めがね
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「通算4回の補習お疲れ様ー」

放課後、誰も居なくなった教室で和樹は自分の机に突っ伏していた。
稔がからかいながら言う言葉も聞こえないのか、ぐったりと動かない。

そう、結局1ヶ月の間、和樹は4回も授業中寝てしまい、その度に魚往の補習を受けるはめになったのだった。
記念すべき4回目が今という訳である。


「もう、…」

「ん?」

ゆっくりと和樹は起き上がる。
その不思議な空気に、稔は笑みを引きつらせた。
幼馴染としては分かっているのだ、この空気。


「いやだぁああ!何なんだあの教師はよ!俺ばっかり、俺ばっかり!ぜってぇこれイジメだし!」


爆発、である。
と言っても本気で怒っている訳ではない。
それは嘆きに近かった。
稔は何とか彼を宥めようと細い肩を掴む。

「まあまあ、きっと気に入ってるンだって!やったな!」

「よくねえ!」

ぐわ、とその辺の男子よりは綺麗な顔が歪みに歪みまくる。これが無ければ彼女の1人や2人出来るだろうに、と稔は自分の事を棚に上げて哀れに思った。
が、しかし。
直後またその顔が歪む。
意地悪に、笑っていた。

「…俺は思いついた」

「何をだい」

その表情に稔の微笑が引きつる。
あまり見たことの無いその顔に、稔は内心魚往に「逃げろ」と訴えた。

直後、和樹は見たことも無い爽快な笑顔で思い切り立ち上がり。
だん!と大きな音を立てて椅子の上に片足をあげ、拳を天に突き上げた。
リアルにそんなポーズをとらなくとも、と稔が言いかけた時、少年特有の声で楽しそうに和樹は、宣言。



「魚往先生をー!ぎゃふんと言わーす!」



「むりだろ」



爽快に叫んだ和樹に、冷静な突っ込み。
ぴたり、とその場の空気が凍った。
これでおそらくすごすごと諦めるだろう、と思ったが意外にも和樹の決心(もしくは恨み)は硬いのか、すぐに体勢を整え椅子の上から降りた。

そして腰に手をあて、きらきらと瞳を輝かす。


「いける!俺補習中考えたし!」

いや、補習をちゃんと受けろよ。そう言いたかった稔だが、親友のために口を噤む。
そのおかげか、和樹は更に瞳を輝かせて、早口でその作戦とやらを稔に告げ始めた。

「その1、くすぐる!」

「…え!?」

ただのコミュニュケーションに近い。
元々考えが柔らかい方の和樹。稔はもっとお礼参りとか、靴の中に画鋲とかそっちの方を考えていた。そんなことを考えていた自分に、ちょっとへこむ稔。
だがそんな稔に気づかない和樹は、その作戦を説明し始める。


「先生が向こう向いてる間に、こっそり後ろから近づいて脇腹くすぐる!あの先生普段からベストとか薄着だからいける!」

「向こう向いてるってどんなときよ?」

「…それはー」

にこ、と天使のような悪魔のような笑みを稔に向けた。
思わず、一時停止する稔。
だが間髪入れず和樹は稔の肩を叩いて「よろしく!」と朗らかに笑った。

まさかの協力援助要員になっていた自分に、稔は口をあんぐりと開けた。
だが、それはそれで面白い。
元々根っこが明るい性格なのだ。こういった楽しいことは好きである。


「いきますかー」

「おう!」


和樹の復讐(というのかは分からないが)に、2人は意を決して魚往がよく居座っていると聞く歴史資料質へと足を向ける。


放課後、薄暗くなる直前の廊下に。

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