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とりあえず、職員室に行って居るかどうかを見てみようという事になり、和樹と稔はこそこそと職員室を覗き見た。

2年担当用職員室は、他のクラスの担任教師や副担任が居る。
もちろん、2年B組担任の魚往の席もちゃんとあるのだが、


「…居なくない?」

稔がきょろきょろと大きめの瞳を動かしてみるも、どこにも魚往の姿は無かった。
あんなスラっとして、全身黒に近い男性など一発で分かるはずなのに。
どうやら職員室には不在らしい。

和樹は「どこにいるンだろう」と、不服に唇を尖らせて職員室を後にした。
その後ろを呆れながら稔も着いていく。
後ろで束ねた茶色の長い髪が、ぴょこぴょこと揺れているのを見ながら。


ふと、稔は今更ながら思い出した。
最近体育館で魚往を見かけることを。


「そういやさ、魚往先生ってバスケ部の副顧問らしいけど」


この学校の体育館はとても広い。
実質第三体育館まであるのだが、稔たち卓球部と男子バスケ部は同じ第二体育館を半分ずつ使っている。
よって、男子バスケ部には誰がいるどんな状態などの内情は把握済みだ。

しかも、最近自分の担任が男子バスケ部の副顧問として監督しているのなら尚更。

見た目もいいし、教師だし、運動も出来る。
あのちょっと怖い性格が無ければ、完璧極まりない男だと稔はがっくりと肩を落として再認識した。


しかし、逆に和樹は胸を張って、鼻息をひとつフン!と吹いてやる気満々。


「よし!体育館に行って後ろから…!」


くすぐってダッシュで逃げる、と何と計画性のない策略を口に出しながら、和樹は早足で第二体育館へと向かった。
イタズラっ子のような笑みは、普段の女顔を少年らしく変えさせる。
にへにへ笑いながら、何をそんなに楽しいのかちょっとスキップをしていた。

和樹は、何だかこれから魚往にイタズラを仕掛けるのが楽しみにで仕方なかったのだ。
いっつも補習させるし、出来が悪いと「お前の頭の配線が気になる」と意地悪を言うし、寝ていると容赦なくチョップが飛んでくるのに。

正直言って、和樹は魚往のことが大分苦手なのだ。

それなのに、楽しみになるのは何でだろうとちょっと疑問に思いながらも、それは鬱憤を晴らせるからだ!と自分に納得した。
あの憎たらしい男前(ちょっと童顔)がどう困る顔になるのか。
特にサディズム的思考は無い和樹だけども、思わず腹の中で笑ってしまった。


親友ながら、よく分からないなとにへにへ笑う和樹を、稔は乾いた笑みを浮かべて見つめた。


すると、前方から2人を見つけた大人が小走りで2人に近づいてきた。



「よ、和樹に稔。2人してどうした?」


和樹がハッと見上げれば、そこには化学教諭の永野がひらひらと手を振って目の前で微笑んでいる。
第二体育館に行くには、まず化学実験室を通るのだ。
会っても何ら不思議では無いのだが、面倒くさい人物に会ったものである。

うっかりするとまた荷物運びをやらされかねないので、和樹は「特になにもー」と誤魔化して横を通り過ぎようとした。が、しかし。


「ツレないなぁー和樹ィ」

「ぎゃあ!」

がしっと腰を抱きこまれ、ひょいと背中から抱っこされる。
高校2年にもなって年上の男性に抱っこされるなど、プライドが傷つくばかりだ。
和樹は「離してくれー」と緩やかに抵抗するが、永野は気にせずサラふわな髪に鼻を押し付ける。
シャンプーが母親と同じなのだろう、相変わらずいい匂いがするなぁと永野はへらへら笑った。

一方、後ろにいてその様子を冷ややかに見つめる稔。
これでは、魚往先生に会いに行く前に化学室へと引きずりこまれそうだ。

そう第三者の立場的に思っていたのに、


「お?稔もいるのかー」

永野は和樹を降ろし、がしっと稔の腕を掴んだ。
もちろん、和樹の腕も掴んで。
まさか自分に矛先が向けられると思っていなかった稔。

「へ?いや、いません!うわ!」

思わず変な回答をしてしまったが、永野はけらけらおかしいと笑うだけ。
永野は和樹と稔をずるずると引きずるようにして、化学室へと連れて行こうとする。
やだやだと2人とも抵抗はするが、2人とも細い上に小さいので体力があまり無い。
加えて永野は体格も良く、昔やんちゃしてた噂があるので、意外と真面目な2人が敵う訳が無い。


「実はな、昨日買っ…じゃなくて、女子生徒に貰ったケーキがあってな!食おうぜ」


食べ物で釣ろうとしているのか、それともただ単に1人でケーキを食べるのが寂しいのかは定かではないが、2人はそんなにケーキに興味は無い。


「俺はハバネロチップスのが好きだから遠慮しとく!」

和樹は辛党。

「俺は腹いっぱいだからー!」

稔は先ほどカロリーメイトを食べたばかり。

しかし、永野は強引に化学室(の隣である準備室)に続く階段の前まで連れてきてしまった。
遠ざかる体育館。和樹は思わず、


「う、魚往先生〜…」

掠れた声で彼の名前を呼んでしまった。
ぴたりと永野の動きが止まる。

「え?魚往先生に用事あったのか」

しめた!とばかりに和樹はぱあっと表情を明るくさせた。永野と魚往の関係は知らないが、先生に呼ばれていると嘘を吐けば逃れられるかもしれない。
しかし、向かう所は体育館。
体育館に呼び出しなど到底ありえないことに気づかれたら最後である。
永野はとてもチャラけているが、噂によるとIQがとても高いらしい。下手な嘘は見破られる。

ので、


「えと、魚往先生に会いたくて」


総じて言えばそうかもしれないが、あまりにも簡略しすぎて何だかファンのような回答をしてしまった。


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