高いンだってさ」

「えー…?A組のが頭いいじゃん、国公立大っしょ?」

因みに和樹と稔はB組。私立大・短大・公務員コースの中の上を集めたクラスである。
隣のA組は文字通りエリート集団。
そんなクラスに向かってレベルが高いぞうちのクラス発言はどうか、と和樹は呆れた。

しかし、呆れたのは稔の方。

「ばっか、お前なぁ 頭のこと言ってンじゃないの。か、お。顔面レベルの事だよ。…ほら隣」

急にこそこそ、と話かける彼に耳を傾けながら、和樹は自分の隣にいる2人の人物を見た。
1人は出席番号上、隣。
もう1人はその彼女の親友だった。
実際、どちらともクラスは去年一緒である。

「お、また南さんと夏目さんと一緒か」

「な、あれらを初め可愛い子揃いだってよ」

淡く腰まで届く長い髪を揺らし、穏やかな顔つきをしている彼女の名は南 美華。昨年も同じクラスで、和樹は時たま仲良くしていたため、顔が綻んだ。
彼女とは相性が良いらしい。
そしてその親友はというと。

「…な、夏目さんかぁ…南さんは嬉しいンだけどな」

夏目 由夏。
キリとした印象の顔つきは、確かに美人である。仕事の出来そうな感じの。
同じく腰までとはいかないが、長い髪は真っ黒で艶があり典型的な日本の美と言えよう。
しかし、和樹も稔も若干彼女が苦手だった。
なぜならば。

「…聞こえてンだけど」

「ひぐっ、」

ギロリ、と此方を睨む目は蛇のよう。
和樹と稔は思わず身を竦ませる。
その様子に美華が「やめなよ由夏」と諭すも、全く聞く耳持たない。
ゆっくりと彼らに近づき、本人にとってはだが、軽く彼らの頭にチョップを落とした。
痛みに悶える2人に、制裁を下す。

「悪かったね、苦手な女と同じクラスになって」

「いえ、その、滅相もございません…」
「はい、えっと、嬉しいです…」

急いで取り繕う彼らに、とりあえず許す気になったのか、由夏は鼻で笑いながら自分の席に戻った。

「ごめんね2人とも…ちょっとはしゃいでるだけだから許したげて」

そんな直後に天使の微笑み。
思わず2人の頬が緩むが、そのまた直後に蛇の睨み。
大変なツキが回ってきたな、とこそこそ言い合いながら時間が過ぎるのを待った。



チャイムが鳴り響き、皆席に着き前を向く。
入学式と始業式というイベントごとなのに、なぜか朝学習が配られているのだ。
去年やった内容と言えども、このうえなく面倒臭い。
皆ため息を吐きながらやっていた。
1人を、除いて。


(やべぇ…!なんで朝学習とかあんのこれ…やば、眠い、起きろ俺…)


睡魔に襲われまくる男が1人、いた。
よりによって現代社会。睡魔は強まり、なかなか手も進まない。
終えたかと思い見直すと、睡魔のために大変意味の分からない答えになっているのでまた直す。
その繰り返し。

しかし、とうとう 睡魔が勝ってしまった。

和樹は意識を失うかのように、ゆっくりと机に伏せ、寝息を若干立てる。


「お、席着いてやってンな…よし、起立」

チャイムより遅れてやって来た担任にも気付かずに、気持ちよさそうに彼は眠りに落ちた。

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